「研究は国民や社会のために使われるべきである」、ウィーン工科大が示す大学発スタートアップの原点
大学の基礎研究から生まれる高度な技術「ディープテック」の社会実装を目指し、産業競争力の強化や社会課題の解決につなげることが世界的な潮流となっている。そのため研究成果をスケーラブルな事業へと成長させるべく、各国や大学などの教育機関は、研究技術の産業移転やディープテック企業創出に向けた独自の支援施策を次々と打ち出している。オーストリアの首都ウィーンで開催されたスタートアップの祭典「ViennaUP 2026」でも、オーストリアのエコシステムにおける大学の取り組みが見られた。
今回、「ViennaUP」の中でも中心的なイベント「CONNECT DAY26」において、ウィーン工科大学のスタートアップ支援プラットフォーム「The Spinoff Factory」のCEOを務めるChristian Hoffmann氏に、オーストリアの大学発スタートアップの現状と支援の在り方についてインタビューを実施した。
研究を社会実装する大学の責任
Hoffmann氏は「研究はそもそも国民や社会のために使われるべきである」と、伝統的な大学の役割は「教育」と「研究」であったが、現在では研究成果や技術を社会や経済に還元する「イノベーション」が大学の第三の柱として求められており、それは大学の責任でもあると強いメッセージを送った。
ウィーン工科大学は「The Spinoff Factory」を設立し、スタートアップの株式を最大5%取得することで、起業家に伴走する長期的なパートナーとなる支援を実施。またディープテック領域の起業には多額の資金が必要となるため、欧州の有力シード投資家Speedinvestとの合弁ファンド「Noctua Science Ventures」を立ち上げ、約1500万ユーロの資金を用意して今後2~3年で30~40のプロジェクトへの投資を見込んでいる。
人材面でも「研究者が必ずしもCEOに向いているとは限らない」とし、ビジネス人材を外部の経営や経済系の大学などからCEOを人材として招き入れ、研究者はCTOとして技術に専念する「ファウンダー・マッチング」を積極的に推進している。また「スタートアップにとって、最初のプロトタイプを産業界に提供し顧客を獲得することは資金調達と同じくらい重要だ」と述べ、企業を巻き込んだ戦略の必要性を説いた。
ウィーン工科大学はオーストリア国内における大学発スタートアップでは、過去10年間で330以上のスタートアップを創出し、国内では1位、DACH(ドイツ・オーストリア・スイス)地域でも14位の実績を誇る。創業者向けの契約条件の調整やキャリアモデルの提示、特許など知的財産の好条件での提供など、研究者が起業しやすい環境を整備している。また、ディープテック・スタートアップ向け施設「TU Wien Science Center」や、スマートマニュファクチャリング向けの実証施設「Pilotfabrik & Makerspace」を提供して社会実装を後押ししている。
ViennaUPでの大学イノベーションイベント
大学のエコシステムを推進するため、ViennaUP 2026では「Lab to Leader: Building Science Ventures That Last」が2026年5月20日にウィーン工科大学で開催された。
本イベントは、研究成果をスケーラブルな事業へと転換することを目的としている。イベントの大きなトピックとして、AIT(オーストリア技術研究所)やウィーン工科大学、ウィーン大学など複数の研究機関が連携する「オーストリア・アカデミック・スピンオフ・アライアンス」の設立が発表された。各機関が手を取り合い、共同創業者のマッチングやインキュベーター・投資家へのアクセス向上を目指し、スタートアップがスケールするためのエコシステムを強化する。
キーノートスピーチでは、ウィーンを拠点とするコンサルティングフォームKonsultori BD GmbHのMichael Kubiena氏が登壇し、「高ポテンシャルなスタートアップの失敗の65%は共同創業者間の対立に起因する」というデータを示した。これを防ぐためには、役割分担、株式の分配、戦略の優先順位などについて、初期段階から透明性をもって話し合う「アラインメント」を図ることが不可欠だと説いた。
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