米国サンフランシスコで5月12~14日の3日間に渡り、「Citrix Synergy 2010」が開催された。2日目となる13日は「Virtual Datacenter」がテーマとなっており、データセンターでの利用を想定した製品等の発表が行なわれた。ここでは、13日午前に行なわれた基調講演の模様と当日の発表内容をまとめておきたい。
クラウドは「ゲームを変える」か?
初日とは異なり、2日目の基調講演は多数のゲストが次々と登壇する形で進んだ。
IT専門の調査会社であるIDCのシニアバイスプレジデント&アナリストのフランク・ジェンズ氏は、「Enterprise IT Game-Changers」というテーマで講演を行ない、エンタープライズITの世界の「ゲームのルールを変えてしまう」要素について語った。同氏が挙げた「3つの主要な変革」(The 3 Big IT Game-Changers)は、Mobility(モビリティ)、Cloud Computing(クラウドコンピューティング)、Information Avalanche(情報の雪崩)だった。
さらに同氏は、クラウドコンピューティングの普及は「今ちょうどChasm(キャズム)にいる」とした。キャズム理論として知られる説だが、新技術等をいち早く受け入れる「アーリーアダプター」と、それに続く「アーリーマジョリティ」の間にキャズムと呼ばれる溝があり、この溝を超えることができた技術/製品だけが本格的な普及に至る、という考え方だ。
クラウドは確かに、声高に語られる割には実際に利用しているというユーザーはあまり多くはないように見えるので、現在ちょうどキャズムの段階にある、という分析はそれなりに受け入れられるようにも思える。経済状況の影響もあるだろうし、まだクラウドへの移行に踏み切っていないユーザーには、クラウドに対する不信感/不安感だけでなく、現時点での移行を妨げるような具体的な機能不足もないわけではないので、こうした障壁をどう取り除いていけるのかが今後問題になるだろう。
ITのサービス化に向けた取り組み
ジェンズ氏に続いて、シトリックスのCEO、マーク・テンプルトン氏が初日に続いて登壇し、データセンター向け製品の新発表等を行なった。
まず紹介されたのは、同社のネットワーク高速化アプライアンス「NetScaler MPX」の最上位モデルの投入だ。「Ultra-High End」と位置づけられる50Gbps対応の製品が発表されたほか、バーチャルアプライアンス版のNetScaler VPXのHyper-V対応版も発表された。
また、NetScalerの新ライセンスとして「Burst Packs」が発表された。これはPay-as-You-Grow(成長に応じて支払う)とされた従量課金体系のオプション的な位置づけに当たるもので、突発的なトラフィックの急増に対応する。必要な時に適用すれば、最大90日間に渡って一時的に処理能力を増大させることができ、期間が終了すればまた元の料金に戻る。季節変動などで一時的にトラフィックが急増するような場合に有用なライセンスとなる。
トラフィック増大を見越してあらかじめ十分な処理能力を確保する、というやり方だと、トラフィックが少ない期間には無駄な支払いが発生することになる。だが、こうしたライセンスでこまめに増減できるような柔軟な体系となっているものは滅多にないのが実情だ。必要に応じて増やすことはできても、減らすことは簡単にはできない、という例もよく見かける。
Burst Packは、いわば「一時的なドーピング」といった扱いなので、平常時の平均的なトラフィックに対応するライセンス契約を結びつつ、一時的なトラフィック急増に備えられる点がメリットとなる。Webショッピングサイトなどでは、人気の新製品の発売日には通常の数倍のトラフィックが集中したりする例が散見されるが、そうした突発事態への対応策としては歓迎できるものだろう。さらに、クラウド時代に期待される課金モデルに対する新しい提案としても注目に値するのではないだろうか。
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