ディープテックスタートアップが日本発である合理性。キーワードは量産と品質保証
エレファンテック清水 信哉氏 × インスタリム徳島 奏氏、海外展開スタートアップ1万字対談
提供: XTC JAPAN
自分では手の届かない、世界的なキーマンにリーチできるXTCのサポート
――実際XTCのファイナリストに選ばれることで、海外進出に関してはどのようなサポートがあるのでしょうか。
春日:それぞれの国にいるXTCグローバルパートナーが現地のエコシステムとのネットワークを持っているので、体制としてある程度のサポートはできるかと思います。ただし実際には、起業家の方によって必要とされるタイミングや必要とされる形は違います。24時間365日リクエストがあるわけではありませんが、必要なときに必要なサポートを提供できるようにと考えています。
清水:サムスン電子の元社長のヤン・ソン(Young Sohn)氏とお話しできたのは興味深かったです。そこから直接ビジネスにつながったわけではないですが、海外の大きな物流とエレクトロニクスメーカーのトップの方とつながれるのは、我々にとって大きな意義があります。
――それはトップの視点を知ることができるからでしょうか。
清水:サムスンのような大きな会社を動かすには、1点からではなく、複数のルートから攻めていくことが後から効いてくるケースもあります。そういった戦略的にいろいろなパスを作っておくことは、社内でも味方を作っておくことで稟議が通りやすくなるなど、いろいろ応用できます。
――海外の大物に会えるのはXTCだからこその価値ですね。
春日:そうですね。XTCを創業したビル・タイ(Bill Tai)氏もヤン・ソン氏も半導体業界の出身なので、製造業やハードウェアのものづくりには非常に親和性が高いです。エコシステムのネットワークも広く、幅広い企業にリーチできます。ソフトウェアの世界だけではリーチできない大手企業のエグゼクティブにアクセスできるのはXTCの特徴です。
徳島:僕らがXTCのメンバーとのつながりをさらに強くしたいと思っているのは、イグジットの文脈にあります。今はまさにシリーズBなので、どのようにイグジットするか、舵の切り方を考えないといけない状況にあります。もちろんIPOを目指していますが、投資家からはプランBとしてM&Aでバイアウトできる可能性も問われます。
IPOは価格変動が大きいですし、バイアウトもあり得ますと言うためには、実際の候補先が必要なわけです。XTCは世界中にネットワークがあるので、今後、バイアウト先の候補にアクセスする際のルートになってもらえるのでは、という期待値があります。また、バイアウトも選択肢にあると言えることは、結局、資金調達のハードルを下げることにもつながるので非常に重要なことだと思います。
春日:おふたりにも共通しますが、起業家自身がやればできるようなことをXTCのサポートにリクエストされることはほとんどありません。意欲のあるスタートアップは、他人に助けを求める前にどんどんやってしまいますから。ただ、自分ではどうしても届かない、エグゼクティブとのネットワークやM&Aといった部分にXTCのサポートを活用していただくことが多いですね。
徳島:XTCにサポートしてもらっているのはまさに上層レイヤー部分で、M&Aを将来的な可能性として見据えながら、メーカー間をつないでもらう具体的なご提案をいただいています。
日本で創業し、マーケットを海外に定める合理性
春日:おふたりにお聞きしたいのですが、日本の投資家とやりとりしていて、日本でスモールIPOしてほしい、というプレッシャーをかけられたとき、どのように対応していますか?
清水:スモールIPOは、ファンド期限があるのが大きいと思っています。その点は海外も同じで、期限が来れば何かしらの手段で現金化しなければならないのは、ファンドの宿命ではないでしょうか。
春日:海外の場合は、ファンド期限がきたときに回収できないとしたら、それはファンド側の責任となります。セカンダリーで売るなり、ファンド側でなんとかしろ、と。ですが日本の場合、スタートアップ側になんとかさせようとすることが多く、それは起業家にとってキツイ環境だと思っています。
清水:それは起業家としてポジションとってしまうだけという気もするんですよね。極論を言うと投資は自己責任なので、株主の責任をうちが追う必要はない、と言い切ってしまえばいい。タイムラインが合わない人にはセカンダリーで出て行ってもらう。おっしゃるとおり、日本にはセカンダリーの事例があまりないというのも事実ですが、弊社はけっこうセカンダリーをやっているんですよ。
徳島:スモールIPOするのは、東証が小さい上場を受け入れてくれるという事情もあるかと。ナスダックで小さく上場すると値段が付かないという話も聞きます。東証は小さく換金できるので、目先のお金につられてしまうケースはあるかもしれません。
しかし、今の日本はものづくりで再起させないといけない状況にあり、ユニコーンになる可能性のあるハードウェアスタートアップをしっかり育てていかないといけない。その社会正義のもと、エレファンテックのように、セカンダリーで処理する実績を作ってくれているのは頼もしいですね。
春日:エレファンテックは東証での上場を目指していらっしゃるとか。海外の株式市場ではなく、あえて東証を選択する理由はどこにあるのでしょうか?
