EVERSTEEL、東京製鐵と鉄スクラップ自動解析AIシステムの基幹システム連携完了
株式会社EVERSTEEL
EVERSTEEL鉄スクラップ検収AIの国内初実運用開始
鉄スクラップの自動解析AIシステムを開発する株式会社EVERSTEEL(本社:東京都文京区、代表取締役社長:田島 圭二郎、以下、EVERSTEEL)は東京製鐵株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:西本 利一、以下、東京製鐵)と宇都宮工場にて、基幹システムと鉄スクラップ自動解析AIシステムとの連携開発を完了し、EVERSTEEL鉄スクラップ検収AIの国内初の実運用を開始しました。
背景
脱炭素社会の実現に向けて、全産業で最もCO2排出量が多い鉄鋼業界でのCO2削減は対策が急がれています。鉄鉱石やコークスを溶かして鉄鋼材を製造する高炉法に比較し、鉄スクラップを電炉で溶かしてリサイクルする電炉法は、80%のCO2排出量の削減が可能です。しかし、日本では電炉法での製鋼は1/4に留まっており、電炉法で製鋼するリサイクルのシェアを拡大する必要があります。
電炉メーカーでは原料となる鉄スクラップを等級別に分類し、密閉物など危険な異物を除去しています。鉄鋼メーカーの検収員が等級判定や異物検出を目視で確認しています。しかし習熟した検収スキルの伝承、検収員の高齢化と採用難が課題となっており、属人的なスキルの客観化、技術継承を行うためにAI技術に注目が集まっています。EVERSTEELは鉄スクラップの等級判定と異物検出をAIで自動解析するシステムを開発しているスタートアップです。脱炭素社会・循環型社会の実現に積極的に取り組んでいる東京製鐵とともに、検収現場での検収AI導入の実証実験を進めてまいりました。2022年6月には実証実験を完了し、検収員のAI精度を達成し、アプリケーションの開発に着手しました。
この度EVERSTEELと東京製鐵は、EVERSTEELの鉄スクラップ自動解析AIシステムと東京製鐵の基幹システムとの連携開発を12月中旬に完了しました。加えて、実際の操業においてリアルタイムで鉄スクラップの等級判定・異物検出を行うアプリケーションの実運用を開始しました。
アプリケーション
検収AIアプリケーションでは、現場に設置したカメラでトラック表面を撮影し、AIが画像解析を行なった結果を、アプリケーション上で表示することができます。検収現場で荷降ろしをするクレーンオペレーターの手元のタブレット上でリアルタイムに結果を確認でき、混入する異物の抑制や、検収員ごとの査定ばらつき解消、査定の補助や作業負担軽減に繋げることが可能となります。インターネットが開通している場所であればどこでも解析結果を閲覧可能なため、現場だけではなく、オフィスや自宅でもリアルタイムで検収状況やAI査定結果を確認することができます。PCモニターや、タブレット、スマートフォン等、幅広い端末で利用可能です。アプリケーションの開発では、現場の検収員が使いやすいシステムであることが重要です。EVERSTEELではエンジニアが、東京製鐵の検収員にヒアリングを行い、フィードバックを開発に反映しました。今後の実運用においても、より使いやすい機能にアップデートしてまいります。
基幹システムとアプリケーションの連携
東京製鐵の基幹システムと、検収AIアプリケーションとの連携開発を行うことで、検収AIの自動化が実現しました。査定開始タイミングや査定完了タイミング、二次計量タイミング等のキーを、検収AIアプリケーションへ連携することで、検収員やトラック運転手等が端末を全く操作することなく、AIが自動での検収開始・終了を行い、自動での査定が可能となりました。
加えて、これまで基幹システムでのみ管理されていた、納入業者・商社情報や、スクラップ銘柄、重量等のデータも、自動で検収AIアプリケーションに連携されます。これにより、業者ごとの納入実績や、等級・異物・ダスト量の分析が可能となり、スクラップの品質向上が期待できます。AIが解析を行なった高解像なスクラップ画像はクラウド上で保管されており、後日いつでも参照が可能なため、トレーサビリティの向上にも寄与します。
今後自動配合クレーンシステムや購買管理システム等との連携によって、原料の受け入れからスクラップ配合といったスクラップフロー全体での業務効率向上、スクラップ品質向上を目指していきます。
異物検出対象拡大
前回の実証実験では、トランプエレメントの代表であるCu(銅)を含むモーターを高い精度で検知することに成功しました。今回は異物の対象範囲を拡大し、ステンレスや密閉物、オーバーサイズ、ゴム、コンクリート等、幅広い異物で高い精度での検出が可能となりました。
【ステンレス】
ステンレスはCr(クロム)やNi(ニッケル)が含まれており、スクラップ中へ混入すると鉄鋼材の品質に悪影響を及ぼします。しかしステンレスは鉄スクラップと見た目が似ており発見が難しく、これまで現場では、表面光沢や形状、曲がり具合といった熟練のスキルに基づいて検品がなされてきました。この度、検収員がステンレスと検品した物体に対しAIシステムも検知することに成功しました。下記画像は、天井に設置したカメラで撮影した鉄スクラップです。上段では、検収員が鉄スクラップ中のステンレスを検品した結果を示しています。検収員がステンレスと判断したパーツを、画像中で赤く囲って表示しています。下段では、AIが異物検出した結果を示しています。上段と下段を比較することで、検収員がステンレスと検品したものに対し、AIも同じ物体をステンレスとして検知していることがわかります。精度評価の結果、検収員がステンレスと判断したもののうち、約79%の精度でAIによる検出に成功しました。
