まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第86回
【第2回】アニメ『PLUTO』丸山正雄プロデューサー(スタジオM2)インタビュー
「『PLUTO』は手塚さんへの最後のご奉公」――彼の“クレイジーさ”が日本アニメを作った
2023年04月30日 15時00分更新

丸山正雄氏。今敏・細田守・片渕須直といった名監督が世界に羽ばたくきっかけとなった作品をプロデュースした名伯楽としても知られる。アニメ『SHIROBAKO』の主人公が所属する武蔵野アニメーションの社長・丸川正人のモデルとも
〈前回はこちら〉
「地上最大のロボット」の衝撃
前編に引き続き、アニメ『PLUTO』の完成に向けてラストスパート中のスタジオM2にお邪魔し、丸山正雄社長にお話をうかがった。
半世紀以上前に描かれた問題提起が現代でも変わらず説得力を持つ『鉄腕アトム』の一遍「地上最大のロボット」。そしてその傑作エピソードを蘇らせた『PLUTO』。自ら困難と判断した『PLUTO』のアニメ化を丸山氏はあえて引き受けた。曰く、「手塚治虫のクレイジーさ、向こう見ずさのDNAがぼくの中に残っている」。
『PLUTO』 STORY
憎しみの連鎖は、断ち切れるのか。
人間とロボットが<共生>する時代。
強大なロボットが次々に破壊される事件が起きる。調査を担当したユーロポールの刑事ロボット・ゲジヒトは犯人の標的が大量破壊兵器となりうる、自分を含めた<7人の世界最高水準のロボット>だと確信する。
時を同じくしてロボット法に関わる要人が次々と犠牲となる殺人事件が発生。<ロボットは人間を傷つけることはできない>にも関わらず、殺人現場には人間の痕跡が全く残っていなかった。
2つの事件の謎を追うゲジヒトは、標的の1人であり、世界最高の人工知能を持つロボット・アトムのもとを訪れる。
「君を見ていると、人間かロボットか識別システムが誤作動を起こしそうになる。」
まるで本物の人間のように感情を表現するアトムと出会い、ゲジヒトにも変化が起きていく。
そして事件を追う2人は世界を破滅へと導く史上最悪の<憎しみの存在>にたどり着くのだった―――。
原作:PLUTO
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
浦沢直樹×手塚治虫
長崎尚志プロデュース
監修:手塚眞
協力:手塚プロダクション
(小学館 ビッグコミックス刊)
アニメーション制作:スタジオM2
制作プロデュース:ジェンコ
公式サイトURL https://pluto-anime.com/
Twitterアカウント @pluto_anime_
虫プロで始まったアニメ人生を手塚作品で締めくくる
―― 先ほども少し触れられていましたが、虫プロから丸山さんのアニメ人生はスタートしました。浦沢作品ということに加えて、手塚作品への挑戦でもあります。
丸山 プレッシャーはありますね。「地上最大のロボット」の衝撃をどう描くか。
浦沢さんはそこに加えて戦争というものもキチンと描かれた。手塚さんがアトムを描いた時代、浦沢さん・長崎さんがPLUTOを描いた時代、そして現在の私たち、これを貫くテーマ。いまロシアとウクライナが戦争をしている。浦沢さんのマンガでは中東・アフガンが強く意識されている。ロボットと人間の関係もそうです。
なにより、そういったことを手塚さんが先読みで示されていた、ということの凄さ。2023年の情勢が、数十年前のマンガでこれだけ描かれていた。「文学を超えた」というならばまさにこれだ、ということではないかと思います。

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