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サッカーとテクノロジー〔FIFAワールドカップ2026〕 第12回

AIと人、スポーツとテクノロジーの“言語の壁”を乗り越えて

「クロスの定義とは?」 AIに“サッカー言語”を教えることから始まった、FIFAとLenovoの協業

2026年07月19日 09時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 本連載では、テクノロジーの視点からワールドカップを追ってきた。そのベースにあるのが、FIFAとLenovoの協業だ。

 スポーツの国際統括団体とテクノロジー企業という、まったく異なる分野どうしでの連携を成功させるために、両者はどのような姿勢で挑んできたのか。そのプロセスは、スポーツ分野に限らず、異業種間での協業にも参考になる部分がありそうだ。

サッカーとテクノロジーを隔てていた“言葉の壁”

 Lenovoは、初の「FIFA公式テクノロジーパートナー」として、今回のFIFAワールドカップ2026を含む国際大会の運営効率化、試合中の判定や分析の高度化、ファン体験の改善など、多面的にテクノロジー支援を行っている。

 協業の成果の一つが、今大会ですべての出場チームに提供されているサッカー専用のAI分析ツール「FIFA AI Pro」である。過去の膨大なデータを学習済みのAIが、試合前の対戦チーム研究や戦略/戦術の検討などをサポートする(関連記事:番狂わせ続きのサッカーW杯、その背景に“AI参謀”あり? すべての参加チームが使う「FIFA AI Pro」とは)

FIFA AI Proの画面イメージ(出典:FIFA)

 FIFA側でLenovoとのやり取りを主導したのは、FIFAのイノベーションチームだ。同チームを率いるヨハネス・ホルツミュラー氏は「当初、サッカーとテクノロジーの間に『言葉の壁』があった」と振り返る。

 たとえば「クロス」という言葉。サッカーを知っている人ならば、その言葉の意味を感覚的に理解していると思うが、AIに「クロスとは何か」を理解させるためには、その意味するところを厳密に定義しなければならない。あるプレイが「クロス」に相当するための条件、たとえば「選手のポジション」「ボールの軌道」「プレイの意図」といった要素を、数値化、言語化してAIに伝えなければならないわけだ。

 理解しなければならない言葉は、もちろん「クロス」だけではない。われわれが当たり前に使っている「パス」「シュート」「プレッシング」といった言葉の一つひとつを、AIが理解できるように定義するためには、膨大な作業が必要だった。

より複雑な「試合の戦略/戦術」もAIに理解させる

 AIが基礎的なサッカー言語を理解できたところで、今度はより複雑な、サッカーの戦術/戦略を教えることになる。AI Pro開発の裏側を語ったアルバロ・ペレス氏は、「単なるデータベースではなく、サッカーを理解するAIが作りたかった」と説明する。

 そのためには、プレイ中の複数の選手たちが、どういう意図でどんな動きをするのかを、AIが学習して理解しなければならない。

 FIFAでは、試合中に収集した膨大なプレイのデータを蓄積している。たとえば選手の身体の動きならば、1人につき毎秒50回、29種類のデータを計測している。ボールの動きやスピード、外から加わった衝撃などは、毎秒500回の計測に及ぶ。こうした膨大なデータと複雑な戦術/戦略の意図とをひも付け、AIに理解させるために、FIFAのアナリストとLenovoのAIエンジニアたちは何度もワークショップを重ねた。

 こうした努力の甲斐あって、AIは「フォーメーション」「プレッシングのトリガー」「トランジションのパターン」といった戦略的な概念も理解し、AI Proは試合の戦略/戦術を検討するために使えるツールとなった。

FIFA AI Proは、サッカー専用の生成AIが試合の戦略/戦術をアドバイスしてくれるツール。データ/ビデオ/エビデンス/コンテキストに基づき回答する(画像出典:Lenovo)

さまざまなデータのビジュアライズ方法を備える。3DアバターのCGを用いて、1つのプレイを4つの視点(本人/第三者/俯瞰/ゴールキーパー)で再現することも可能だ(画像出典:Lenovo)

“言葉の壁”はFIFAとLenovoの間にも――異分野をつなぐ橋渡し役

 こうした言葉の壁は、AIと人の間だけにあったわけではない。人と人、FIFAとLenovoの間にも言葉の壁はあった。Lenovoでスポーツ領域のグローバルヘッドを務めるサンティアゴ・マンソ氏は、次のように説明する。

 「FIFAのビジネス担当者は、テクノロジーの専門知識を持っているわけではない。Lenovo側の窓口がアルゴリズムに詳しいエンジニアだけだと、FIFA側と話がかみ合わなくなる。そこでLenovoでは“橋渡し役”の人材を配置し、テクノロジーの仕組みそのものではなく『何が実現できるか』を分かりやすく伝える努力をしている」(Lenovo マンソ氏)

 現場の用語翻訳から、経営レベルの意思疎通まで。異なる分野の協業では、あらゆる階層で“翻訳”を行なってきたことがうかがえる。

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