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北米市場への第一歩。日本発スタートアップはカナダで何を訴えたか

Collision 2024

特集
ASCII STARTUP イベントピックアップ

 カナダ・トロントで開催された北米最大級のテックカンファレンス「Collision(コリジョン)」には、日本のスタートアップらがブース出展やピッチイベントを通じて北米市場への売り込みを行った。ジェトロ(日本貿易振興機構)のグローバル・アクセラレーション・ハブ(GAH)は、トロントメトロポリタン大学(旧ライアソン大学)と横浜市、AI研究で有名なウォータールー大学(カナダ)付属インキュベーターのDMZとタッグを組んで、スタートアップ企業とともにCollision 2024に挑んだ。日本ブース主催で行われた「ジャパン・スタートアップ・ショーケース」と「ジェトロ・ピッチ・コンペティション」についてレポートする。

DMZ x JETRO:ジャパン・スタートアップ・ショーケース

 カンファレンスの3日目である6月19日、ジェトロとDMZは、「ジャパン・スタートアップ・ショーケース」を開催。日本のスタートアップ企業10社が現地の投資家や提携先企業に対して事業紹介を行った。衣料品、スポーツ用品、AIアシスタント、住宅レンタルなどさまざまなスタートアップがピッチを行い、日本発のサービス・製品を売り込んでいた。

 日本ブースを主催・運営したジェトロ・トロント事務所 GAH担当によれば、「北米市場において大規模展示会は米国開催が主流だが、北米最大規模のテックカンファレンスがカナダで開催されるCollisionは貴重な機会。ジェトロは今年度は日本企業のカナダスタートアップとのオープンイノベーション支援に注力した」という。

ジェトロはカナダの老舗インキュベータDMZと業務提携。Collision会期1週間前にトロント入りし、DMZメンターによるセッションを受けたり、カナダ企業や投資家とマッチングしてもらうなど、渡加機会をさらに有効活用したスタートアップもあったという

日本発スタートアップをピックアップ

 北米のビジネスカンファレンスでも、スタートアップのピッチ大会(コンペティション)は定番である。事業アイデアが重要なのはもちろん、伝える力が評価される。

 ジェトロ・ピッチ・コンペティションは、カンファレンスの最終日である6月20日、ジェトロとブランプトン市、同市に本社を置くキヤノンカナダとの共催で行われた。参加したスタートアップ7社のうち、4社をピックアップして紹介する。

●Kepler - COO兼CFO 井上裕太氏

 Keplerは、視覚テクスチャーと画像の深さに焦点を当てたモニターとディスプレイセンサーの開発を行うハードウェアスタートアップ。COO兼CFOである井上裕太氏は、スタートアップショーケースとピッチコンペティションの両方で発表を行い、その独自性からピッチで勝利を収めた。

「米国人の半数が一日の大半をコンピュータ画面を見つめて過ごしています。そして、ほとんどのディスプレイやモニターの開発者は、精細度と明るさに注力を注いで開発しています。その点で我々は代替案が必要だと考えました」

 井上氏は、同社の技術が紙や木材などのさまざまな物体のテクスチャーを模倣するために、照明材料と人工光をどのように使用しているかについて語り、さまざまな物体のテクスチャーを90%の精度で再現できると述べた。さらに、他のディスプレイと比較して、目や脳への負担が少ないことを示す研究も行っている。

 井上氏が今後探求したいことは、照明アルゴリズムの改善と、アート展示における技術の利用であり、北米の投資家や企業に向けての同社の技術力をアピールしていた。

「NFTブーム以来、デジタルアートは再び盛り上がっています。準備が整ったら、日本でデジタルアートを展示するために我々の技術を活用したいと考えています」と今後の抱負を語ってくれた。

ピッチで勝利したKeplerの井上裕太氏

Uzabase - マーケティング担当 グレゴリー・ハッチェンバーグ氏

 日本では認知度の高いユーザベースだが、北米ではまだ低い。今回は、AIベースのリサーチプラットフォーム「SPEEDA Edge」をプロモートするため、北米市場でのマーケティング担当者であるハッチェンバーグ氏がスタートアップ・ショーケースとピッチ・コンペティションの両方に出場した。

 社内の意思決定における調査やデータ分析の課題を解決するために設計されたことが「SPEEDA Edge」誕生のきっかけにある。

「意思決定の課題は、業界や他社動向を捉えるために出てきた情報が本当に正しいかどうかを見極める点にありました。また、調査・分析するデータが多すぎて判断しかねることも。単に意思決定を行うための情報を得るだけでなく、なぜその決定を下したのかを関係者に示すことが重要でした」(ハッチェンバーグ氏)

 解決策として、データ収集から分析・加工を行い意思決定を支援するBI(ビジネスインテリジェンス)を用い、AI技術とアナリストの考察を掛け合わせることで、瞬時に意思決定に必要な情報を提供できる調査プラットフォームが生まれた。「SPEEDA Edgeは、特に北米市場にとって破壊的な技術になりうると信じています」とハッチェンバーグ氏は説明する。