清水:日本から東証を使ってグローバルに勝てることを我々が証明したいからです。投資家からは「日本発でグローバルで勝った会社は1社もない、無理だからやるな」と言われていますが、反対する理由は前例がないからだけなんですよね。大谷翔平選手も二刀流は無理だと言われていたわけですし。1社でも成功例が出れば、東証からどんどん日本発のイノベーションが生まれるようになると私は信じています。
徳島:僕は正直、清水さんほどには日本に対する愛はなくて、どこでもいいや、とは思っているのですが、でも冷静に考えると、やはり日本ですね。なぜ日本を本社にしたのかというのも、結局日本っていい国なんですよ。東証はナスダックなどに比べて上がりやすいし、研究開発のしやすさ、メーカーの強さ、ものづくりの環境のよさ、エンジニアの集めやすさ、など総合的に考えると、日本は地力があるな、と。僕は日本でやることに合理性があると思っています。
清水:そう言われると、私も愛国心というよりは合理性ですね。日本は研究開発費が少ないと言われますが、GDP比率で見れば米国よりも高いんですよ。にもかかわらず新規事業が生まれていない。このイネーブラーになれば、インパクトが起こせます。米国で同じ規模のスタートアップをやっても数多くのスタートアップのうちの1社にすぎないけれど、日本で起業して成功し、連鎖的なエフェクトを起こすことに意味を感じています。
徳島:事業インパクトというよりも、事業を成功させることへの社会インパクトですね。
春日:合理性という観点では、販売にせよ、パートナーシップにせよ、海外との協業は合理的な選択肢になることは、冷静に考えると当然のことだと思います。けれども、海外が選択肢に入ってこない起業家の方が日本にはたくさんいらっしゃる。海外を選択肢に入れるために、日本の起業家の方々にはまず何を伝えたらいいでしょう?
清水:マーケットによってはグローバル展開が不可能なケースもあるので、まずは市場選定をしっかり考えること。我々のようにプロダクトが語ってくれるからグローバルに行くタイプ、インスタリムのようにグローバルに土着的に入っていくタイプといろいろなパターンがあり、その戦略を間違えてしまうとうまくいかないので、最初に戦略をよく考えるのが大事です。
徳島:本来的には、創業時の事業計画書に海外戦略は入っているべきことのように思います。僕のようなエンジニア出身の起業家は事業計画やマーケットに疎いところがあるので、投資家の方から「日本にはマーケットがないから、海外の土着モデルをやらなければいけないよ」とアドバイスするといいかもしれません。僕の場合は、土着モデルをやります、といって理解してもらえる投資家を見つけるのが難しかったのですが。逆説的ですが、これまでは日本の投資家が海外に目を向けていなかったからこそ、海外に挑戦するスタートアップが少なかったとも考えられます。
清水:アドバイスとしては、やり方がわからなければ、気になる会社に聞きに行けばいいのです。起業したからには人生かかっているんだから、恥ずかしがっている場合じゃない。会社に聞きに行ってもいいし、その会社に投資しているVCに聞きに行けばいくらでも教えてくれると思いますよ。
取材を終えて【日本大会「XTC JAPAN 2024」3月1日開催】
XTC JAPAN幹事の春日 伸弥氏は、独立系ベンチャーキャピタル・IT-Farmのジェネラルパートナーでもある。日米欧など全世界の技術スタートアップを発掘・出資・事業開発しているキャピタリストであり、海外の起業家やネットワークを目の当たりにし続けている同氏から見て、今回の対談はどのように映ったのか。また、日本発で海外に挑戦すべき重要なポイントはどこにあるのか。
「国内で成功してから海外に挑戦するのではなく、起業当初からグローバルに製品と事業を開発する。エレファンテックとインスタリムの創業者が『合理的』と口をそろえた海外戦略は、実は全世界のスタートアップでも一般的です。北米のGAFAや欧州のSkype、日本発のトレジャーデータなど大型スタートアップの多くは創業初期から国境を越えてユーザーを獲得してきました。
この対談では、『国内で成功する苦労を100とすれば、海外で成功させる苦労はせいぜい120。世界のマーケットは10倍以上なのでリターンは大きい』というインスタリムの実感には勇気づけられました。また、『これからは海外市場をターゲットに数千億円、一兆円の価値を狙うスタートアップが資金調達市場で生き残る』というエレファンテックの視点も印象的でした。
日本でもテクノロジー分野を皮切りに、グローバルでの実績を積んだ起業家や投資家が登場しています。清水さんや徳島さんと同様に、こうした人々はグローバル投資家や海外企業とのコミュニケーションに多くの時間を使っています。XTCをはじめとするグローバルプレーヤーのコミュニティに飛び込み、世界で勝負する先輩起業家や投資家に相談しながら資金調達や事業開発を進めているのが共通点と言えるでしょう」(春日氏)
2024年3月1日には、グローバル課題に技術で取り組む起業家のための世界最大規模のスタートアップ・コンテストの日本大会「XTC JAPAN 2024」(ベルサール汐留での「JAPAN INNOVATION DAY 2024」と共同開催)にて、選考を勝ち抜いた栄えある10社のスタートアップが登壇する。同イベントでは、「日本発のディープテックスタートアップが世界に伍するために必要な要素」や「日本発スタートアップのCEOにそのマインドセットやターニングポイントを聞く」セッションも展開予定となる。ディープテックスタートアップの世界標準をぜひ会場で体感してほしい。