Haswell世代のローエンドCPUは
モバイル/AIO向けが中心に?
Haswell世代のPCに待ち受ける問題は、マザーボードの側にある。Sandy BridgeからIvy Bridgeの場合と異なり、今度はプラットフォームが変わるので、新しいマザーボードが必要になる。マザーボードメーカー各社はLGA1150対応製品を用意しているが、少なからぬベンダーが従来の製品に代わって「AIO」(All-in-One)を検討している。ようするにディスプレー一体型PCのことだ。
インテルはこのAIOを非常に強く推進している。その理由は「AIOならばまだ成長の余地があるから」。逆に言えば、従来の低価格向け製品には成長がほとんど望めない。むしろこの先さらに縮小するとみなしているからだ。
このAIO向けにインテルが推進しているのが「Thin Mini-ITX」という、バックパネルの高さを25mmまでに抑えたマザーボードの規格である。インテルは2012年3月に、早くもThin Mini-ITX対応製品として「DN2800MT」を発売している。
DN2800MTはPC向けと言うよりも、PCベースの組み込みシステム向けという扱いだ。問題は、ここまで厚みを抑えないとAIOとして想定されるサイズにはならず、そうなると必然的にCPUの消費電力も低く抑えないといけないことだ。今時、ディスプレー部の厚みが10cmを超えるような一体型PCは、さすがに受け入れられないだろう。
実際インテル自身、AIO向けは従来のデスクトップ向けCPUでなく、TDP 15W品が最適としている。あるいは、連載173回で解説した「Clover Trail」も、性能面で十分であるならこのマーケットには有望だろう。したがって、従来Core i3やPentium/Celeronが担ってきたマーケットが、Haswellの世代ではモバイル向け低消費電力品でかなりの部分代替される可能性がある。
もちろん新興国向けや、「AIOでなくていいから安いものを」というニーズには、引き続き従来のCore i3/Pentium/Celeronが提供されていくが、製品投入の優先順位は相当下がることになると思われる。そうは言っても、「AIO向けに製品展開をしたら早々にコケた」なんて場合には、商品展開を見直すことになるだろうし、その場合は改めてCore i3/Pentium/Celeronを急速に前倒し投入してくる可能性はある。
だが今のインテルの動向を見る限り、Haswellのバリュー向けはAIOにフォーカスして、従来型の低価格製品はIvy Bridgeベースのものが引き続き投入される公算が高い。下手をするとCore i3はともかく、Pentium/Celeronに関しては2013年いっぱいIvy Bridgeベースのままという可能性すらある。このあたりは、2013年以降のAIOの立ち上がり方次第ということになるだろう。
消えるデスクトップ向けAtom
最後にAtomにも触れておこう。32nmプロセス世代のAtomの場合、少なくとも既存の「Atom D2xxx」といった単体CPUでの製品展開は、重視されないようだ。Clover TrailはAIO向けに提供されるが、マザーボード据え付けで販売されるかどうかは微妙なところ。
また、組み込み向けも一部は32nmプロセス製造の製品が投入される計画されているようだが、実際に製品が出てくるかどうかはっきりしない。インテルは現在、22nmの「Silvermont」コアの開発に専念しており、しかもサーバーとモバイル向けが最初のターゲットとされている。サーバー向けにはSilvermontを最大8コア集積した、「Avoton」という製品が投入されるという。AvotonはARMベースのマイクロサーバーに真っ向勝負をかける製品と思われるが、これをデスクトップ向けに投入するメリットはあまりない。
Haswell世代ではTDP 15Wの製品が投入されるとなると、TDP 10W程度の今のAtomのラインナップを拡充しても、性能的にメリットがない。デスクトップ向けは現在のAtom D2560が最後となり、今後のデスクトップ向けAtomはAIO向けになると思われる。
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