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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第195回

チップセット黒歴史 ほぼ完成しながら闇に葬られたSiS680

2013年03月25日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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AMDによるATIの買収が
SiSに思わぬ特需を与える

 そんなSiSへの救いの手は意外なところから現れた。それは2006年7月に行なわれた、AMDによるATIの買収である。この結果として、ATIが持っていたインテル向けチップセットビジネスは急にストップすることになった。ところが、この措置はインテル自身をも苦しめることになった。

 2005年から2006年にかけ、インテルは945チップセット全体の供給能力不足に陥り、特にバリュー向けの945Gや945GZに関しては十分な数を市場に送り出せなかった。当のインテル自身が、バリュー向けのMicro ATXマザーボードである「D101GGC」に、ATIのRadeon Xpress 200を採用したことからもこれがうかがえる。

インテル純正ながら、ATI製チップセット「Radeon Xpress 200」を搭載するマザーボード「D101GGC」

 ところがATIの買収が決まったことで、同社はD101GGCを直ちに発売中止とした。さすがにインテルとしても、AMDのチップセットを搭載したマザーボードの発売はできなかったのだろう。だからといって、自社ではチップセットを賄えない。結果、SiS662を搭載した「D201GLY」がD101GGCの代替品という形で発売されることになった。

 実際、AMDによる買収が決まった瞬間に、インテル向けのRadeon Xpressシリーズの採用を中止したベンダーは多い。ところがインテル自身のチップセット供給能力不足がしばらく続いたこともあって、SiSには特需が生まれた。

 ただこうした特需は長くは続かない。インテルは続く965シリーズで供給能力を強化したため、再びSiSへの需要は減ることになった。一方のAMD向けも、ATIの買収に伴い自社でチップセットを賄えるようになったため、急速に需要が減った。

 2006年はそれでも後半にはインテル特需でカバーできたが、2007年に入るとその効用も薄れてきた。ATIの持っていたインテル向けチップセットの市場は、結局インテル自身がカバーするようになってきたからだ。加えて2006年11月、ついにNVIDIAがインテル向けのライセンスを取得し、nForce 600シリーズがハイエンド~ミドルレンジ向けに投入されることになってしまい、いよいよSiSには厳しい局面となった。

あらゆる面でコストダウンを図る
SiS680シリーズ

 SiSの歴史を理解したところで、2007年6月に示されたロードマップを見てみよう。下の画像が、2007年のCOMPUTEX TAIPEIで公開された同社のインテル向けロードマップである。

2007年のCOMPUTEX TAIPEIで公開された、SiSのインテル向けロードマップ。パフォーマンス向けに若干の未練があるのか、2008年第2四半期にはSiS665なるチップを投入する予定になっていた

“Single Chip”とあるように、ノースブリッジとサウスブリッジが統合されたワンチップ構成である

モバイル向けもほとんど同じ。M680SCMというモデルが追加されているだけだ

 まず2チップ構成のものに関しては2007年中は新製品を出さず、2008年まで先送りになっている。その代わりとして2007年第4四半期に投入予定だったのが、SiS680シリーズである。単にデスクトップ向けのみならず、モバイル向けにも若干ラインナップを変えて投入する予定だった。

 このSiS680シリーズの構成をまとめたのが下の図だ。SiS630シリーズで一度は否定されたワンチップ構成であるが、インテル向けチップセットのハイエンド市場では勝負にならない。そして、メインストリームからバリュー向けの市場でなんとかシェアを獲得するためには、どうしても価格面での強みが必要であり、そのためにはワンチップ化しかないと考えたようだ。

メインストリーム向けにである「SiS680SCE」の構成図。FSBは当時まだ1600MHzがなかったので、1333MHzまでだ。キーボード/パッドは外部コントローラー経由でLPCに繋がるので、右の「SiS680SCP」と比べても、チップセット自身に差はない

デスクトップのバリュー向け、およびモバイルのメインストリーム向けである「SiS680SCP」。SiS680SCEとの違いは、FSBが800MHzまでなこと、Celeron MやCore Solo/Core Duoをサポートすること、ビデオ出力にLDVSをサポートすること程度だ

 図を見ると、ピン数削減のためかPCIバスすら省いており、必要ならば「SiS171」というPCI Express/PCI Bridge経由でPCIを出すという割り切りようである。またメモリーに関しても、DDR2の1チャンネル構成とすることで、システムコストを下げることを前面に打ち出した、いろいろな意味で意欲的な構成である。

 もっともこの1チャンネルに関しては、当時のSiS担当者曰く、「Core 2 Duo/QuadのハイパフォーマンスCPUであれば、1333MHz FSBなので帯域のミスマッチがある。ところが、Celeronなどのグレードならば、800MHz FSBなのでDDR2-800でちょうどマッチするし、1066MHz FSBについてもDDR2-1066をサポートしているので、マッチさせることは可能」という話だった。つまり、一応パフォーマンス向けも可能ではあるものの、事実上はバリュー向けに絞った、ということである。

 また内蔵するグラフィックは、それまで使われてきたMirage 3に代えてMirage 4にアップグレードされる予定だった。もっともMirage 4の構成は2パイプラインで動作周波数も250MHzと低いので、競合するIntel G965に内蔵されていたIntel GMA X3000と比べるとかなり見劣りする。

 ただし、その代わりといってはなんだが、Intel G965は当初からDirectX 10対応“予定”を謳いながら、最終的にはDirextX 9止まりのサポートだったのに対し、Mirage 4は当初からDirectX 10をサポートするはずだった。おそらく3Dゲームは性能面から非現実的だろうが、Windows Vista上でAeroがしっかり動く程度ならば問題はなかっただろう。

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