Jim Keller氏お得意のRISC-Vで
CPUだけでなくチップレットの提供を目論む
ここからはRISC-Vコアの話に移りたい。先に説明したようにTenstorrent自身はRISC-Vコアを当初から扱っていたが、少なくともそのRISC-Vコアそのものでビジネスするつもりはなかったようだ。
これが変わったのはやはりKeller氏の参加からだろう。まず最初にAscalonと呼ばれる8命令デコード/11命令発行のスーパースカラー/アウトオブオーダーのRISC-Vコアを設計をしている。
予想外だったのは、Tenstorrent(というよりKeller氏)はまずこのハイエンドコア(D6)を完成させ、次にこれのサブセットとして2/3/4/6命令デコードの派生型(D2~D5)を作ったという話だ。
普通は逆なのだろうが、すでにAMDやインテル、Teslaなどでこうした大規模なスーパースカラー/アウトオブオーダーのコアを作り慣れていたからこその技である。
このAscalongコアをまとめたクラスターや、それを組み合わせたチップレットという話はすでに報じたとおりだが、Tenstorrentは単にCPU IPを提供するのみならずチップレットの提供というビジネスも目論んでいる。
要するにビジネスとしては以下のことを考えているわけだ。
- CPU(RISC-V/AI) IPの提供
- CPU IPを使ったASICの設計支援
- CPU チップレットの提供
- チップレットを利用した独自チップの設計支援
実際、こうしたリソースを利用した商談は水面下で進んでいるが、特に後述する自動車向けではIPだけがほしいというところからチップレットの設計支援をしてほしいというところまで、さまざまなニーズが寄せられているそうだ。
Tenstorrent自身、こうしたチップレットを今後は積極的に採用していくつもりらしい。Aegisと名付けられたHPC向けの設計では128コアのAscalonにAI アクセラレーターと周辺チップからなる5つのチップレット構成であるが、さらに大規模なTunderbolt-XMというチップのアイディアも披露された。
上の画像では各チップレットの詳細も示されており、Aegis(128コアのAscalonのチップレット)はTSMC N3Eで300mm2、Grendelは同じくN3Eで250mm2とされる。その一方PHYやSRAMは全部N7での製造になっており、特にDDR5とHBM3 I/Fに加えてL3 SRAMまで搭載したTrident HPCは400mm2とかなりの寸法である。
図で見ると、このTrident HPCを10個搭載することになってるが、さすがにこれはいろいろ無茶ではないか? という気がする。実現可能性はともかくとして、技術的にはこうしたものまで提案できるというのがTenstorrentのRISC-V/チップレットビジネスというわけだ。
自動運転のアルゴリズム構築に使うスパコンを
日本の自動車会社に売り込むのが真の狙い
最後に自動車向けについて。日本支社が設立された目的は、当然日系の自動車会社を取り込みたいというニーズがあるからだろう。ただそのアプローチは、他社と明確に異なっている。
下の画像で示すTenstorrentの自動車市場を見ると、中央と右はよく見るが、左はかなり目新しい。
特にレベル3以上の自動運転を狙う場合、今後はコネクテッドカーの形でないと難しくなっていくと考えるのも無理はない。
連載709回でも説明したが、Teslaは自動運転のアルゴリズム構築のためにDojoスーパーコンピューターを自社で開発した。ただこれはTeslaだからできる技であって、普通の自動車メーカーは自社でAIスーパーコンピューターを構築できるような技術力はない。
ならそうしたニーズはないのか? というとそんなわけもなく、遠からず自車の運行データをネットワーク経由で吸い上げ、そのデータを元にアルゴリズムを迅速に改良していくというTeslaと同じような仕組みが求められるのは間違いない。
そうしたニーズが必要になる顧客、つまり自動車会社やティア1(自動車会社に直接部品などを納入する請負業者)に対して、Teslaでそうしたシステムを構築した責任者が(Dojoに負けないような)代替解決案を提供できます、というのはビジネス的に非常に説得力があるし、市場も期待できる。なるほど、真っ先に日本に海外支社を立ち上げたわけである。
ちなみにすでにこうした目的に向けたPoC用の開発ボードが存在するそうだ。説明によれば、現時点ではホストとしてTiger Lakeが搭載されているが、これはPoC向けだからという話で、仮に製品化が進行するとしたらRISC-V CPUとNebulaを一体化したチップになるだろうとのことだった。
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