国が公開しなかった特別データを先行体験。解放されたデータでできる社会課題解決とは
「【アイデアソン】 LINKS:DATA x Hackathon」レポート
提供: 株式会社日建設計総合研究所
国土交通省は、省内のさまざまな行政情報をデータとして再構築し、オープンデータ化して活用する新たな取り組み「Project LINKS」(以下、LINKS)を2024年4月にスタートした。その展開と平行して、国土交通分野にかかわるデータを活用した官民のさまざまな分野でのユースケース開発を推進するため、「LINKS:DATA × Hackathon 国土交通分野のオープンデータ活用チャレンジ」と題して、キックオフイベント、アイデアソン、ハッカソンの3形態のイベントを開催。10月5日に開催されたアイデアソンでは、エンジニア、学生、ビジネスパーソン、研究者など幅広い属性の30名超が参加した。
アイデアソンでは、LINKSのパイロットプロジェクトとして試験的に作成した9種類のデータを当日参加者のみに一部を特別公開した。実際にサンプルデータを利用した参加者からのフィードバックを通じ、今後のオープンデータの拡充と改善を図る目的だ。参加者は選択したデータ種別ごとにチームに分かれ、データ活用のアイデアを出し合い、具体的なビジネスやサービス提供イメージに落とし込んでプレゼンを行った。
今回のアイデアソンで、LINKSが用意した9種類のデータは以下の通り。
(1)一般旅客定期航路事業データ
旅客船を航行する事業(一般旅客定期航路事業)の事故に関するデータ。事故調査報告書、気象庁の海上分布予想のデータなどを統合して作成。
(2)無人航空機飛行計画データ
無人航空機(ドローン)の飛行計画データ、機体登録データを統合して作成。
(3)貨物自動車運送事業データ
貨物トラックの事業(貨物自動車運送事業)に関する事業報告書、毎月の勤労統計調査のデータなどを統合して作成。物流業の労働生産性を把握できる。
(4)内航海運事業データ
貨物船の事業(内航海運業)に関する登録申請書、営業概要報告書、損益明細書などのデータを統合して作成。港単位の経済性などが把握できる。
(5)モーダルシフト関連データ(貨物船、貨物鉄道、経路探索データ)
モーダルシフト(自動車による貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶へ転換すること)を実現するために、JR貨物の時刻表、JR貨物駅の位置情報、貨物船とフェリーの時刻表、および複数交通モードの経路探索結果を統合したデータ。
(6)国土交通省組織管内図データ
管内図(国土交通省の各出先機関が管轄するエリアを示す地図)の河川や路線、道路のデータを、所管組織・所管業務・所管手続きのデータと統合して、ER図(データ構造の可視化)やUMLクラス図(データの関係性を可視化)で表したデータセット。
(7)倉庫業データ
倉庫業の登録事業者リストや物流拠点データを統合して作成。倉庫の地理的分布が把握できる。
(8)自動車運送業事故データ
自動車運送業の事故報告書、交通事故統計情報のデータを統合して作成。
(9)GTFS /GTFS Realtime
GTFS(General Transit Feed Specification)は交通関連情報をデータとして配信するための国際標準仕様。公共交通オープンデータセンターからは、GTFSをはじめとして、2024年10月5日時点で、国内では鉄道、バス、航空、シェアサイクルの91組織275件のデータセットが公開されている。
上記のデータをもとに、各チームはアイデアを1日で練り上げていった。なお、本アイデアソンでは、6名のメンターが参加し、アドバイスを行った。
また、当日の司会とアイデアソンのファシリテーターを池澤あやか氏が務めた。
以降では、各チームの発表内容を、メンターたちのコメントとともに紹介する。
道路の占用許可申請を迅速化(チーム「簡内図」)
