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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第34回

NHKはネット配信で生まれ変われるか

2008年09月16日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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メディア戦略の定まらないNHK


 このように腰の引けたサービスになるのは、NHKのメディア戦略がふらついているからだ。BBCのマーク・トンプソン会長は、iPlayerを「カラー放送以来の大改革」と位置付け、「もはやBBCは放送局ではない」と宣言した。これに対してNHKは、橋本元一前会長のもとで「次期経営5ヵ年計画」を作ったが、古森重隆経営委員長に「構造改革の具体的な戦略がない」と拒否される異例の事態になった。

 それから現在の福地茂雄会長に代わったが、先月出てきた次期経営計画案も、地デジによる放送の「完全デジタル化」が事業の柱で、インターネットを付帯事業としか位置付けていない。懸案となっている「波の整理」にもふれず、受信料の値下げどころか収支計画さえ出ていない。

 私も15年前までNHKに勤務していたので、同期は局長級になっているが、彼らは「ネットは分からない」と自分でも認め、「まして今の会長や理事に分かるわけないだろ」とあきらめている。現場の職員には「2011年のアナログ放送の終了とともにテレビの台数は激減し、このままでは先細りになる」という危機感が強いが、経営陣は不祥事の後始末で精一杯だ。



ネット配信の「穴馬」は国際放送


 むしろ改革の機運が見えるのは、小泉元首相の「国際放送の充実」という要請にこたえるため、今年4月に設立されたNHKの子会社、日本国際放送(JIB)だ。これにはマイクロソフト、伊藤忠商事、TBSなど15社が約40%出資し、日本のテレビ番組を世界にネット配信する。

 番組には英語の字幕がつくが、中身は日本語だから、ネット配信なら国内でも見られる。国際放送は総務省のネット配信規制を受けず、JIBは株式会社で放送法の制約も受けないので、自由な編成ができる。世界に番組を配信して見てもらうためには、これまでの短波ラジオとは違って、NHKスペシャルのような看板番組を流さなければならないだろう。

 かつてNHKの故・島桂次元会長は衛星で世界にニュースを配信する構想を発表し、そのための株式会社を住友銀行(当時)などの出資で設立したが、これは島元会長の失脚で頓挫してしまった。JIBが世界に向けてネット配信することは、ひょっとすると日本のメディアがグローバル化する通信・放送業界に進出する足がかりになるかもしれない。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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