AIをめぐり、日本政府の動きがあわただしい。
2023年5月11日午前には「AI戦略会議」が初めて開かれ、岸田文雄首相が出席した。
同じ日には、ChatGPTほどのインパクトではないが、やはり高精度の機械翻訳で注目されるDeepLが自民党のプロジェクトチームの会議に出席した。
午前のAI戦略会議は、首相が9日の夕方に開催の方針を発表したが、開催前日の10日午後の時点でも開催の詳細が固まっていなかったようだ。
首相官邸の外からもそのあわただしさが垣間見えるのは、5月19日~21日にG7広島サミットが控えているからだろう。
実際、岸田首相は11日のAI戦略会議の初会合で、「G7議長国として、共通理解やルール作りに、リーダーシップを発揮することが求められます」と述べている。
サミットの本会合で何らかの成果を目指し、政府・与党が一気に動きを加速させている。
「実行会議」から「戦略会議」への格上げ
9日に産経新聞が公開した記事によれば、岸田首相はこの日の夕方、AIを研究する若手の研究者らと意見交換し、会合後にAI戦略会議の設置を表明した。
松野博一官房長官は10日午前の記者会見で、会議を設置する意図について次のように説明している。
「これまでAIについては、AI戦略実行会議において技術面を中心に検討してきたが、幅広い課題を議論するため、この会議を抜本的に改組・拡充する」
AI戦略実行会議は2018年9月に最初の会議が開かれている。初会合のメンバーを見ると、3人の有識者のほかは、首相補佐官や各省庁の審議官らの名前が並んでいる。
大臣ら政治家たちは出席せず、有識者と官僚だけで開かれたのは、この時点でAIは、政治家たちが深く関与するほどの重要な政治課題ではなかったためだろう。
しかし、2022年11月に対話型AIのChatGPTが登場し、その高すぎる機能から、AIへの対応は国際的な政治課題・政策課題になった。
AI戦略実行会議がAI戦略会議に改組されたのは、AIが重大な政策課題となった現状を踏まえ、首相が出席する会議に格上げすることを意図したものと考えられる。
ただ、10日午後の官房長官会見の時点でも、会議が開かれる時間や、参加する有識者など具体的な内容は固まっておらず、松野官房長官は「準備が整い次第詳細を公表する」と述べている。
極めて短い期間で準備し、なんとか開催にこぎつけたのが、11日午前のAI戦略会議の初会合だったと見ていいだろう。
G7本会合で何が語られるのか
AIをめぐるこの数日の政府の動きを読み解くうえで、4月29日~30日に開かれた「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」も重要だ。
G7の本会合に先立ち、さまざまな大臣会合が開かれているが、こうした会議では議論した内容や、今後の取り組みを示す「閣僚宣言」として。
デジタル・技術大臣会合で合意された閣僚宣言には、AI関する記述が多く含まれている。全体でA4版12ページの文書のうち2ページ弱がAIで占められている。
重要なのは、次の記述だろう。
「我々は、AI 政策と規制が人間中心であり、人権と基本的自由の保護、プライバシーと個人データの保護を含む民主主義的価値観に基づくべきであることを再確認する。また我々は、AI の政策と規制は、リスクを軽減しつつ、人や地球にとっての技術による利益を最大化する AI の開発と実装のためのオープンで利用可能な環境を維持するために、リスクベースで将来指向でなければならないことを再確認する」
この閣僚宣言は、AIに対する具体的な対応方針には踏み込んでおらず、各国が議論を進めるための前提となる共通の理解を確認する内容となっている。
欧米の動向を注視する日本政府
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