米サンフランシスコで開催された「Citrix Synergy 2010」で、同社のCEO、マーク・テンプルトン氏に話を聞く機会を得たので、同社の経営戦略を中心にまとめておきたい。
――マイクロソフトに飲み込まれることなく、同社が持たない技術を提供するパートナーであり続けている秘訣は?
テンプルトン氏:独立性を維持するためのキーとなるのは「成長性」と「収益性」だ。成長し続け、収益を上げ続けていれば、企業価値もまた増大していく。そうなれば、簡単に買収されるようなことはなくなるわけだ。
マイクロソフトとのパートナーシップに関していえば、「マイクロソフトが掲げる戦略的な目標への道筋をシトリックスがサポートする」こと、「マイクロソフトにビジネス上の利益をもたらす」ことも重要な要素となっている。この両方が実現していれば、ビジネス上のパートナーシップは良好なものであり続けることができる。
最後に、「良好な人間関係」も重要な要素となる。この点に関しては、シトリックスも、マイクロソフトも共に多大な努力を払っており、個人的な信頼関係に基づく良好な関係を維持してきている。
マイクロソフトはデータセンター分野でも大きなシェアを持っているが、デスクトップ分野では圧倒的なナンバーワンだ。そのため、当社のデスクトップ分野での仮想化事業でもマイクロソフトを無視してビジネスを推進することは困難だろう。その意味からも、マイクロソフトと良好なパートナーシップを維持することには大きな価値がある。
――Java開発者向けのクラウドであるヴイエムウェアの「VMforce」についてどう見るか?
テンプルトン氏:VMforceはよいアイデアだ。Java開発者向けの優れたプラットフォームとなるだろう。しかし、シトリックスがこうした取り組みを行なう予定はない。
シトリックスはクラウドのためのインフラ技術を提供することに注力していく。パートナーとなるクラウド事業者を支援することに専念し、彼らと直接競合するような事業を手がける予定はない。ヴイエムウェアはソリューションスタックの「より上位の方向」にビジネスをシフトしようとしているように見える。インフラからアプリケーション、そしてアプリケーション開発の層へと上昇する方向だ。しかし、シトリックスはこれまで通りインフラ層に注力していく戦略を選択している。
クラウド事業者などのサービスプロバイダーは、インフラ技術の提供に専念する企業をパートナーに選びたいはずだと考える。彼らは、そうしたパートナーが提供するインフラの上に付加価値を載せて自社独自のサービスとして提供することができる。われわれは、「オープンなインフラ技術提供企業」であり続けるつもりだ。一方でVMwareはスタックを上昇しようとしているように見える。つまり、ヴイエムウェアとシトリックスは「仮想化技術提供企業」という点では共通するが、事業戦略は大きく異なっている。ユーザーに選択肢を提供する形となっている、という意味では異なる戦略を採る企業が複数並立しているのもまた良いことだといえるだろう。
――XenClientのプラットフォームとしてvProが選ばれたのはなぜか?
テンプルトン氏:XenClientの開発には当初の予定以上の時間が掛かったのは確かだ。特に難航したのはグラフィックス周りの開発だ。ただし、これもインテルとの良好なパートナーシップによって解決された。そのため、現時点でXenClientはvProプラットフォームをサポートしており、グラフィックスチップもインテル製をサポートしている。nVidiaやATIについては、今後サポートしていく計画だ。
一方、プラットフォームレベルでのサポートでは、AMDの前にアップルのプラットフォームをサポートする予定だ。AMDのサポートも重要だとは思うが、開発リソースは限られている。正確には、開発自体はそう難しくはないが、テストには大変な手間が掛かる。
――多くの企業がIT投資を抑制する中でデスクトップ仮想化のライセンス販売が好調なのはなぜか?
テンプルトン氏:現時点でITに投資しているのは、「戦略的な投資」を行なっている企業だ。そうした企業は、「デスクトップ仮想化」は企業自身の成長を実現し、利益を生み出し、ビジネス運営とIT運用のコストを共に削減し、トラブルを減らし、従業員により広範なアクセスを提供する技術だと理解されているのだと思う。シトリックスが提供する広範でセキュアなリモートアクセス機能は従業員を場所の制約から解放し、コストも削減できる。
こうしたビジョンを理解しており、財務状況が健全なユーザー企業は、デスクトップ仮想化技術に投資することで競合に対して優位に立つことができる。現在の経済状況下でもシトリックスのデスクトップ仮想化関連製品のライセンス販売が好調なのは、こうした最先端技術を導入することがビジネス上の優位性につながると考えるユーザー企業が存在しているためだ。