チーム「簡内図」は、国土交通省組織管内図データを活用し、道路や河川の占用許可を申請する際に手間がかかる課題を解決するアイデアを披露した。道路空間を使ったイベントなどを開催する際、主催者は行政に占有許可手続きを行う必要があるが、申請プロセスが複雑であることに加え、行政の部署間の連携不足による非効率性が申請者の負担になっている。
解決策として、管内図データを活用して管轄エリアと組織図を統合したスマートフォン上の申請プラットフォームを提案。プラットフォーム上で占有したいエリアを地図上で指でなぞって指定すると、検索結果に申請先組織が表示され、申請フォームへの記入と送信までオンラインで完結する。ワンストップの申請、AIを活用した申請書類の自動チェック、リアルタイムの進捗管理を実現するシステムを意図している。申請者には時間短縮のメリットがあり、行政側でも業務効率化・ペーパーレス化での効果が見込まれる。
今回のサンプルデータを活用したうえでのLINKS側へのフィードバックとしては、さまざまな申請業務にデータを活用しやすくなるように、管内図データに申請フォーマットを追加してほしいとの要望が出された。
メンターの久田氏は、今後の展開案として同チームが打ち出した「(その申請内容は)ほかの省庁の管轄になります」と返答する機能を評価。「いつの日か省庁や自治体を超えて包括したプラットフォームに発展していってほしい」と講評した。
船舶の衝突事故回避ルートを提案(チーム「タイタニック」)
チーム「タイタニック」は、一般旅客定期航路事業データと内航海運事業データ、さらに海底形状に関するデータ(オープンデータ化はされていない)を組み合わせて活用し、船の詳細情報から事故を予測して最適な回避経路を導き出す「事故回避システム」のアイデアを披露した。
船舶事故を防ぐさまざまな技術が開発されているものの、事故がなくなっているわけではない。同チームは、AIS(船舶の位置や速力を自動的に送受信するシステム)のデータから船の経路予測を行う既存の事故回避システムに、船のスペックのデータ、海底形状に関するデータを組み合わせて、最適な衝突回避ルートを予測可能にするシステムを提案した。衝突リスクを検知してアラートを出すと同時に、事故回避操作の指示を船舶に送るという。
講評で野宮氏は、「船舶同士の衝突を回避するには、相手の動きにどう対応するかという難しさがある」と指摘。データを活用した予測シミュレーションで事故防止にどこまでアプローチできるか、同システムへの期待を示した。同チームからのLINKSへのフィードバックとしては、3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」における海底形状までカバーしてほしいという要望があった。
事故リスクが低い運送ルート提案(チーム「自動車事故」)
チーム「自動車事故」は、交通事故統計データ、自動車運送事業者事故報告書データを活用し、自動車事故を減らすための「ルート危険度シミュレーションサービス」と「点検情報お知らせサービス」のアイデアを発表した。
1つ目のルート危険度シミュレーションサービスは、自動車事運送事業者事故報告書データから、過去の事故履歴を取得し、事故当日の天候、事故発生場所の道路幅、見通しなどのデータから事故の傾向を分析。運送ルート上で同様の事故が発生するリスクの高い箇所を導き出し、その地点を避けるルートを提案するもの。オープンデータを活用することで、会社の枠を超えたリスク情報を取得できる。2つ目の点検情報お知らせサービスは、整備事業者の自社データとオープンデータを組み合わせて、レンタカー会社や運送業者が保有する車両の点検時期を精度よく割り出し、通知するものだ。
講評で西尾氏は、「ルートの提案は、時間や料金、混雑度などのデータも加味する必要があり、難易度が高いもの」だと述べた。また、久田氏は「事業者は効率を優先する。その前提でシステムを作らないと受け入れてもらえない」と指摘した。
旬の食材を運ぶ貨物列車の動きを可視化(「チームじゃがいも」)
「チームじゃがいも」は、今回のアイデアソンで提供されたJR貨物のGTFS(貨物時刻表)と、既存の国土数値情報(貨物路線の路線形状)および全国貨物純流動調査(県間の鉄道貨物輸送品目)のデータを活用し、全国各地から旬の野菜がどのように東京に届くのかをリアルタイムで可視化するサービス「じゃがいもに抜かれるな!」を発表した。
