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横浜の学生チームが会社経営を授業で体験。融資相談に金融機関もコメント

横浜市 会社経営体験プログラム 成果発表会 開催レポート

提供: 横浜市会社経営体験プログラム/横浜市

 横浜市では、市内の小学校・中学校等を対象に、株式会社角川アスキー総合研究所・株式会社セルフウィングの協力のもと、会社経営体験プログラムを継続的に実施している。2023年度は、市内10校の学生が4か月間のプログラム体験の中で会社を作り、企画から決算までを行った。本稿では成果発表会に参加した6校のプレゼンを紹介。起業家精神を育む授業を通じ、現役の小学生たちがどのような発表をしたのかレポートする。

2024年2月に開催された成果発表会には、実施校のうち、伊勢山小学校、下末吉小学校、義務教育学校霧が丘学園中学部、美しが丘中学校、二つ橋高等特別支援学校、東市ケ尾小学校の計6校の代表チームが参加。コメンテーターとして、横浜銀行の畑 翔太氏、横浜信用金庫の野田 淳嗣氏、横浜市信用保証協会の杉山 文彦氏、日本政策金融公庫の辻井 拓也氏、横浜市教育委員会事務局 日比野 卓也氏の5名が参加し、司会進行は起業家精神教育プログラムディレクター SAIL 代表の石井 龍生氏が務めた。

横浜市内の6校の児童・生徒がプレゼンテーション

 横浜市では、2022年度から横浜市経済局と教育委員会事務局との連携により、市立の小学校・中学校・義務教育学校・特別支援学校を対象に、総合学習の時間等を活用して会社経営体験プログラムを実施している。プログラムは株式会社セルフウイングが提供するアントレプレナーシップ教育をベースに、疑似的に会社をつくり活動することで、チームワークの大切さを学び、失敗をおそれずに未来を切り開く「生きる力」を育むことを目的としている。

 4~6人でひとつの会社を作り、起業から市場調査、商品企画、資金調達、商品製造、広告、販売、決算までを体験する。2023年度は、横浜市立の10校が、9月から1月までの4カ月間で約15時間のプログラムを実施した。

小学校45周年記念のグッズを作成。 横浜市立伊勢山小学校(会社名:SKY MANビジネス)

 伊勢山小学校の代表チーム「SKY MANビジネス」は、「伊勢山小学校45周年記念のグッズを作ろう!」をテーマに商品づくりに取り組んだ。

 市場調査では、5年生の53名を対象によく使う文房具や好きな色などのアンケートを実施し、キーホルダーと刺しゅう入りタオルの商品を企画。事業計画として、材料費は1商品当たり550円、キーホルダーは価格670円×10点、タオルは価格700円×7点を販売することを想定し、金融機関への借り入れを行った。金融機関との交渉では、利子の計算や売るための工夫を説明するのが難しかったそうだ。

 借り入れ後は、ポスターとCMを制作。会場では、大判ポスターと、写真と手書きイラストのアニメーションを組み合わせて商品を紹介するCM動画が披露された。

 販売会では、キーホルダー、タオルともに完売。宣伝CMを流しながら集客したことが売り上げにつながったようだ。ただし、2点ほど値下げをしたことで、計画と売り上げの差ができてしまい、安易に値下げしない、最初から低価格で設定する、などを改善点として挙げた。

 また、一人ひとりが自分の役割を意識しながら仕事ができたこと、困ったときはひとりで抱えずに相談して進められて、楽しく取り組めたことを、プログラム全体を通して学んだこととして挙げていた。

 金融機関としてプログラムに協力した横浜銀行の畑氏からの講評では、「アンケート調査で細かい部分までヒアリングをし、具体的なニーズを深掘りして商品を作っていったのが素晴らしい。金融機関側としては1商品と考えていたが、2商品に挑戦したところも良かったと思います。お客さんの反応を見て値下げしたことで完売につながっており、企業としてはいい判断です」と評価した。

「みんなをプチハッピーにする」商品を開発。横浜市立下末吉小学校(会社名:BTG Life)

 下住吉小学校の代表チーム「BTG Life」は、開発した商品「ムンクの成長」を紹介。

 同校では「みんなをプチハッピーにする」をテーマに商品開発を行った。市場調査は、ロイロノートのアンケート機能と直接の聞き込みの2通りで実施し、かわいい系、面白い系、便利なものが好き、という調査結果から、収納グッズを作ることに決定。最初は本立てを使った収納を計画したが、デザインがシンプルでインパクトが弱いことから再考となり、アイデア出しには苦労したようだ。

 出来上がった「ムンクの成長」は、上履きを顔に見立てたユニークな小物入れ。口の中に小物を入れて収納として使うほか、顔を変形させて遊ぶことができる。 価格は500円で、顔の違う男の子と女の子の2種類を20個ずつ、計40個を販売。当初の販売価格は650円で計画していたが、融資相談でのアドバイスを受けて材料費を見直し、150円値下げしたそうだ。

