SiSチップセットの歴史 その1
台湾御三家のSiS、ファブレス脱皮を目指して迷走す
2010年05月24日 12時00分更新
チップセット台湾御三家第2弾は、SiSのチップセットを振り返ろう。まず簡単に、SiSの歴史などをまとめておく。
チップセット業界では古参のSiS
同社はもともと、1987年に台湾で創設されたファブレス半導体メーカーである。もっぱらファウンダリー(半導体の製造事業者)には台湾UMC社を使っており、PC分野には当初からチップセットを投入している。もっとも時期が時期だけに、このあたりは製品のスペックはおろか、製品そのものの有無すら現在は確認できなくなっていたりする。
当時は「SiS411」「SiS420」「SiS431」というISAベースのSocket 3(つまりIntel 486向け)チップセットをリリースしていた。さらに、これらにVL-Bus対応を追加した「SiS461」や「SiS471」ファミリー、「SiS469」といったチップセットをリリース。さまざまなマザーボードベンダーが、これらを使ったマザーボード製品をリリースしていたことは辛うじて確認できる。だが、これですべてかどうかは、「さっぱり分からない」というのが正直なところだ。
ちなみに、この時期の競合ベンダーはインテルのほかに、米OPTi社とかChips &Technologies(C&T)といったあたりになる。しかしOPTiは2000年に業績が悪化。2002年に製造部門をOPTi Technologies社に分離し、自身は特許保有会社(事実上パテント・トロール)になってしまった。他方でC&Tはと言うと、1997年にインテルに買収されてしまっている。もっとも、SiSとほぼ同じ時期にAcer Laboratories Incorporated(後のALi/ULi)が製品投入を始めたりしているから、当時のベンダー数はかなりのものであった。
自社ファブを巡りUMCと対立の末、吸収合併に
話を戻そう。SiSはその後、引き続きPentium用のチップセットを製造・販売した。さらに、インテルからいち早くSlot 1/Socket 370用のバスライセンスを受けて、P6互換チップセットと、AMDのK7用チップセットもリリースした。さらにはPentium 4世代のP4バス用やK8用チップセットもリリースするなど、積極的に製品展開を進めてゆく。このあたりはVIAやALi/ULiと同じようなものだが、SiSはここからもう一歩踏み出そうとした。
最初に書いたとおり、当初のSiSはファブレスのベンダーだったが、やがて自社ファブ(製造施設)を建設するという決断を下す。2000年第2四半期には自社ファブで製造されたパイロット製品が流れ始め、2001年には250nmプロセスと180nmプロセスの量産が始まる。さらに2つの12インチウェハーの製造ラインを建設する計画まで立ったほどだ。
ところが、この動きがUMCの猛反発を喰らう。まずファブ建設を始めた2000年にSiS向け製造を止められてしまい、製品供給がショートする騒ぎになる。また、SiSはファブ建設に際して、UMCからだいぶ人材を引き抜いたようで、これに伴う特許流出でUMCから訴えられ、2001年には米国で販売差し止め訴訟まで起こされた。そのためSiSのチップセットを搭載した製品は、米国で販売できなくなってしまった。
最終的にSiSは、12インチウェハーの製造ライン増設を断念。ファブ部門はSiS Microelectronics(SMC)として分社化のうえ、UMCに買収されてしまった。そのうえSiS自身の発行済株式の3分の1をUMCに握られ、SiSの取締役会長と社長にUMCの取締役副会長と上級副社長が就く、という形でUMCにより事実上吸収合併されてしまう。
この吸収合併直前のSiSのロードマップは凄まじかった。すでに稼動している8インチのラインに加え、新たに12インチのラインを2本増設するわけだから、このウェハー生産量に見合うだけの製品を販売しなければいけない。それまでのSiSはどちらかといえば、バリュー向けに低価格・低機能な製品ラインナップを用意するという方法論だったが、これだけでは爆発的に増える生産量をカバーできない。
そこでメインストリームやハイエンド向けのチップセットを用意したり、グラフィックス向けにも積極的に展開を考えていた。次回でもう少し細かく触れることになるが、当時インテルはDirect RDRAMをメインストリーム向けに積極的に推していた。SiSもこれを受けて、1200MHzのDirect RDRAMを2チャンネル接続できる「R658」をまずリリースし、これに続いて1200MHz Direct RDRAMを4チャンネル化した「R659」まで予定していたほどだ。こんな製品のニーズがあるとは思えないのだが、当時のSiSは「まず製品を作り、後からニーズを掘り起こす」といわんばかりの勢いだった。
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