LINEとみずほ銀行が、新しい銀行の設立を断念した。
LINEとみずほフィナンシャル・グループが2023年3月30日、計画の中止を発表した。
新銀行計画の中止に至った理由については、プレスリリースに次のように述べられている。
「安全・安心で利便性の高いサービス提供には、更なる時間と追加投資が必要であり、お客さまのご期待に沿うサービスのスムーズなご提供が、現時点では見通せない」
新銀行計画を取り巻く現状を端的に示す内容ではあるが、両社を取り巻く環境は、計画発表から約4年4ヵ月が経過する間に大きく変化した。
相次ぐ環境変化
LINEとみずほフィナンシャルグループは、2018年11月に新銀行計画を発表し、2019年5月に「LINE Bank設立準備会社」を設立した。
設立準備会社には、LINE傘下の「LINE Financial」が51%、みずほ銀行が49%を出資している。
設立準備会社をつくった時点では、「2020年度中」の新銀行設立が事業開始の目標とされていた。「2020年度中」は、2021年3月末までに事業を始めると読み替えることができる。
2023年3月の時点で振り返ると、最初の段階で計画に遅れが生じていたことが分かる。
計画が遅れた要因は、設立準備会社の設立から約半年後に表面化したヤフーとLINEの経営統合だろう。
2019年11月、ソフトバンク傘下のZホールディングスとLINEが経営統合する計画が明らかになった。
Zホールディングスの傘下にはヤフーグループがある。ヤフーとLINEは統合前、多くのサービスで競合関係にあった。
こうしたサービスの中で、新銀行との関係がとくに深い分野は、QRコード決済のPayPayとLINE Payだろう。
2つのQR決済についても、2023年以降にPayPayに統合されることが方針が明らかになっている。
さらに、2023年2月には、Zホールディングス、LINE、ヤフーの3社が2023年度中に合併する方針が決まった。
これまで、Zホールディングスの傘下にLINEとヤフーが併存する形態が温存されてきたたが、今後1年以内にZ、LINE、ヤフーの3社は1つの会社になる。
Zホールディングス傘下には、すでに銀行業を展開するPayPay銀行がある。
そうなると、仮にLINE Bankが新銀行として誕生した場合、同じ会社内に銀行業を担う会社が2社存在することになる。
これまでのLINE Bankを取り巻く環境変化を整理してみると、「新銀行断念」はとても自然な流れの中で決定されたように映る。
楽天との関係深めるみずほ
PayPay銀行は、3メガバンクのうち三井住友フィナンシャルグループとの関係が深い。
2022年12月の時点で、PayPay銀行株のうち75.28%をZフィナンシャルが、21.54%を三井住友銀行が保有している。
これに対して、LINE Bankの設立準備会社は、すでに述べた通りLINE Financialが51%、みずほ銀行が49%を保有している。
LINEとほぼ対等な立ち位置で新銀行の設立を目指してきた、みずほフィナンシャルグループは最近、楽天グループとの関係をさらに深めている。
楽天グループが携帯電話事業で苦悩する中、2022年10月には、みずほ証券が楽天証券の普通株式の19.99%を取得した。
3メガバンクの競争という構図で見ると、楽天・みずほvsPayPay・三井住友の構図に整理したほうが分かりやすいうえに、競争の観点からも健全だろう。
楽天とソフトバンク
この連載の記事
- 第312回 豪州で16歳未満のSNS禁止 ザル法かもしれないが…
- 第311回 政府、次世代電池に1778億円 「全固体」実現性には疑問も
- 第310回 先端半導体、政府がさらに10兆円。大博打の勝算は
- 第309回 トランプ2.0で、AIブームに拍車?
- 第308回 自動運転:トヨタとNTTが本格協業、日本はゆっくりした動き
- 第307回 総選挙で“ベンチャー政党”が躍進 ネット戦略奏功
- 第306回 IT大手の原発投資相次ぐ AIで電力需要が爆増
- 第305回 AndroidでMicrosoftストアが使えるように? “グーグル分割”の現実味
- 第304回 イーロン・マスク氏、ブラジル最高裁に白旗
- 第303回 「世界一AIフレンドリーな日本」石破新総裁のデジタル政策
- この連載の一覧へ