鉄道貨物は季節によって輸送品目が異なる。北見からの「たまねぎ列車」や帯広からの「馬鈴薯輸送専用列車」、東北各地からの「新米列車」など、貨物列車が何を運んでいるかを伝えることで、地理学習への活用や物流への理解を促し、身近な食材への愛着を深めてもらおうというのがこのサービスの狙いだ。
講評として久田氏は、「(サービス開発背景の)ストーリーの完成度が高い。貨物列車から始めてマルチモーダルへと展開していくイメージがもてる。ハッカソンでぜひ作ってほしい」と述べた。別所氏も、「教材や、食材のトレーサビリティへの応用もできそう」と評価した。
CO2排出量が最小になる輸送手段を提案(チーム「DOCOTOR(ドコトール)」)
チーム「DOCOTOR(ドコトール)」は、運送業者、小売業、行政向けに、物流の二酸化炭素(以下、CO2)排出抑制と、災害時の物流の代替手段を提案するシステムを考案した。モーダルシフト関連データ、貨物自動車輸送事業データ、内航海運業事業データを活用し、輸送手段(トラック、船、貨物列車)ごとのCO2排出量を計算し、総計が最小になる輸送手段をレコメンドする。また、災害時には陸路、海路の寸断情報も組み合わせて代替輸送手段を提案する。
システムの今後の展望として、CO2削減量を国が定める「J-クレジット」と組み合わせる機能や、CO2削減が環境だけでなく費用削減にも寄与することを表現する機能を実装したいとする。講評で久田氏は「災害時に、手作業で代替経路を引き直すのに比べて、どのくらい時間や精度に差が出るのか指標を出せるとよいのでは」と述べた。
シェアサイクルの使いにくさを解決(「Team GBFS」)
「Team GBFS」は、シェアサイクルの使いにくさを解決するアイデアとして、GBFS(General Bikeshare Feed Specification)のシェアサイクルオープンデータを活用したアプリケーション「スイスイ自転車プラットフォーム」を発表した。同チームはシェアサイクルについて、都市部で自転車走行が危険な道が多い、需要が駅前などに集中して配置バランスが悪いといった課題を提起。これを解決するため、3次元の道路・地形データと自転車事故発生地点データを組み合わせて自転車が運転しやすい道を提案するナビアプリを考案した。さらに、ナビアプリの経路検索データをもとに自転車による移動需要を把握することでシェアサイクルのポートや台数といった供給の最適化を目指すという。
LINKSへの要望としては、自転車専用レーンの地理データの整備、自転車事故の事故調書オープンデータのAPI化を挙げた。久田氏は、「(自転車走行時に)どのように安全にナビができるかのイメージも必要」と指摘した。
ユーザーが投稿したドローン撮影画像で3Dデータを更新(「Team ドローン」)
「Team ドローン」は、ドローンの障害物事故に関わる課題の解決に向けて、「自動データ更新型ドローンシミュレーション」を発表。同チームがドローンの飛行計画データと事故情報データを分析したところ、報告された事故の約70%が電線や木などの障害物への接触が原因だった。
安全な飛行計画の立案に向けて、ドローンの飛行計画、過去の事故、3D障害物データを活用したシミュレーションを提案。ドローンで撮影した障害物画像をアップロードすると、AIが3Dデータを自動更新するアイデアも披露した。
講評で久田氏は、「ドローンのユーザーが積極的に撮影画像をアップロードする仕掛けとして、ゲーミフィケーションやWeb3の要素があるとよいかもしれない」と述べた。
最終成果はハッカソンで発表へ!
ここまで発表された内容も含めて、2024年11月23日、24日には「LINKS:DATA × Hackathon 国土交通分野のオープンデータ活用チャレンジ」が開催される。
今回のアイデアソンでは、LINKSのサンプルデータの一部が公開されたが、ハッカソンではデータの範囲(ボリューム)が増えるという。Day2の24日(日)16時からは成果発表の模様がオンラインで視聴できるので、ぜひ注目してほしい。