ほぼ完成していながらもお蔵入り
顧客が募らすワンチップへの不信感
このSiS680、出ていれば面白かったのだろうが、残念ながらES(Engineering Sample)の出荷前に開発中止、製品そのものがキャンセルになってしまった。理由は2つで、インテルの方針転換と、顧客の反応である。
インテルの方針転換とは、Core iシリーズでノースブリッジ機能を全部統合してしまい、CPUインターフェースをFSBからDMIに切り替えたことだ。インテルはこのDMIに関してライセンス提供を一切行なわず、結果として互換チップセットが生き残れるのはCore 2世代までとなってしまった。
もっともインテルは、最初のCore iシリーズでは製品構成上の問題※2などからPentium/Celeronへの適用を見送り、引き続きWolfdaleベースの製品を提供していた。これらがSandy Bridgeベースに切り替わったのは2010年9月のことなので、2010年頃まではSiS680が生き残れる可能性もあった。
※2 GPU統合を45nm世代で実現できず、Lynnfieldでは32nm GPU+45nm CPUとMCM構成になってしまった。
ただこれは結果として言えることであって、2007年の時点ではCore 2ベースの製品は2008年中にすべて消えてしまうという観測がなされていた。こうなると、たとえ作ったところでどこまで市場が取れるのか非常に怪しいと判断されても仕方がない。
もう1つは、ワンチップに対する顧客のアレルギー反応を完全に払拭しきれなかったことだ。今回はSiS630と異なり、ノースブリッジとサウスブリッジを完全に一体化した形で製造予定だったが、それをよしとする顧客はほとんどいなかったと聞く。もちろん顧客の側にも言い分はある。
上の画像を見比べていただくとわかるが、2006年の時点では「SiS672」シリーズが、Mirage 4を統合した形で2007年前半に量産に入る予定だった。2007年の時点では確かに「SiS672FX」や「SiS671」などが量産に入ったものの、搭載されているグラフィックコアはMirage 3+という謎のものに変わり、Mirage 4はSiS680が投入される2007年第4四半期に延期になっている。
要するに、Mirage 4の開発に予想外に手間取ったため、SiS672はMirage 3コアの動作周波数を引き上げてお茶を濁したのある。こうした状況はSiSの顧客に筒抜けで、SiSの技術力が顧客に信用されないのは仕方がない。
結局SiSは、SiS680シリーズと、続いて投入予定だった「SiS665」や「SiS673」シリーズ、あるいはAMD向けに2008年第1四半期に提供予定だった「SiS757」や「SiS772」といったノースブリッジ、それとやはり2008年第1四半期に提供予定だった「SiS969」というサウスブリッジをすべてキャンセル。以後はすでに量産に入っている製品のみを提供するという方針に切り替えた。
実はこのSiS680、COMPUTEX TAIPEI 2007が開催される時期には、ESとして提供する前段階にあたるファーストシリコンはすでに完成し、バックドアでOEMに動作デモなどを行なっていたそうだ。その意味ではほぼ完成しながら闇に葬り去られた可哀想な製品である。SiSのチップセットビジネスに幕を引くことになった、最後の製品のなりそこないが、このSiS680であった。
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