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T教授の「戦略的衝動買い」 第217回

清水の舞台から飛び降りて買ったメカ腕時計「Tread 1」

2012年11月07日 12時00分更新

文● T教授、撮影● T教授

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単なる腕時計……と言うにはあまりにも惜しい……。とにかく「欲しい!」と思わせる衝動買い指数が最高潮に達するメカメカ腕時計「Tread 1」

 常に身に着けて持ち歩くケータイでも正確な時刻を知ることができるようになってから、腕時計産業の衰退スピードは加速した。宝飾的高級腕時計ブームも静かに過ぎ去り、勝ち組狙いのトゥールビヨン的超メカ高級腕時計の世界も、予想に反して売れ行きは伸びず。結局のところ腕時計市場は、新進新興の無名のデザイナーズ・ブランドの低価格腕時計が、かろうじて市場を確保しているのが現状だろう。

Tread 1はドデカさでは一歩も引けをとらない。史上最大のカシオG-SHOCK(左上)、RSW OUTLAND P.C.B(右上)、Bell&Ross ファントム(右下)、そしてTread 1(左下)

 そして、本来伝統的で保守的な腕時計市場は、将来のブランド戦略の実現を早々に決め込みたい世界的総合ブランド企業による、M&A活動の草刈り場状態になっている。そんな変化の激しい腕時計業界に、3年ほど前にまったく畑違いの米国から、新進スーパーカーメーカーが参入した。見方を変えれば、12年前突然に、前例のないまったく新しいデジタルクライアントで、すべてがアナログ的な音楽業界に参入した、アップルの「iPod」にも通じるものがありそうだ。

メーカーは米国のスーパーカーメーカー!?

 工業デザイナーとして身を起こしたスコット・デヴォン氏が起業した「Devon Motorworks」が、2009年に発表した「Devon GTX」は、年間数十台以下しか生産・供給されない、5000万円クラスのウルトラ・スーパーカーだ。そしてそのDevon Worksが、2010年にプロトモデルとして発表した、今までに類を見ない自動車のようなメカニズムを搭載した画期的な腕時計が、「Devon Works Tread 1」(以後Tread 1)だ。

トランスルーセントな印籠型の中には、メカが凝縮されて入っている

「DEVON」の刻印入りフレームの延長上にある枠組みで現在時間を表示する。現在時刻は9時18分57秒。午前か午後かは誰にもわからない。そもそもTread 1には内部を照らす照明がまったくないので、暗闇では時刻はまったく見えない。この思い切りが好きだ

 筆者は今年の夏、バケーションで1週間ほど滞在したホノルルのホテルそばの腕時計店でTread 1を初めて見かけ、そのメカ構造と動作に目から鱗を落としながらも、過去にも例のある極めて危険な海外での衝動買いの気持ちをおさえて、なんとか冷静に帰国した。それもつかの間。運の悪いことに、あのTread 1はこの10月から日本国内の限定店舗で販売を開始した。そして一度は脳裏から消し去った悪夢のような腕時計を再び銀座で手に取ってしまうことになった。

 悪く言ってしまうと、昨今の腕時計は基本のムーブメントを専門的に開発・大量生産している他社から購入して、自社風にアレンジ、デザインした看板を組み合わせ自社ブランドとして発売する商品が多い。そんな中でTread 1は、純粋な自社開発・自社デザインのカリフォルニア産の腕時計だ。一世を風靡したブローバやハミルトン、タイメックスなど、凋落の激しい米国産の腕時計がスイスのジュネーブで開催されたイベントで、独自開発の商品でデザイン賞のファイナリストになることすら奇跡に近い快挙だ。

 昨今の腕時計は、表示形式から大きく分けると、アナログかデジタル。動力源で分けるなら、手巻きやその応用製品のオートマチック、バッテリー駆動に分かれる。そして精度の管理は、純粋な歯車式やその延長に位置するトゥールビヨン技術、クォーツに電波に衛星、そして昨今は、それらの組み合わせを活用するのが一般的だ。そういう区分けで表現するなら、Tread 1は「リチウムポリマー充電池で動作するクォーツ精度の機械式デジタル腕時計」という、世にも稀な腕時計ということになる。


「戦略的衝動買い」とは?

 そもそも「衝動買い」という行動に「戦略」があるとは思えないが、多くの場合、人は衝動買いの理由を後付けで探す必要性に迫られることも多い。

 それは時に同居人に対する論理的な言い訳探しだったり、自分自身に対する説得工作であることもある。このコラムでは、筆者が思わず買ってしまったピンからキリまでの商品を読者の方々にご紹介し、読者の早まった行動を抑制したり、時には火に油を注ぐ結果になれば幸いである(連載目次はこちら)。

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