優秀なエンジニアを採用したはずが倒産の危機⁉急成長企業に潜む組織崩壊のリスク
事業の成長フェーズでは、社員の増加による組織のひずみが起こりやすい。いわゆる「50人の壁」「100人の壁」などと呼ばれるものだ。創業当初の少人数のうちはメンバー全員が同じ目線で活動していたのに、50人、100人と増えると目が届かなくなり、わずかな組織の歪みから経営危機に至ることもある。
あるハードウェアスタートアップ企業は、最初にリリースした製品がヒットし、事業拡大に伴い社員数も100名超へと拡大した。しかし、製品ラインの拡張へ向けて資金調達をした矢先、開発チームで大量離職が起こる。製品開発は行き詰まり、経営破綻に追い込まれてしまった。引き金は、技術力強化のために大手メーカーからの中途採用で人を増やしたこと。既存社員との考え方の違いから衝突が増え、開発チームが崩壊してしまったのだ。大量採用フェーズでは、創業メンバーとは志が異なるさまざまな人が入社するため、方向性の違いから初期のメンバーが離れてしまうことは珍しくないが、このケースでは崩壊につながってしまった。
こうした組織崩壊を防ぐにはどうすればいいのだろうか。スタートアップの採用事業を展開し、ICTスタートアップリーグでも支援を行っているデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社の狩谷真治氏は、「経営者はどんなに忙しくても、組織内にも目を向けることが大切。目が届いていれば最悪の事態になる前に気づくことができたはず」と指摘する。また、全社員が共通の方向性を持つための方法として「経営者が社員と直接対面する機会を増やすこと。ビジョン・ミッション・バリューや経営計画を社内で考えるワークをするのも有効」だと提案する。規模が大きくなればなるほど、経営者の想いは社員へ届きにくくなる。急成長しているときこそ、定期的なコミュニケーションと組織文化の維持を大切にしたい。
文:スタートアップ研究部
ASCII STARTUP編集部で発足した、スタートアップに関連する研究チーム。起業家やスタートアップ、支援者たちの活動から、気になる取り組み、また成長・成功するためのノウハウやヒントを探求している。この連載では、総務省のICTスタートアップリーグの取り組みからそれらをピックアップしていく。
※ICTスタートアップリーグとは?
ICTスタートアップリーグは、総務省「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を契機として2023年度からスタートした官民一体の取り組み。支援とともに競争の場を提供し、採択企業がライバルとして切磋琢磨し合うことで成長を促し、世界で活躍する企業が輩出されることを目指している。
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