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実績を作りたいスタートアップが顧客にNoを言う難しさ。ディープテックの壁と苦悩

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開発と市場リスクのバランスの難しさ

 大企業との提携や実証実験はポジティブに考えられがちだが、「とりあえずやる」だけでは、かかるコストや失う機会が多いことも今回のストーリーから学べるトピックなのではないか。

 どの領域であろうと営利企業である限り、市場に価値を提供し、報酬を得る営みが必要だ。その中で研究開発に多大な時間とコストが必要なディープテックは、開発への投資と市場に受け入れてもらうプロセスにおけるバランスの難易度が高い。

 ここまで広い言葉でディープテックと話してきたが、厳密には領域によって特色が異なる点も吉岡氏は示唆する。たとえば、製薬などの領域では、市場のニーズが明確な場合、開発に時間がかかるものの、腰を据えた開発に重点を置きやすい。一方で、ロボットやIoTなどディープテックの中でも比較的開発にスピードを出しやすい領域でも、市場に受け入れられるかはわからない場合もある。

 ディープテックスタートアップには、技術開発の難易度やスピード感と市場に受け入れられるかを並行して考え、会社としての成長フェーズに合わせて戦略を立てていくことこそが、必要とされている。

 筆者もいちスタートアップを経営する身として、市場へのフィットややるべきことの取捨選択の意思決定への難しさに共感しつつ、規模やタイムラインの長さというディープテックならではの課題や、研究開発分野であるが故のステークホルダーとのコミュニケーションの難易度の高さを実感した。

 そんな中で市場に製品が受け入れられることで大きく時代を動かせる醍醐味とそれに伴う大きな苦しさを抱えているのが、ディープテック領域の奥深さなのかもしれない。

編集部の目線

 この記事は、柏の葉スマートシティでの起業家や投資家などのコミュニティ内で実施されたクローズドでの勉強会での話がきっかけです。近年はnoteなどでその取り組みを公開するケースも増えてきましたが、エコシステムにとって必要な学びとしての失敗共有は、もっと多様にあるべきでしょう。

 テーマとなる「大企業との付き合い方」は、規模が小さい時期のスタートアップこそ、その見極めが重要です。似たケースでは、契約や知財を武器に大企業としたたか渡り合っている企業や、窓口担当者の人材を徹底的に見極め事業を拡大させる企業など、さまざまな取り組みも目にしています。やり方次第では成長のドライバーとなる大企業のアセット、上手な活用を期待します。

(北島幹雄 ASCII STARTUP編集長)

 

著者プロフィール

鈴木 碩子
株式会社NEWSTA 代表取締役CEO
Webマーケティング・広報PR支援事業を手がける株式会社ismを2017年に設立し、2020年に株式会社PR TIMESへ売却。2022年、疾患・障がい児家族×IT領域でサービスを提供するブランド「ファミケア(famicare)」を提供する株式会社NEWSTAを新たに設立した連続起業家。プライベートでは指定難病である福山型筋ジストロフィーの息子と4歳年下の娘の母。

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