◆高速道路では燃費が常識的数値に
しかし、乗り心地はスーパースポーツの水準で見れば、ハードで使い物にならないなんてことはありません。荒れた路面でも快適性は保たれていて、長距離移動が多いアメリカらしい快適性だなと思わされました。
長距離移動という意味では、高速道路を走行した際の燃費性能も結構ビックリしたポイント。お借りして乗り始めた当初は街乗りの低速域が多かったためか、メーターには平均燃費が4.6km/Lで航続距離は満タンで300kmと表示されており「おいおいマジかよ……」と感じましたが、高速道路を走り始めると燃費計はグングン上昇。頑張れば10.0km/Lを超えることもありました。646PSのハイパワー大排気量の自然吸気エンジンであることを考えると上デキと言えるでしょう。
室内に入ってくる音も小さいわけではありませんが、低音が多いためか疲労度を大きくする不快な要素は少なかった印象です。コルベットらしいGT性能はZ06でも残されている感触を得ることができました。
しかし、ここでもギア比はちょっと日本の高速道路には合わないかもと実感。100km/h前後で巡行していると2500rpmあたりで回転していて、「うーん、結構高回転で巡行するんだなぁ」と思いながら、新東名に入ると8速へとシフトアップ「あ、もう1速あったんだった」と実感。ギア比はアメリカ仕様なのかなぁと思わされました。
◆レーシングエンジンそのものに感動
そして、今回の試乗で最も感動したのが「エンジン」! 5.5LのV8エンジン「LT6」はレーシングカーである「C8R」に搭載されたエンジン「LT6R」とブロックやヘッド周りを共有していて、レーシングエンジンと並行して開発が進められました。そんなエンジンは最高出力646PSを8550rpmで発生するという高回転型ユニット。
スーパースポーツでもダウンサイジングターボの傾向にある現代において、ココまで自然吸気エンジンでハイパワーを絞り出すエンジンはなかなかありません。ちなみに、OHVが伝統のコルベットとしては珍しいDOHCエンジン。カタログモデルとしては1989年に登場したC4時代のZR-1以来のDOHCです。
ちなみに、アメリカ仕様は679PSとなっています。この違いは日本の法規に対応させるべくマフラーを変更しているから。本国仕様はセンター4本出しのマフラーなのですが、そのうち真ん中2本はなんと直管仕様。それでは日本だけでなく法規的に通らない国や地域が出てきます。
街乗りの低速域でこそトルクの薄さを感じましたが、レーシングエンジンほぼそのままという背景を考えれば納得のいくものです。そして何より感動したのはそのエンジンフィーリング。高回転まで回せば回すほど、パワーとトルクが湧き出てくる感触で、忘れかけていた「高回転型NAエンジン」のフィーリングを思い出させてくれます。しかも、トップエンド近い7000rpmオーバー領域のトルクとパワーは暴力的と言えるくらいインパクトが強く、ターボだとか自然吸気だとかいう理論がすっ飛ぶほどのハイパワー&ビックトルクを体感しました。
イマドキこんなに回してパワーが湧き出てくるような、高回転NAエンジンならではのフィーリングを持っている市販車はほかにそうないので、このエンジンだけでも「買い」の価値はあるかもしれません。お値段は2500万ですが……。
◆ワインディングは車体の大きさを感じさせない走り
ワインディングに入るとアメ車にありがちなイメージである、重たく、ダルなフィーリングということはまったくなく。ステアリングに瞬時に反応してくれるような、シャープなノーズの入りが特徴的なステアリングフィールは、ワインディングを流す程度のペースでも楽しめます。
速度を上げていってもフラットなロール感で安定しつつ、荷重がどこに乗っているかが比較的分かりやすく、快適な乗り心地を考えると良くできたサスペンションであり、曲がることも得意だと痛感しました。これにはミドシップ化による前後重量配分も大きく影響していることでしょう。
そして、パドルシフトでシフトダウンするたびに驚かされるのがレスポンスの良いブリッピング。少しだけ空ぶかしをした時も驚きましたが、まるでバイクのエンジンのように軽やかに吹け上がりブリッピングするエンジン音は、レーシングカーそのもの。エンジンパワーだけじゃない、エンジンの各種フリクション(摩擦)や回転物の軽量化を実現したからこそのフィーリングが表れていました。
低速域ではアメ車らしく、そしてワインディングではヨーロピアンスポーツらしい乗り味を見せる。Z06はそんな印象のクルマでした。ハイパフォーマンスモデルでも自然吸気エンジンはもはや希少な存在。これだけのパフォーマンスがあって、レーシングエンジン顔負けのNAエンジンを搭載していることを考えると、約2500万円という価格はお買い得かもしれません(もちろん筆者には買えませんが)。
これまでヨーロピアンスーパースポーツに乗っていた人たちも、見た目が気に入ればZ06は「アリ」な1台でしょう。
この連載の記事
-
第483回
自動車
【ミニバン売れ筋対決】ホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」の良いところと微妙なところ -
第482回
自動車
これがBMWの未来! フラッグシップEVの「iX」は乗り心地良すぎで動くファーストクラス -
第481回
自動車
アルファ・ロメオのハイブリッドSUV「トナーレ」はキビキビ走って良い意味で「らしく」ない -
第480回
自動車
独特なデザインが目立つルノーのクーペSUV「アルカナ E-TECH エンジニアード」はアイドルも納得の走り -
第479回
自動車
レクサスのエントリーSUV「LBX」は細部の徹底作り込みで高級ブランドの世界観を体現した -
第478回
自動車
レクサスの高級オープン「LC500 コンバーチブル」は快適さのその先を教えてくれる -
第477回
自動車
BMWの都市型SUV「X4」は直6エンジンならではのパワフルな走りがキモチイイ! -
第476回
自動車
最新のマツダ「ロードスター」は乗った誰もが乗り換えを検討するレベルのデキの良さ -
第475回
自動車
EV=無個性ではない! BMWのEV「iX3」は剛性ボディーが魅力のミドルサイズSUV -
第474回
自動車
ルノーのコンパクトカー「ルーテシア E-TECH エンジニアード」は軽量でパワフルでスポーティー! -
第473回
自動車
ホンダの大人気ミニバン「FREED」に乗ってわかった5つの良くなったポイント - この連載の一覧へ