 広告は、変形で遊べる楽しさと収納にも使える便利さをわかりやすくアピールすることにこだわり、CMではリズムに合わせて表情が激しく動き、商品の面白さが伝わってきた。

 販売は好調で、前半で半分以上を販売し、早々に完売できたそうだ。成功理由としてCMに効果があったのではと分析している。プログラムを通して、効果的な広告や集客の工夫、役割分担、原価と価格設定などを学んだことで、起業のイメージがより身近になったと話した。

 講評では横浜信用金庫の野田氏が「調査を役立てて、『面白い』『便利』をしっかりと取り入れた商品を作っており、CMも良くできていて面白いです。融資相談のアドバイスを受け入れて材料費を見直すなど、価格調整もうまかったことが成功に導いたのでは、と思います」とコメントした。

市場調査をもとにした便利な筆箱。横浜市立義務教育学校霧が丘学園中学部8年(会社名:アジダス)

 義務教育学校霧が丘学園中学部8年の代表チーム「アジダス」は、便利な筆箱をテーマに「フデダス」を開発した。市場調査では、小学校高学年を中心にアンケートをとり、収納が多く、寒色を好む意見が多かったことから、収納力の高い青い筆箱を企画した。ペンホルダーと小物収納ポケット2つを備え、大容量で整理整頓しやすいのが特徴だ。

 事業計画では、参加17チームの総売上のうち15%を自社の売上目標に設定し、原価350円、75個を製造して、単価670円で販売することとした。金融機関への説明では、購入者へのメリットを伝えるのが難しかったそうだ。

 ポスターには商品をイメージしやすいように、写真を大きく配して吹き出しで説明。注目してほしい商品名と価格は、大きな赤い太字で目立たせた。CMは、SNS用のショート動画を作成。通販番組のような商品説明動画で特徴をわかりやすく伝えていた。

 販売会では集客に力を入れ、小学校低学年を中心に男女偏りなく売れたそうだ。終盤には売り上げが落ち着いてきたため、急な価格変更をしたことで計画と多少のずれが生じてしまったとのこと。改善点として、先を見据えた計画を立てること、計画を変更する際は焦らずに仲間と情報共有することなどを挙げた。

 融資相談を担当した横浜市信用保証協会の杉山氏は、「アジダスは17チーム中のチャンピオン。会社名が『アジダス』、商品名が『フデダス』とネーミングがキャッチーで記憶に残りやすいのも勝因のひとつだったのではないでしょうか。17チーム中の6チームが筆箱だったなかで、『便利な筆箱』をテーマに設定し、うまく差別化していました。 ポスターも伝わりやすく考えられています。値下げしたものの赤字にはならず、利益をしっかり残しています」とコメントした。

リサイクルと花の廃棄問題の解決がテーマ。横浜市立美しが丘中学校(会社名:株式会社ポテトマン)

 美しが丘中学校の代表チーム「株式会社ポテトマン」は、リサイクルと花の廃棄問題の解決をテーマに、廃棄される花とペットボトルをアップサイクルしたフラワーキャンドルとリメイクチャームを企画。商品の企画をポスターで表現し、チケットで販売した。

 地域課題を調査したところ、花の産業廃棄率は30~40%で年間1500億円もの経済損失となっている。結婚式の花はすぐに捨てられてしまうことから、その再利用を考えたという。 金融機関との融資相談では、女性向きの商品に見えると指摘を受けたことから、男性も手に取りやすいデザインに工夫し、またリサイクルを前面に押し出すようにしたとのこと。

 商品のフラワーキャンドルは、ロウソクにドライフラワーを入れたキャンドルで、花は結婚式やパーティーで使われた花を再利用したもの。見た目もかわいらしく、イベントの記念にもなる。リメイクチャームは、ペットボトルを溶かして作ったアクセサリーだ。材料を持参することで色や形をアレンジでき、リサイクル意識の向上にもつながる。また、廃棄された花とペットボトルを再利用することで材料費も抑えられる。

 販売数は42個で目標の60個には達しなかったものの、利益を出すことができた。購入者は女性が多く、顧客ニーズの情報収集不足を課題とした。

 プログラムを体験して気づいた点として、仕事内容を自分の判断で決めるのではなく、話し合うことの大切さや、CMで商品の魅力を伝えることの難しさを挙げた。

 融資相談を担当した日本政策金融公庫の辻井氏は、「プランの良かった点は、社会課題に着目して解決策を提示していること。フラワーキャンドルは商品化もされており、アイデアとしても実践的で素晴らしい。アップサイクルは今後も注目される考え方なので、ぜひ意識を持ち続けていただきたいと思います。このチームは、しっかりと振り返りをしていたのも好印象でした。お客様が求めていることを気付けるのは大事なこと。商売はお客様のニーズを探り、検証を繰り返すことが非常に大事です。この経験を生かして、いろいろなことにチャレンジしてほしいと思います。」とコメントした。

