ITシステムの保護と基本は同じでも、とるべき方法は異なる
IoTデバイスをサイバー攻撃から守る IoT向けゼロトラストの“3つのアプローチ”

NICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)が2026年2月に発表した「NICTER観測レポート 2025」によると、IoT機器を狙うサイバー攻撃は高度化/多様化しています。同レポートでは、従来主流だったIoTボット(Mirai)とは異なる新たなボットの登場や、感染後の不正動作を見えにくくする仕組み(プロセス隠蔽)を備えたボットの登場といった、最新の動向が報告されています。
IoTボット感染ホスト数の推移(世界/日本)(出典:NICT「NICTER観測レポート 2025」)
IoTデバイスを狙う攻撃者たちの主な目的は、そのデバイスを乗っ取って「攻撃の踏み台」に悪用することです。攻撃者が企業の内部へ深く侵入するための“侵入口”として利用することも、攻撃者がリモートから操れる“ボット”としてDDoS攻撃を実行させることもあります。
つまり、IoT機器を開発して提供したり、導入して運用したりすることで、“攻撃インフラの提供者”という加害者側に回ってしまうリスクもあるのです。
ゼロトラストセキュリティの考え方がなぜ有効なのか
以前の記事でも取り上げましたが、IoTデバイスは「インターネットからアクセスできるネットワークに設置される」「パスワードや機器設定が導入時(初期設定)のまま運用される」「監視やメンテナンスが行き届かないまま放置される」といった、一般的なITデバイスよりもセキュリティリスクの高い状況下で利用されるケースの多い製品です。
言い換えると、これまでのIoTデバイスは「低価格、低機能のデバイスなのでサイバー攻撃の標的にはならない」「パスワードで保護されているから不正アクセスはできない」「動いている限りはメンテナンスをしなくても大丈夫」といった“暗黙の信頼”の上に成り立っていたとも言えます。もっとも、その考えが“まったくの誤り”であることは、冒頭で触れたNICTのレポートが実証しています。
ここで求められるのが「ゼロトラストセキュリティ」という考え方です。ITセキュリティの分野では徐々に浸透しつつありますが、これをIoTセキュリティ領域にも広げることで、IoTデバイスをターゲットとし、悪用するようなサイバー攻撃の被害を減らせるはずです。
もっとも、IoTデバイスの場合は搭載CPUやメモリ、消費電力などの制約が大きく、ITデバイスやITシステムのような高度なセキュリティ機能(たとえば厳密な認証/認可機能)が持たせられないケースが多いのが現実です。7つの“ゼロトラストの基本原則”をふまえつつ、足りない部分はデバイス外の機能(たとえば接続するネットワークやクラウド側のシステム)で補うなどして、保護を強化することになります。
NISTによるゼロトラストの基本原則 7項目(出典:IPA「ゼロトラスト導入指南書」)
IoT+ゼロトラストで考えるべき「3つのアプローチ」
ゼロトラストの原則は抽象的かつ広範な概念なので、ここでは対象をIoTデバイスに絞り、デバイスを「乗っ取らせない」「悪用させない」「異常を検知して止める」アプローチで、具体的な手法の例を説明します。
●IoTデバイスを「乗っ取らせない」アプローチ
デバイスを攻撃者に乗っ取らせないための方法の1つが、「インターネット側からの通信(インバウンド通信)を一切受け付けない」「インターネットへの露出をやめる」といったものです。
前者は、インターネット通信は必ずデバイス側から始めるという仕組みです。インターネット上からのアクセスを受け付ける必要がある場合は、少し複雑にはなりますが、クラウド上のシステムで高度な認証/認可処理を行ったうえで、デバイスへのアクセスを許可する仕組みをとることができます。
ちなみにこのとき、クラウドサービス側でもゼロトラスト、つまり正規のデバイスを自称するIoTデバイスを「信頼しない」で認証する仕組みが必要です。IoTデバイスが持つ電子証明書やSIMの固有識別子を使えば、デバイス側のリソース消費を抑えながら実現できます。
後者は、クラウドやサーバーとの接続に、インターネットではなく閉域網を使うことが考えられます。最近では、モバイル回線を使った閉域網サービス、閉域網専用SIMなども登場しており、手軽に導入できます。通信の暗号化処理も不要になるため、デバイスのリソース消費を軽減できるメリットもあります。
●IoTデバイスを「悪用させない」アプローチ
万が一、攻撃者にIoTデバイスを乗っ取られても、「攻撃に悪用させない」ガードレールを敷いておけば、被害の拡大や加害への加担は防げます。ゼロトラストセキュリティでは、たとえ認証を受けたユーザーであっても、必要最小限のことしか実行を許可しない「最小権限」という考え方がありますが、これに近い仕組みを備えればよいでしょう。
具体的に言うと、IoTデバイスが通信できる相手先やプロトコルを、必要最小限のものだけに絞り込む方法があります。たとえ攻撃者がこのデバイスを乗っ取っても、企業内のほかのシステムやDDoS攻撃などには使えず、攻撃インフラとして機能しないわけです。
●IoTデバイスを「異常を検知して止める」アプローチ
ゼロトラストには「一度検証をして終わりではなく、継続的に検証し続ける」という考え方もあります。したがって、IoTデバイスの状態(特に通信状態)を継続的に監視し、異常があれば止めるというアプローチも有効です。
一般的なITシステムとは異なり、IoTデバイスは用途が特定されており、通信パターンの変化が少ないので、異常は検知しやすいと言えます。たとえば「通信の頻度やトラフィック量が急増する」「ふだんとは異なる通信先に接続しようとする」「通信の時間帯がおかしい」といった兆候を検知するロジックを、クラウドシステム側に組み込むような方法が考えられます。
「止める」の方法は、まずは通信を遮断です。IoTデバイスの場合、攻撃プロセスが動き続けていても、外部との通信をシャットダウンさえできれば、大半の被害の拡大は防げます。
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上述した具体的な対策方法は、あくまでも一例です。IoTデバイスの種類や目的によっては、こうした方法がとれないこともあるでしょう。それでも、ゼロトラストというセキュリティの考え方自体は有効であり、そのほかの方法で実現できないか、考えていく必要があります。
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