G7広島サミットが閉幕した。
2023年5月19日から21日の日程で開かれたサミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領が参加するなど、話題に事欠かなかった。
その中で、この連載で注目したいのは、やはりデジタル、AIに関連する議論の成果だ。
サミットでは、参加した7ヵ国の首脳たちが、首脳宣言(コミュニケ)という文書を発表する。
今回のサミットは、ロシア・ウクライナ戦争など安全保障分野に注目が集まるが、デジタル分野についても、様々な議論が交わされ、コミュニケにも成果が残されている。
AI関連では、2023年中に「広島AIプロセス」という機関を立ち上げ、ChatGPTなど生成AIに関する議論を続けるという。
足並みはそろわなかった
まず、コミュニケのAI関連で印象に残るのは、次の記述だ。
「我々は、信頼できるAIという共通のビジョンと目標を達成するためのアプローチと政策手段が、G7諸国間で異なり得ることを認識しつつも、AIガバナンスに関する国際的な議論とAIガバナンスの枠組み間の相互運用性の重要性を強調する」
アプローチと政策手段が、各国の間で「異なり得る」とはっきり書いている。各国の立ち位置の違いが明確に読み取れる記述だ。
米国では、議会を中心にAI規制をめぐる議論が始まっている。
といっても、ChatGPTをはじめとして、生成AIのビジネス化で世界をリードしているのは、なお米国企業が中心だ。
それだけに、企業活動をギリギリと締め付ける規制には踏み切らないと考えるのが妥当だろう。
一方、EUは、米国と比べてAIに厳しいと見られている。
機械翻訳DeepLをはじめ、欧州から有望なAI技術が出てきているものの、一般データ保護規則(GDPR)など個人情報に厳しい規制も導入している。
EUは、AI規制の基本法となる「AI法(EU AI Act)」を2024年にも全面施行する予定だ。
G7の参加国イタリアは「個人情報収集に懸念がある」として一時ChatGPTを禁止したが、改善が確認されたとして4月末に再開を認めている。
日本は、まだはっきりした立場は見えていないものの、外野からは、OpenAIの幹部らが来日したことをきっかけに、若干「厳しい規制」より「推進」に傾いているようにも見える。
確認してみると、やはりG7各国の立ち位置はそれぞれ異なる。このことが、コミュニケの文言であらためて可視化された。
立場は異なっているものの、「相互運用性」は重要だと述べている。厳しい規制の国と、そうでない国がある中で、同じAIが運用され、人々がそれを利用する。
Googleの情報収集に対して、厳しい姿勢の国と、比較的ゆるい国があるが、これと似た状態でAIも運用されていくことになるのだろうか。
技術標準とツールの開発
次に気になるのは、「信頼できるAIのためのツール開発を支援し、マルチステークホルダープロセスを通じて、標準化機関における国際技術標準の開発及び採用を促す」という記述だ。
AIをめぐる国際会議などでは、「信頼できるAI」という言葉が何度も出てくる。
信頼できるAIという言葉はとても大きく、理解が難しい。AIが学習するためにネットからデータを集めるうえで、不正に個人情報を集めない、あるいは、著作権などの知的財産権を侵害しないといったところが、いまのところ出ている議論の一部だ。
この「信頼できるAI」を確保するうえで、ネット上で運用されているAIが信頼に信頼に足るかどうかを確認するツールが必要だ。
まず「国際技術標準」をつくって「信頼できるAI」とは何かを定義し、本当に信頼できるかどうかを確認するツールも開発する取り組みが本格化するというところか。
広島AIプロセスとは
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