ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第721回
性能ではなく効率を上げる方向に舵を切ったTensilica AI Platform AIプロセッサーの昨今
2023年05月29日 12時00分更新
意外なところで使われている
Xtensa LXシリーズ
この後Tensilicaは次々に新製品というか新IP(?)を発表していく。2000年にはXtensa III、2001年にXtensa IV、2002年にXtensa V、2004年には第6世代のXtensa LXを発表している。
このXtensa LXの延長で、現在でもXtensa LX7が発売されているし、そのXtensa LXシリーズをより高性能の方に振ったXtensa NXシリーズもある。
少し話が横道に逸れるが、このXtensa LXシリーズは意外なところで使われていたりする。例えばローレンス・バークレー国立研究所のNERSC(National Energy Research Scientific Computing Center)といえばPerlmutterを導入したサイトで、連載510回、連載608回、連載617回でその名前を紹介しているが、そのNERSCが2008年頃から行なっていたものにGreen Flash Projectという取り組みがある。
これはHPCシステムをいかに効率的に実装・運用するかを研究するもので、2009年3月には最初のプロトタイプが稼働したが、このシステムはVILW CPUを32コア集積したチップにDRAMを組み合わせ、これを32個集積したボードをラック当たり32枚実装、100ラック程度で10PFlopsの演算性能を実現するというものだ。
このVLIW CPUというのがまさにXtensaであって、チップ1個で83GFlopsを消費電力7Wで達成している。2009年と言えば、NVIDIAならまだ40nmプロセスで製造されるFermi世代に相当し、単体性能が一番高かったM2090が40nmプロセスで666GFlops/250Wで、効率は2.67GFlops/W程度。7Wで83GFlops(=11.86GFlops/W)を65nmプロセスで実現してしまったXtensaの効率がいかに高かったかがわかる。
ちなみにNERSCにおける分析が下の画像だ。BlueGene/P(と比較してもはるかに効率が良いシステムを、しかもさらにお安く実装できることをこのプロジェクトでは実証して見せた格好だ。そしてその核がXtensaだったというわけだ。
話を元に戻そう。XtensaはCPUであり、複雑な分岐を含む処理を高速に行なえることを特徴とするが、信号処理などの分野に関して言えば別にそこまで複雑な分岐などは発生しないし、繰り返し処理がメインになるため、CPUコアの性能はそう必要なく、むしろDSP(Digital Signal Processor)コアを強化することが好ましい。こうした用途に向けてDSPソリューションも提供し始める。
といっても、実際はXtensa LXコアにDSPという構成は変わらないのだが、DSPユニットを強化した構成である。2009年頃の製品ポートフォリオで言えば、オーディオ向けにHiFi Audio Engine(Dual 24bit MACを搭載したDSPとXtensa LX2を組み合わせたもの)や388VDOというビデオエンコード/デコードプロセッサー、超高速汎用DSPであるDiamond 545CK(3-issue VLIW DSPに8-way SIMDを組み合わせた物)などがラインナップされるようになった。
もちろんもう少し下のグレードの製品も多数用意されている。ちなみにDiamondシリーズというのはCPUというよりMCUを志向した、省電力コントローラー向けIPである。
そんなTensilicaであるが、2013年にCadenceに買収される。このあたりの経緯はSynopsysに買収されたARC Internationalと大して変わらない。違いがあるとすれば、ARC InternationalはVirage Logicに買収され、それがさらにSynopsysに買収された形だが、TensilicaはCadenceに直接買収されたということくらいだろうか。
Cadence傘下になった後も、引き続きTensilicaブランドでCPU/DSP IPの提供はされており、いろいろなところで利用されている。有名なところでは、AMDのRadeon R9/R7シリーズから搭載されたTrueAudioという技術があるが、これはTensilicaのHiFi 2 EPというDSPをベースに構築されたものである。
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