サッカーとテクノロジー〔FIFAワールドカップ2026〕 第12回
AIと人、スポーツとテクノロジーの“言語の壁”を乗り越えて
「クロスの定義とは?」 AIに“サッカー言語”を教えることから始まった、FIFAとLenovoの協業
2026年07月19日 09時00分更新
テクノロジーのサプライヤーではなく「チームの一員」として動く
言葉の壁を越えた先で、両社の関係はどう築かれていったのか。
LenovoでFIFA向けデリバリーを統括するマイルス・スピットル氏は、「エンジニアとしての知識を一方的に押しつけるのではなく、FIFAから学ぶ姿勢を前提として取り組んできた」と話す。たとえば本連載でも紹介した、大会運営を統括する「Tournament Operations Centre(TOC)」においては、FIFAのチームの延長という認識で動いたという(関連記事:史上最大のワールドカップを支える“オフィスワーク”? TCCとTOCのテクノロジー)。
スピットル氏は、昨年6~7月に開催された「FIFAクラブワールドカップ2025」からの準備期間の短さにも言及した。一般企業の開発プロジェクトであればスケジュールの遅延も許されるが、ワールドカップは延期できない。限られた期間の中でAI ProやReferee View、RefCamといった機能を実装する必要があったと説明した。
「ここまで大きなトラブルもなく大会運営できていることはうれしい。成功のためには『同じゴールを持つ』ことが重要だ」(スピットル氏)
サッカーへのテクノロジー導入を審判はどう見ているのか ―ベテラン審判に聞く
ワールドカップへのテクノロジー導入を、試合の現場ではどう受け止めているのか。ワールドカップ開催中の現地で、FIFA審判委員会の会長を務めるピエルルイジ・コッリーナ氏に、今大会が導入したテクノロジーへの評価を聞いた。
コッリーナ氏は「Lenovoとの協業はうまくいっている」と認め、1つのエピソードを明かした。審判視点での映像を放送映像用に届ける、Referee Viewの実現にまつわるエピソードだ(関連記事:VARへの不信はなぜ消えないのか? 新登場の“審判カメラ映像”の価値を考える)。
Referee Viewを実現するためには、主審がヘッドカメラカメラを装着する必要がある。当然、それを身に着けてピッチを走り回る審判からは、「身に着ける機材の重さ」を懸念する声が上がった。当初は400グラムという想定だったが、コッリーナ氏はできる限り軽くするよう要望した。その声を受けてLenovoは改良を図り、最終的に重量の問題は解決された。導入後も「現場の審判から不満の声は出ていない」という。
Referee Viewのカメラ軽量化においては、AIによる映像処理テクノロジーも寄与しているという。審判映像の揺れを抑える処理をカメラ本体で行おうとすると、どうしても機材全体の重量が重くなってしまう。そこで、バックエンドのサーバーでAI処理する形を取り、カメラ自体の重量を増やさない設計にした。
審判からの意見を受けて、LenovoはReferee Viewシステムの軽量化を図った(画像出典:Lenovo)
また、テクノロジーの導入によって、審判の側も恩恵を受けているという。
試合中、ベンチや観客席、あるいは中継放送を見る視聴者は、リプレイ映像によってプレイの内容を細かく確認できる。一方で、プレイの判定を下す重要な立場にある主審だけが、そうした手段を持っていなかった。この不均衡をどうするか。
「これまでどおりのテクノロジーを排除した競技形式を続けるのか、主審にも同じテクノロジーを与えるのか。この選択において、FIFAは後者を選んだ」(コッリーナ氏)
最初に導入されたのは、映像から正確なゴール判定を行うゴールラインテクノロジーで、その成功を受けて、審判の判定を支援するテクノロジーはほかの場面にも広がっていった。
試合前の準備もテクノロジーで変化しているという。審判は、準備段階で過去の試合映像を見るが、コッリーナ氏が主審を務めた2002年のワールドカップ決勝のころはまだ「VHSのビデオテープを繰り返し再生し、分析していた」という。それが現在は、FIFA AI Proを使って分析を行えるため「準備作業の効率化が図れている」と語る。
それでも、審判にとってテクノロジーはあくまでも補助的なものであり、最終判断を下すのは人間であるべきだと、コッリーナ氏は強調した。「技術は審判を支援するレベルに達してはいる。しかし、あくまでも支援するためのものであり、審判を置き換えるためではない」とコッリーナ氏は断言した。
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