買った人が幸せになれる小物をつくる会社。横浜市立二つ橋高等特別支援学校

 二つ橋高等特別支援学校では、「買った人が幸せになれる小物をつくる会社」をテーマに、6つの会社を作り、それぞれカレンダーやキーボードの商品開発に取り組んだ。

プレゼンでは、6社が開発した商品、事業計画の様子、ポスターを写真とともに紹介

 実際に販売する瀬谷区役所での実地アンケートを予定していたが、区役所との日程調整がうまくいかず、利用者を想像しながら商品開発することになったそう。

 瀬谷区役所での販売は、他のフロアにもチラシを配り、一般の通行人にも声をかけて商品の実用性を伝えたが、人通りが少なかったこともあり、想定したほどは売れなかったという。校内販売では、値引きやセット販売することで買ってくれる人が増えたが、値引きをしすぎたことから全社が赤字になってしまった。振り返りでは、値段が高かったので、製造数を少なくすればよかった、男性向けの商品が少なかった、市場調査を大切にする、製造ミスも多かった、などの次回に向けての改善点を挙げた。

 融資相談を担当した横浜市信用保証協会の杉山氏は、「リアルマネーでの販売を体験したので、区役所での販売は大変だったと思います。その中でも一般の方が商品を手に取り、お金を出して買ってくれたのは貴重な体験だったのでは。アンケートを実施できていればもっと売れたでしょう。融資審査では、みなさんが自分の強みやいいところを出し合って相談して、ひとつの商品を作り上げようとしているのが印象的でした。ビジネスに限らず、ひとりの力ではできないことも、みんなの力を持ち寄ると大きなことができることを学べたのではないでしょうか」とコメントした。

マカロンにチョコペンで絵を描いて楽しめるスイーツ。横浜市立東市ケ尾小学校(会社名:Happy sweet art)

 2022年度から継続実施した東市ケ尾小学校は、6年生が15の会社をつくりプログラムに取り組んだ。代表チームのHappy sweet artの開発した商品は、「お絵描きマカロン」。マカロンにチョコペンで絵を描いて楽しめるスイーツだ。市場調査では、アレルギーについても調査し、ナッツアレルギーの人がいたことからアーモンドプードルを使わないレシピを採用した。調査をもとに試作したところ、一般的なマカロンのサイズでは小さすぎてうまく絵が描けないことが判明し、試作の重要性を知ったそうだ。

 材料費と販売数、値段を設定して事業計画を立て、横浜銀行の協力のもと融資相談を行った。材料費を慎重に計算し、商品を入れる袋に肉球などのイラストを入れる工夫をアピールしたという。

食べる喜びに、絵を描く楽しみを付加価値としてプラスした「お絵描きマカロン」

 販売会では、ポスターや特大看板を設置したほか、サンプルを展示し、タブレットでCMを流すなど商品のわかりやすさを工夫した。前半ではなかなか売上が伸びず、宣伝に力を入れたところお客さんが集まるようになり、宣伝の大切さを実感したようだ。

 プログラム全体の振り返りとして、「一人ひとりの役割を達成できてよかった」「計画と実績に差が出てしまい、具体的にイメージすることが大切だと思った」「たくさん売れ残ってしまったけれど、商品を考える時間が楽しくいい経験になった」などの意見を発表した。

 融資相談を担当した横浜銀行の畑氏からは、「同校は計算ミスが少なく丁寧に取り組んでいたのが印象的でした。実際の融資ではこうした細かいところに熱意が現れるのでとても大事です。アンケート調査もしっかりされており、アレルギーにも配慮した発想が非常に良かった。ほかのチームにも飲食系のアイデアがあったなか、お絵描きという体験の価値を加えたこともいい。市場調査では欲しいと言った人でも、当日買ってくれるとは限らないのはよくあること。振り返りを繰り返すことでより良くなると思います」とコメントした。

 発表会の最後には、横浜市教育委員会の日比野 卓也氏が登壇し、全体講評を述べた。

横浜市教育委員会事務局 日比野 卓也氏

「各学校の取り組みの発表のなかで、『自分の役割を理解する』、『一人で抱えず相談する』、『お客さんに寄り添う』、『自分のやりたいことをやる』、『やろうと思えばできるという達成感を味わう』、『先を見据えて行動する』、『情報を仲間と共有する』、『見る人に伝わりやすいわかりやすさを工夫する』、『定期的にみんなと話し合う』、『売れ残ったものを場所を変えてリトライする』、『それぞれの個性を出せた』、『意見を出し合うコミュニケーションが大切』、『宣伝の必要性に気付いた』、『一人ひとりの役割がわかった』、『具体的にイメージすることが大事』――といった言葉が6校から出てきたのが印象的でした。このプログラムで得たこれらの力はとても大事だと思います。

 現代は、VUCAの時代と言われています。VUCAとは、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取った言葉で、さまざまなことが複雑に絡み合い、単純な解決策を導き出すのが難しい時代です。このプログラムでは、難しい状況の中でいろいろな努力をし、成果を出すことができたと思います。プログラムで得たものは、きっとこれからの世の中を生き抜くための力になるはずです。この経験を生かしながら、これからの自分を作っていき、社会もつくっていくという2つの視点で成長していっていただけるとうれしいです。

 皆さんの取り組みの中でも特に驚いたのがCMの面白さです。こうしたCMが簡単につくれる時代にいる皆さんがこれから力をたくさん発揮して、活躍していく世の中になることを願っています」

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