フェアユースが米国のGDPの1/6を創造する
フェアユースで、万事うまくいくわけでもない。何が公正かの基準が法律には漠然としか書かれていないので、新しい技術が出てくるたびに損害賠償や差し止めを求める訴訟が起こされる。たとえば2005年には、図書館の本を検索可能にするサービス「Google Print(現Google Book Search)」が著作権侵害だとして、全米作家協会がグーグルを訴えた。グーグル側は「フェアユースだ」と主張しているが、まだ判決が出ていないため、作業はストップしている。
しかし情報通信産業の団体CCIAは昨年、フェアユースによって創造された産業が米国のGDPの1/6を占めるという報告書を発表した(関連記事)。検索エンジンが米国で認められたのも、裁判でこれをフェアユースとする判決が定着したからであって、著作権法を改正して合法化したわけではない。
その背景には、これまで米国で100年以上にわたって蓄積されてきた著作権法に絡む多くの判例があり、「ここまでは大丈夫」という合意が成立しやすい判例法の伝統がある。そういう蓄積のない日本でフェアユースを導入すると、裁判官の主観によって何がフェアかの判断が分かれ、かえって法的安定性が損なわれるという反対論も強い。
法的リスクに挑戦するイノベーションを
しかし状況は変わってきた。これまで慎重派とみられてきた著作権法の権威、中山信弘氏(東大名誉教授)が代表発起人となって「デジタルコンテンツ利用促進協議会」を設立し、9月9日に設立総会を開く。中山氏は、「著作権法に未来はあるのか?」というインタビューで次のように述べている(関連記事)。
フェアユースは、自分がフェアだと考えたらリスクをとってビジネスを始めればよく、文句のある人がいれば、後で裁判所で決着をつけましょうというアメリカ的な考え方です。つまり、フェアかどうかの判断をまず自分がリスクを負うことで新規ビジネスに投資ができるということです(中略)日本にも法的なリスクをとるベンチャー企業がありますから、彼ら彼女らを支援するという意味で、最近ではフェアユースを入れたほうが良いのではないか、という考え方に傾いております。
法的リスクも、新製品が売れるかどうかといったビジネス上のリスクと本質的には同じである。必要なのは、それをゼロにすることではない(リスクをゼロにするには何もしなければいい)。解釈の分かれる問題については、あえて法的リスクをとって起業することもイノベーションの条件だ。
官製不況を打破するには、政府が無意味な規制を撤廃するとともに、新しい企業が法的リスクに挑戦し、問題が起きたら法廷で決着をつけるしくみに変える必要がある。日本の政治を停滞させている明治以来の官僚の支配を近代的な法の支配に変えるためにも、著作権法にフェアユースを導入することは意義があろう。
最後に宣伝になって恐縮だが、情報通信政策フォーラムでは10月7日に、中山信弘氏を講師にまねいて特別セミナーを行なう予定である。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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