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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第88回

【第4回】『PLUTO』制作中のスタジオM2・丸山正雄社長、野口征恒氏に聞く

日本のアニメ制作環境はすでに崩壊している――レジェンド丸山正雄が語る危機と可能性

2023年05月02日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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引き続き、スタジオM2のオフィスにて日本アニメの制作事情についておうかがいした

前回はこちら

手描きの味わいは「ズレと歪み」にあり!

 前編に続き、『PLUTO』の制作中でお忙しいスタジオM2の丸山正雄社長、そして『PLUTO』では作画監督を務めていらっしゃるアニメーターの野口征恒(まさつね)氏に、日本アニメの制作事情について語っていただいた。

 丸山氏は、「日本のアニメは崩壊している」と言う。その理由は、アニメの肝である「動画」を作るにあたっての環境が崩れたから。そしてデジタルとアナログのさらなる融合に力を割く余裕が業界にない現状も説明してくださった。

『PLUTO』 STORY

憎しみの連鎖は、断ち切れるのか。

人間とロボットが<共生>する時代。
強大なロボットが次々に破壊される事件が起きる。調査を担当したユーロポールの刑事ロボット・ゲジヒトは犯人の標的が大量破壊兵器となりうる、自分を含めた<7人の世界最高水準のロボット>だと確信する。

時を同じくしてロボット法に関わる要人が次々と犠牲となる殺人事件が発生。<ロボットは人間を傷つけることはできない>にも関わらず、殺人現場には人間の痕跡が全く残っていなかった。

2つの事件の謎を追うゲジヒトは、標的の1人であり、世界最高の人工知能を持つロボット・アトムのもとを訪れる。

「君を見ていると、人間かロボットか識別システムが誤作動を起こしそうになる。」
まるで本物の人間のように感情を表現するアトムと出会い、ゲジヒトにも変化が起きていく。

そして事件を追う2人は世界を破滅へと導く史上最悪の<憎しみの存在>にたどり着くのだった―――。

原作:PLUTO
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
浦沢直樹×手塚治虫
長崎尚志プロデュース
監修:手塚眞
協力:手塚プロダクション
(小学館 ビッグコミックス刊)

アニメーション制作:スタジオM2
制作プロデュース:ジェンコ

公式サイトURL https://pluto-anime.com/
Twitterアカウント @pluto_anime_

3DCGの利点がアニメでは欠点に

野口 3DCGが導入された当初は、珍しさもあって「おおーっ!」という感じだったんですけれど、だんだん見慣れてくると「わざとらしさ」が目に付くようになりました。今は一所懸命、手描き作画っぽく見えるように、たとえば線をかすれさせたり、効果を加えたり、色々試行錯誤している段階だと思っています。

 最近では、セル画時代の「一度失敗してから塗り直したことで、ガサガサした感じになってしまった絵」を、デジタルでわざと再現したりもしているんですよ。

―― そういう意味でも求められているのはまさに「セルルック」なんですよね。

丸山 やはり3DCGの問題は、アニメではなく実写に近くなることなんです。「本物と見紛うばかり」という利点がアニメでは欠点となってしまいます。手描きとは異質なんですね。

 でもそのほうが(作業効率としては)良いから、どんどん使ってしまう。簡単だし、場合によっては安く、早いので(デジタルは)良いと言われるけれど、ぼくは『本当にそうかい?』と疑問を持っています。

―― 一方で3DCGでアニメを作っている方にお話をうかがうと、たとえばVTuberのようなCG表現に、特に若い人たちの「目が慣れてきている」という意見を聞きます。ルック(見た目)に慣れるということですね。その変化と、従来の手描き作画とCGを馴染ませるという努力が並行して進んでいるという風に見えます。

丸山 うーん、でもそこは結局、交わらないんじゃないかなあ……。『あの気持ち悪さを何とかしたい』と(制作者たちが)思ってくれているうちは良いけれど、あれで平気だという人が圧倒的に増えたときに、そっちにどっと向かってしまい、その結果、手描き作画アニメがなくなってしまうんじゃないかと。

 手描きの良さをどうやって残していくのか、というのは重要な課題です。「実写をそのままアニメ風にする」でOKなら、わざわざ計算や工夫する必要はなくなります。でもそうなってしまったら、たとえば『鉄腕アトム』なんかも「チープだけれど、ただ懐かしいから観る」だけのものになってしまうのでは。

 手描き作画の温かさや歪み。ぼくが一番気にしているのは「歪み」です。ぼくはアニメーションの良さというのは、正確に物が動くのではなく、歪んで表現できることなんですよ。デジタルにはそれがない。歪みは意識して作らない限り発生しませんから

 たとえばサイコロがコロンと転がるようなアニメーションでも、3DCGで物理計算して正確に転がすことはできます。でも、そうではなく、「何の目が出るかわからない、不安定な動き」というものがあるんです。

―― おそらく人間の目には(不安な感情が反映されデフォルメされて)そう見えているんですよね。

丸山 そうそう。そういったことを表現する際に、(3DCGの物理計算だけに任せてしまうと)表現の幅が非常に単一になっていき、本来のアニメーションの良さであるメタモルフォーゼ、物が動いていくときのエネルギーみたいなものが表現できなくなってしまうかもしれません。

―― なるほど。『PLUTO』では人工知能も大きなテーマの1つですが、そこでの「揺らぎ」にも通じる話かなと思いました。以前「亡くなった美空ひばりさんの歌声をAIで再現する」という取り組みがありましたが、そこでも正確な歌唱ではなく、ズレや歪みが再現に欠かせなかった。

丸山 アニメでも同じ事が絶対起こっているのだと思います。

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