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水やりだけならできそう。ゆるく“農”につながるアーバンファーミング

特集
世界に挑むICTスタートアップリーグ 成功への道

 ある調査によると、日本人の8割は何らかの植物を育てた経験があるという。ガーデニングは癒しの効果があり、野菜を収穫できれば生活の足しにもなる。しかし、都会生活で植物を育てるには、世話をする時間や場所に制約がある。欧米では、地域の住人が協力して農作物を育てる「アーバンファーミング」(都市農業)が人気を集めている。

 そんな中、令和5年度のICTスタートアップリーグに採択されているプランティオ株式会社は、誰でも気軽にアーバンファーミングが楽しめるデジタルファーミングプラットフォーム「grow」を展開している。

 同社が運営するスマートコミュニティ菜園「grow FIELD」は、従来型の貸し農園のような区画貸しではなく、メンバーが共同で栽培するスタイルだ。「grow FIELD」の各プランターには、IoTセンサー「grow CONNECT」が挿してあり、土壌の温度や湿度、気温や日照などが測定され、AIがこれらのデータを学習し、適切な管理方法を案内する仕組み。

 専用アプリには、水やり、施肥、間引きといった通知が届き、手が空いているユーザーが世話をする。作業の完了をアプリで報告すると、その報酬として収穫物を持ち帰ることもできる。現在、「grow FIELD」は、関東エリアを中心にビルの屋上や公園で展開されており、アプリのユーザーは、どのフィールドも利用可能だ。

土壌温度・湿度センサー、外気温・外気湿度センサー、日照センサー、広角カメラといった6つの機能を搭載する「grow CONNECT」

 ちなみに、プランティオ株式会社の代表取締役 芹澤孝悦氏の祖父は、「プランター」を発明した人物。都市部での緑化を目指して開発されたプランターは、東京オリンピックを機に世界中へ普及した。「grow」は、そのビジョンを現代にアップデートしたものだ。IoTとAIで植物の管理を効率化し、クラウド上のコミュニティメンバーが世話を分担することで、忙しい都市生活者も無理なく“農”に関われる。また、都心部の限られた空間でも、屋上やオフィス内の空きスペースに野菜や果樹を植えれば、農業自給率の向上やCO2排出量の削減効果も貢献できそうだ。同社は今後、東南アジアの都市部への展開を計画している。「grow」の人と環境にやさしいアプローチが国境を越えて、世界中で都市緑化が広がることを期待したい。

文:スタートアップ研究部

ASCII STARTUP編集部で発足した、スタートアップに関連する研究チーム。起業家やスタートアップ、支援者たちの活動から、気になる取り組み、また成長・成功するためのノウハウやヒントを探求している。この連載では、総務省のICTスタートアップリーグの取り組みからそれらをピックアップしていく。

※ICTスタートアップリーグとは?

ICTスタートアップリーグは、総務省「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機として2023年度からスタートした官民一体の取り組み。支援とともに競争の場を提供し、採択企業がライバルとして切磋琢磨し合うことで成長を促し、世界で活躍する企業が輩出されることを目指している。
https://ict.startupleague.go.jp/

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