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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第77回

【JSTnews3月号掲載】イノベ見て歩き/大学発新産業創出基金事業 可能性検証(起業挑戦)「農業用途の緑色光波長選択型有機太陽電池モジュールに向けてロールツーロールに適した有機半導体材料の開発」

農業用ハウスの屋根に載せられる有機太陽電池~農作物育成と発電が両立可能に

2026年03月11日 12時00分更新

文● 島田祥輔 写真● 大林博之

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家 裕隆。大阪大学 産業科学研究所 教授。2023~24年 大学発新産業創出基金事業可能性検証(起業挑戦)研究代表者。

 社会実装につながる研究開発現場を紹介する「イノベ見て歩き」。第28回は、農業用ハウスに設置するシート状の有機太陽電池の開発に取り組んでいる大阪大学産業科学研究所の家裕隆教授を訪ねた。光合成への寄与が少ない緑色光のみを吸収する波長選択型で環境にも優しく、農業と発電を両立する「ソーラーマッチング」を目指す。複数の企業と連携し、全国各地の農地で検証が進んでいる。

薄くて軽く、ハウス設置に最適
従来型は重さや有毒物質が課題

 万博記念公園に隣接し、広大な敷地を誇る大阪大学吹田キャンパス。同キャンパス内の産業科学研究所にある家裕隆教授の研究室で見せてもらったのは、シートのように薄くて軽い有機太陽電池(OPV)だ(図1)。農業用ハウスの屋根や天井に設置するのに最適という。

 農地で太陽光発電を行う「ソーラーシェアリング」自体は決して珍しくない。現在よく使われるシリコンや今後の普及が期待されるペロブスカイトといった無機物の太陽電池にはいくつかの課題があると、家さんは指摘する。

 シリコンパネルは重いために専用の架台が必要で、設置コストがかかる上、廃棄も容易ではない。ペロブスカイトは発電効率こそ高いが、有毒物質である鉛が含まれている点は農業用途においては懸念材料だ。さらに、シリコンパネルは光を通さないので設置した下の部分は日陰になり、ペロブスカイトは光合成に必要な青色光と赤色光を遮ってしまう。日光が不十分だと農作物が育ちにくくなることから、作付けのない場所に設置する必要がある。これらの理由から、敷地に余裕がある大規模農地に設置されるケースがほとんどで、農業のために電気を使うというより、電気を売って経営に役立てているという見方もある。

 家さんは、農地向けの太陽電池の開発には農家の視点が重要だと話す。「農家にとっては、単に発電効率が良いというだけでなく、安全で高品質な作物を安定して収穫できることが大切です」。そこで開発しているのが、上に置いても作物が育ち、発電もできる太陽電池だ。

図1 緑色の光のみを発電に利用するOPV。光合成に必要な青色光と赤色光は透過し、農作物に届く。

緑の波長だけを選んで発電に利用
電力の「地産地消」を可能に

 OPVでは、電子が移動するための材料となるドナーとアクセプターを混合した薄膜が発電層となる。光を吸収するとドナーまたはアクセプター中で励起子が生成され、双方の界面に到達することで電荷分離が起こり、電流が生じる。まず家さんは、緑色の波長だけを吸収する市販の安価なドナー分子を選んだ。農作物の成長に欠かせない光合成は、主に青色と赤色の波長の光を必要とするため、光合成への寄与が少ない緑色の波長だけを太陽光発電に利用できれば農作物の成長に大きな影響はないと考えたのだ(図2)。

 家さんはJSTの未来社会創造事業で、緑色の波長だけを吸収するドナー分子との組み合わせに最適なアクセプター分子を独自に開発した(図3)。こうして作られた緑色波長を中心に利用して発電する波長選択型OPVは軽量で柔軟性があり、農業用ハウスの曲面に合わせて設置できる利点がある。光合成に必要な青色と赤色の波長は透過するため、農作物の成長への影響は少ない。

図2 植物はクロロフィルaまたはbという色素で光合成を行う。いずれも波長が450ナノメートル(ナノは10億分の1)前後の青色光と650ナノメートル前後の赤色光を使うため、その中間の緑色光を太陽光発電に利用するのがこの研究の狙いだ。

図3 波長選択型OPVに含まれているドナー分子と、家さんらが開発したアクセプター分子の1つ。

 家さんは波長選択型OPVならではのメリットについて「農業用ハウスの天井を有効利用すれば、狭い農地でも設置できます。ハウスと一体化することで設備も簡易化でき、発電した電力を農業用ハウスの温度維持などに使う『地産地消』が可能になります」と解説する。ソーラーシェアリングは電力を外部に売るのが目的なのに対して、ソーラーマッチングは電力を自家消費する点が異なる。

 波長選択型OPVを農業用ハウスに設置するためには、ハウスの幅に合わせてメートル単位でモジュールとして製造する必要がある。そこで、JSTの大学発新産業創出基金事業の可能性検証に応募し、モジュール化に向けた検証を重ね、さらに農業関連企業の協力のもと実際に農業用ハウスに波長選択型OPVを設置して生育や収穫量への影響を調べた。一部の野菜では波長選択型OPVを使うことで室内温度の管理が容易になり、収穫量が向上するという結果も出ているという。「イチゴ、トマトなどの農作物で検証を続けています。収穫量が上がることがわかれば、農家にとっても波長選択型OPVの採用がメリットになると期待しています」。

実用化に向けスケールアップ
求められる「一体型システム」 

 現在は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択され、実用化に向けたスケールアップに取り組んでいる。「民間企業3社と連携し、モジュール化した波長選択型OPVの高性能化と量産化に向けて検討を進めています」と家さんは話す。注目している農家も多く、実証実験の依頼が後を絶たないという。

 実用化に向けては、発電効率の向上や耐久性の検証だけでなく、モジュールのさらなる大型化が必要だという。「日本国内の製造設備では、幅40〜50センチメートルが限界ですが、欧州では幅2メートルを1枚の長いシートで生産できる設備が整っています。製造環境の整備においては大きな設備投資が必要となるため国の支援も必要です」。また、太陽電池単体だけでなく、ゆくゆくは配線や充電装置、センサー、通信設備などを統合した一体型システムの構築も視野に入れている。

 研究開発体制や検証規模が大きくなるにつれ、家さんは研究をしながら事業を取りまとめることの難しさを実感している。「私自身は研究開発をメインに推進しつつ、事業については波長選択型OPVの技術を総合的に理解し、全体をマネジメントできる人に任せることも考えています」と起業も見据えながら、社会実装に向けて着実に歩み始めている。

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