SPEEDA Edgehttps://sp-edge.com/

Algoritmi - 成海里比古氏、須田隆太朗氏、シナ・グロッサー氏

 Algoritmiは、AIとITを通じてスマートホステルや住居を提供する会社。カンファレンスのショーケースとピッチ大会の両方でプレゼンテーションを行った。CEO兼シニアアドバイザーの成海里比古氏、CTO兼COOの須田隆太朗氏、広報担当のシナ・グロッサー氏に話を伺った。

「我々はファミリーキッチンのコンセプトを基に会社を設立しました。スローガンは『美味しいパンとコーヒー』です。昔のように、人々が集まり、焚火を囲んで座っていた時のように感じてもらいたかった」と成海氏は創業のコンセプトを語った。

 現在、Algoritmiは岐阜県・高山市で1つ目のロケーションを運営しており、さらに2つのロケーションの開業を予定している。伝統的な旅館を改築したスマートホステルは、セキュリティを顔認証技術に、清掃や厨房のチェックなどのメンテナンス作業をカメラ(画像認識)に置き換えた技術を使用している。

「清潔さとセキュリティが解決すべき主要な問題でした。そのため、スマートホステルシステムは、最小限のスタッフでも十分な支援が得られるように設計されています」と須田氏は課題を語ってくれた。

 同社の広報担当でコンテンツ制作者のシーナ・グロッサー氏は、デジタルノマドのニーズは増加傾向であり、ポテンシャルが高いと語る。「新しいビザにより、多くのデジタルノマドが日本に来るでしょう。Algoritmiを通じて、デジタルノマドが迅速に住居を見つけ、適切なコミュニティを見つけられるようにしたいのです」

 現在、会社は高山市、運営するすべてのホステルも高山市のみであるが、須田氏は拡大に自信を持っていた。「デジタルノマドはどこからでも働けるので、どこでも運営できるサービスを提供したいと考えています」

 日本が誇る高品質なサービス体験を北米のユーザーに広げるきっかけの一つになっただろう。

Algoritmi: https://www.algoritmi.care/

●Ikigai - 藤戸美妃氏

 Ikigaiは、孤独を和らげるというコンセプトのヘルスケアテック企業だ。同社は高齢者の孤独を和らげるためにAIチャットボットを作成している。会社のファウンダーである藤戸美妃氏は、ショーケースとピッチ・コンペティションの両方に出場した。

 ハンガリーのデブレツェン大学の6年生医学部生である藤戸氏は、Ikigaiの創設は彼女の祖母からインスピレーションを受けたと説明した。「私の家族は愛媛の小さな町から来ましたが、今は皆大阪に住んでいます。数年前に祖父が亡くなり、私は今ほとんどハンガリーに住んでいるので、祖母と話す時間は限られています」と創業のきっかけを教えてくれた。国境を越えた祖母への想いから生まれたサービスコンセプトが北米でも受け入れられるのかを確かめていた。

 藤戸氏は、高齢者の孤独を和らげ、回想療法を通じて人間と交流しているようなAIボットを開発している。

「AIが高齢者にとってより個人的で親しみやすいものに感じられるようにしたい。今はプロトタイプをテストしており、介護施設でも実証実験をする予定です」

来年は西海岸で開催。アクセスも容易に

 今回Collision内で行われた日本発スタートアップのピッチは、北米市場開拓に向けた第一歩であったことは間違いない。日本のサービスコンセプトが北米でも成り立つのか、日本発のディープテックの市場ニーズは何かなど、概念検証や認知拡大と共にサービスのプロモーションの場として活用していた。日本とは異なり、多様な文化やニーズ、商習慣が存在する北米市場は乗り越える壁が多いが、市場も大きい。引き続き日本のスタートアップにはどんどん挑戦してほしいと思う。

 なお、2025年からCollisionはトロントからバンクーバーに開催地が変更となり「WebSummit Vancouver」と改名されるという。トロント(広域で630万人)に比べてバンクーバー(広域で260万人)は小さな都市となるため、規模としては小さくなる可能性がある。

 しかし、バンクーバーは西海岸に位置し、日本から一番近い北米の都市の一つ。北米で最大の東アジア系住民が住む都市でもあるため、日本人にとっては挑戦しやすいカンファレンスになるのではないか。

 著者プロフィール

 アーロン・ウィルソン
 PRスペシャリスト
 ShapeWin Canada
 https://www.shapewin.co.jp/en/

 カナダ出身トロント在住。日系PR会社のShapeWin Canadaで北米のPRスペシャリストとして、日本企業を始め世界中のテック企業をクライアントに抱える。日本語学習歴7年で俳句や短歌を詠い、日本企業と北米市場の「架け橋」として越境コミュニケーションPR戦略・戦術を担当。直近では米Fortune誌で日本の特徴的なマーケティング手法について解説。

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