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荻窪圭の“這いつくばって猫に近づけ” 第819回

富士フイルムの「クラシックネガ」で撮るフィルム風の猫写真が昭和っぽくて渋くてたまらない

2023年06月07日 12時00分更新

文● 荻窪 圭/猫写真家 編集●ASCII

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稲荷の祠(ほこら)の裏に隠れてた恰幅のいいキジトラ。湿度が高そうな日本の梅雨って感じが画面から匂ってくるのがたまらない。2023年5月 富士フイルム X-T4

 デジカメはどれも……メーカーによって名称は違えども(ソニーなら「クリエイティブスタイル」か「クリエイティブルック」、キヤノンなら「ピクチャースタイル」、ニコンなら「ピクチャーコントロール」など)、それぞれポートレート向け、風景向けなど複数のカラースタイルを持っていて、シーンによって使い分けられるようになっている。同じものを撮っても、スタイルが違えば細かな色合いや階調が異なったテイストに仕上がるのだ。「仕上げの違い」をもたらす機能と思えばいいかも。

 で、その中で異彩を放ってるのが、富士フイルムの「フィルムシミュレーション」。かつて写真家は、フィルムを使い分けることで必要なテイストを表現していた。老舗にして日本最大のフィルムメーカーだった富士フイルムは、その感性や知見をデジカメに持ち込んだのだ。これがまた魅力的なのである。

 選べるフィルム(モード)はたくさんあるのだけど、私のお気に入りは「クラシックネガ」。文字どおり、クラシックなネガフィルムで撮ったときのような味わいを見せてくれるのだが、これで街の猫を撮ると、渋くてワイルドでいいのである。

 冒頭写真がそれ。とある小さな稲荷の祠(ほこら)の脇に「お稲荷さんの中に猫のエサを置かないでください」と貼り紙があり、もしやと思って裏に回ってみると、ふてぶてしい顔をしたキジトラが、どでんと隠れてたのである。

 クラシックネガで撮ると、「ふてぶてしさ」とか「どでん」って感じが出るでしょ。ちょっとくすんでやさぐれた感じ。

 今回、突然、クラシックネガがどうのこうの言い出したのは、富士フイルムが新しくリリースした「XApp」という、Xシリーズ用のスマホアプリのせい。これ、デジカメとリンクさせると自動的に「アクティビティレコード」ってのを記録してくれて(旧機種ではカメラ側のファームアップが必要)、フィルムシミュレーションについても、どれで何枚撮ったかが表示されるのだ。

「XApp」アプリの「アクティビティ」画面。アプリはリリースされたばかりなので枚数は少ないけど、「クラシックネガ」で191枚も撮ってた。

 これで「そういえば、クラシックネガで猫を撮るのがいいんだよな」と思い出し、「X-T4」(残念ながら最新モデルの「X-T5」にする予算がない)を持ってぶらぶら街歩きしてたら、猫に何匹も出会ったのだ。車の下から顔を出してたりとか。

車の下に何かが飛び込んだ、と思ったら猫。ちょこんと顔を出してこっちを見てたので、思わず撮影。2023年5月 富士フイルム X-T4

 目が合ったらさっと逃げたので、もしや、と車の下にレンズを差し込んでみたら(不審者ですみません)、隠れておりました。クラシックネガならではの渋い階調と色合いがたまりません。

モニタを開き、レンズを車の下に差し入れてみたら、ちょこんと座ってたのだった。車の裏側の金属感が渋い。2023年5月 富士フイルム X-T4

 さらに似合うのが路地。

 言うまでもなさそうだけど、昭和っぽい路地をクラシックネガで撮ると、実に味わいが出るのだ。湿気が多い、じとっとした日本の路地って感じ。そして、そんな路地の奥に猫がいたのである。3匹も。

”暗くて狭い路地の奥”感が、実にいい具合。今にも雨が降りそうだ(降らなくて助かったけど)。2023年5月 富士フイルム X-T4

 そっと近づいたら逃げてしまったのだが、そのままじーっと待ってたら、ハチワレ兄弟(だと思う)がひょっこり戻ってきて、こっちをじーっと見てるのである。動かないでじっと待つのは大事だ(これからの季節、それをやると蚊がやってきて大変だけど)。

知らない人が来て怖いんだけど、好奇心には勝てないって感じのハチワレ2匹なのだった。2023年5月 富士フイルム X-T4

 みんな耳がカットされてるから、これ以上増えないよう避妊したうえで、近所の人が世話をしてるんだろうなと思う。

 緑の発色が独特なのも、クラシックネガの特徴で、それが好きな点でもある。というわけで、次は、とある公園で偶然出会った猫。

 実はこのとき、街歩きのガイドをしてて、参加者の一人がこっちの話を聞かないで違うところを見てる、とその視線を追ったら猫がいたのだった。私も思わずしゃがんで1枚、である。

クラシックネガが出す緑は、とても味わい深い。そこには猫が似合うのだ。2023年5月 富士フイルム X-T4

 最後に、昭和っぽいのを行こう。

 昭和な団地の昭和なメガネ屋さんの前で、黒猫がちょこんと座ってたのだ。昔の商店街って絶対にメガネ屋さんがあったよね。

とある団地の小さな商店街のメガネ屋さん。お店は閉まってたけど、その前に黒猫がちょこんと座ってたのだ。2023年4月 富士フイルム X-T4

 この渋くてちょっとくすんだ風合いって、RAWで撮って自分で現像しても出せないのだよね。特に、湿度が高い今の季節は、このちょっとくすんでやさぐれた感じが似合う。

 なので、富士フイルムのデジカメを持ってる人は、ぜひフィルムシミュレーションを活用してみてほしい。渋い写真を撮れるものとしては、今回のクラシックネガのほか、「クラシッククローム」や最新モデルに搭載されてる「ノスタルジックネガ」もなかなかおすすめだ。しかも、最新のX-T5やX-S20は猫AFを持ってるから、X-T4ユーザーとしてはうらやましい限りである。

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筆者紹介─荻窪 圭

 
著者近影 荻窪圭

老舗のデジタル系フリーライター兼猫カメラマン。今はカメラやスマホ関連が中心で毎月何かしらのデジカメをレビューするかたわら、趣味が高じて自転車の記事や古地図を使った街歩きのガイド、歴史散歩本の執筆も手がける。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社 知恵の森文庫)、『東京「多叉路」散歩』(淡交社)、『古地図と地形図で発見! 鎌倉街道伝承を歩く』(山川出版社)など多数。Instagramのアカウントは ogikubokeiで、主にiPhoneで撮った猫写真を上げている。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/

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