なぜ地デジPCは「禁止」されていたのか
最近、家電業界では、地上デジタル放送を録画できるチューナーカードが発売解禁になったことが話題だ(関連記事)。だが普通の人がこのニュースを聞いて驚くのは、「今まで地デジのチューナーカードって禁止されてたの?」ということだろう。
これまでパソコンに内蔵した地デジチューナーはあったが、単体のカードは販売できなかったのだ。行政や業界にとっては地デジの普及が至上命題のはずなのに、一体なぜカードを禁止していたのだろうか。
それは「地デジの映像をパソコンで処理すると、コピーフリーになってしまう」というARIB(電波産業会)の主張による。ARIBは、「地デジのデータが通るパソコン内部すべてを暗号化する」*という高いハードルをクリアーした機器にしか認可を与えなかった。おかげで、地デジチューナー内蔵パソコンの比率は数%しかない。
※ 地デジの番組は、放送波に「MULTI2」というスクランブルをかけたうえ、映像信号にコピーワンスの印(フラグ)を含めた状態で送信している。パソコンでは、まずMULTI2をB-CASカードで解除するが、その後、暗号をかけずにパソコン内を流すと、ソフトウェアなどで、コピーワンスのフラグを消されたり、無視されたりする可能性がある。そこで、地デジのデータの通り道である、PCIやIDEといったパソコン内部の汎用バスにも暗号をかける仕組みを用意しないとARIBの認可が下りないようにしている。詳しくは、ARIBが配布する「地上デジタルテレビジョン放送運用規定 技術資料 第3分冊」(PDFファイル)の324ページを参照。
マイクロソフトでさえ「審査」に合格できない
しかし、このARIBの目論みは、「フリーオ」の登場で崩れ去った。フリーオは、さまざまな認可が下りた機器にしか与えられないはずのB-CASカードをほかの機器から流用し、録画時にコピーワンスの印を「コピー禁止」に書き換えるというルールを無視することで、地デジの番組をコピーフリーで録画できるようにしてしまった。
おまけに2011年7月のアナログ放送停止が迫り、1台でも地デジ受信機を増やさないと放送が止められなくなってしまう。そういう総務省からの圧力もあって、今ごろカードが「解禁」されたのだが、B-CASもコピーワンスも従来と変わらないので、孫コピーができないことや、ムーブに失敗すると全部パーになることは同じだ。
しかもグローバルに標準化されているPCの世界にも関わらず、地デジチューナーを内蔵した製品を作っているのは国産メーカーだけだ(デルとHPが出しているのは、日本メーカーからのOEM供給)。マイクロソフトですら、開発開始から2年以上たっても、Windows VistaにB-CASを内蔵できない。それは彼らに技術力がないからではない。日本で売るための「審査」に合格できないからだ。
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