(同一トラックでの検収員とAIの査定比較)
(AIによる検出結果の拡大画像)
【密閉物】
密閉物は、溶解時に炉内爆発する可能性があり安全面から除去することが求められます。下記に密閉物の1つであるショックアブソーバーについて、AIによる解析結果を示しました。ステンレスと同様に、上段に検収員による検品結果、下段にAIによる検出結果を示しています。この例では、検収員が検品した物体はもちろん、検収員が検品できず見落としたものについても、AIで検出できています。精度評価の結果、検収員がショックアブソーバーと判断したもののうち、約88%の精度でAIによる検出に成功しました。
(同一トラックでの検収員とAIの査定比較)
(AIによる検出結果の拡大画像)
等級判定精度、検収員平均を突破
今回の開発を通して、検収AIによる等級判定の精度が、検収員による査定の平均精度に到達しました。これにより東京製鐵宇都宮工場の全検収員の平均精度での査定が可能なAIとなりました。特に、査定が難しい複数の等級が混在した鉄スクラップにおいては、AIが検収員平均を上回る精度で査定が可能なことが示されました。加えて今回の開発から、トラック1台の積荷全体での査定を実施する専用の等級判定AIモデルを開発することで、学習で必要となるデータ作成業務を不要にしました。通常の等級分類AI開発では、教師データを作成するために、検収員が画像1枚毎に等級査定データを入力する膨大な作業が必要です。しかし今回開発した専用の等級判定AIモデルでは、日々の操業で通常に実施される検収員のトラック1台ごとの検収結果のみを教師データとすることが可能です。
今後の展望
アプリケーションは現場の検収員が使いやすいものに開発することが重要です。実運用においてもエンジニア自身が検収員へのヒアリングを重ねることで、毎週単位でアプリケーションへの新たな機能追加を行なっていきます。
異物検出では、精度向上に必要となる教師データの効率的な収集を行うために、データ作成業務専門スタッフを採用し、データ作成業務を内製化しています。専門スタッフには、各企業で収集された数千点以上の禁忌物データを用いた異物研修制度を設け、検収員を凌ぐ精度での異物データ作成が可能なチームを構築しています。データ作成を抜本的にスピードアップする事で、異物検出AIの精度向上を目指します。また、等級分類では継続して、精度向上を行うことで、検収員平均を超え、ベテラン並みの精度を目標に開発を行ないます。
今回の基幹システムとアプリケーションの連携を通して、原料の受け入れからスクラップ配合といったスクラップフロー全体での業務効率やスクラップ品質管理の向上に寄与する自動配合クレーンシステムや購買管理システム等との連携を目指してまいります。
両社代表コメント
東京製鐵株式会社 執行役員宇都宮工場長 酒井久敬氏
「当社は長期環境ビジョン Tokyo Steel EcoVision2050で、電炉鋼材が可能にするカーボンマイナスとアップサイクルを通じた脱炭素社会・循環型社会の実現を目指しています。EVERSTEEL社とは同社立ち上げ前より、当社のスクラップ検収分野におけるノウハウ・知見等を惜しみなく提供することで製品化に向けた共同開発を進めてきました。この度、世界に先駆けて実運用を開始できたことは当社・EVERSTEEL社にとって国内資源循環を進める上での大きな一歩です。当社検収AIの利用範囲を社内外問わず更に広めるべく、より一層取り組みを進めていきます。」
株式会社EVERSTEEL 代表取締役 田島圭二郎
「1年以上に渡る開発を経て、東京製鐵宇都宮工場様での基幹システム連携、実運用を開始できたことに強く感銘しています。鉄スクラップの高品位化は、近年より重要な課題となっています。AIによる検収業務の実施は、業界全体での鉄スクラップの品質改善、ひいてはカーボンニュートラル実現に向けた大きな一歩です。今後より多くの企業様での検収AIの普及を目指し、引き続き開発を進めて参ります。また、最適な鉄スクラップ原料活用や、トレーサビリティ向上など、業界への貢献に繋がる技術開発の取り組みに、引き続き邁進してまいります。」
東京製鐵株式会社について
【会社概要】
会社名:東京製鐵株式会社
本社所在地;東京都千代田区霞が関3-7-1霞が関東急ビル15階
代表取締役社長:西本 利一
設立:1934年11月
URL;https://www.tokyosteel.co.jp/
株式会社EVERSTEELについて
【会社概要】
会社名:株式会社EVERSTEEL
本社所在地:東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟 アントレプレナーラボ202
代表取締役社長:田島 圭二郎
設立:2021年3月
URL;https://eversteel.co.jp/
<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社EVERSTEEL
Email;contact@eversteel.co.jp
東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟 アントレプレナーラボ202