まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第82回
【第1回】「少年ジャンプ+」編集長細野修平氏による大学特別講義
「少年ジャンプ+」細野編集長が語るデジタルマンガの現在
2023年03月31日 15時00分更新
「少年ジャンプ+」はすでに8割超がデジタル原稿
まつもとあつしが担当する大学講義にて2022年に開催された、「少年ジャンプ+」編集長・細野修平氏による特別講義の模様を3回に分けてお届けします。
『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『サマータイムレンダ』『タコピーの原罪』――人気作を次々と世に送り出すマンガアプリが誕生した経緯、「週刊少年ジャンプ超え」を目指して練られた戦略、そしてヒットではなく大ヒットを生み出すためのキーワードとは?
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まつもと 講義開始時間まであと数分ですね。……そういえば、「新潟から東京への就職」はまだまだハードルが高く、出版社の雰囲気を肌で感じることも難しい。そこで先日、学生にドラマ版『アオイホノオ』を観てもらいました。数十年前を描いた作品ですが、地方から持ち込みするといった伝統的なスタイルがリアリティーをもって描写されていると思いまして。
細野 『アオイホノオ』でのジャンプ編集部の描写ですが、私が入社した20年くらい前は、あの片鱗というか残滓が残っていました。
まつもと 『アオイホノオ』を鑑賞したあとに、『チェンソーマン』担当編集の林士平さんが登場した「ワールドビジネスサテライト」を見ると、『編集者のイメージってずいぶんスマートになったなあ』と思います。さらに印象的だったのが、Twitterで見た仕事場の写真。ディスプレーとタブレットのみで、紙の原稿の存在感があまりない。
細野 現在「少年ジャンプ+」は、8割から9割くらいまでがデジタル原稿です。投稿者もデジタルが多いので、紙の原稿を扱う編集者は少ないかもしれません。
まつもと マンガのデジタル化がよくあらわれている光景だなと感心しました。――さて、時間になったので今日の特別講義の講師、細野さんよろしくお願いします!
「少年ジャンプ+」とデジタルマンガの現在
細野 集英社 第3編集部 少年ジャンプ+編集部 編集長の細野です。よろしくお願いします。
今日は『「少年ジャンプ+」とデジタルマンガの現在』というテーマでお話させていただきます。私は2000年に入社し、「月刊少年ジャンプ」に配属されました。その後2007年「ジャンプスクエア」に異動しまして、2012年に「週刊少年ジャンプ」へ。そして週刊少年ジャンプでデジタル担当副編集長になりまして、そこからデジタルへの関わりが深まっていきました。
そして2014年、「少年ジャンプ+」創刊に関わりました。今日話すことは「少年ジャンプ+」を含めたデジタル漫画業界の話、そして今後のエンタメで大事になってくるであろう「ライブ感」、こちらに関してお話できればと思っております。
お話する順番は以下の通りです。
・「少年ジャンプ+」の紹介
・「少年ジャンプ+」が狙っていること
・「少年ジャンプ+」はどのように成長したのか?
・「少年ジャンプ+」の現在
・「少年ジャンプ+」がこれからやりたいこと
・「少年ジャンプ+」の課題を解決するキーワード「ライブ感」
まず、みなさんがマンガアプリというものをどのくらいご存知なのかわからなかったので、少しその説明をしようかなと思います。
以下は、コトバンクというサイトからマンガアプリの定義を抜き出したものです。「電子コミックをスマートフォンやタブレット型端末などで閲覧するためのアプリ。電子コミックのコンテンツ配信サービスを兼ねており、作品の一部を無料で閲覧できるサービスなどもある」。
ただ、これだけだと足りないかなと。もうちょっとお伝えすると、マンガアプリには大きく分けて3つのタイプがあると思っています。1つは総合型。Kindle、eBookJapanといった電子書店型ですね。集英社を含めた多くの版元が作っているコミックスなどを売っている書店です。
次に真ん中を飛ばして、オリジナル作品限定型。まさに「少年ジャンプ+」や「マガポケ」といった出版社発のアプリが多く、文字通りオリジナルマンガを中心にしているアプリです。
そして、中間型として「ピッコマ」「LINEマンガ」といった、電子書店もやりながらWebtoon――縦スクロールのマンガ、オリジナルも多いです――を売っているマンガアプリがあります。
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