走りは落ち着いていて
オーソドックスな印象
走り出して驚くのは、EVならではの接近音のユニークさです。EV走行の接近音は、日本車にもある機能で、EV走行中にかすかに「キーン」という高音を発して、周囲にクルマの存在を知らせるもの。それが「ATTO 3」ではドライバーが音色を選択することができるのです。今回の試乗では「キンコン」という、まるで音楽のような可愛らしい音でした。このような新しい試みを随所に見られるのも、新規参入ブランドならではの部分と言えるでしょう。
そして、肝心の走りはどうかといえば、「穏やかでオーソドックス」なものでした。市街地中心の試乗では、150kW(約204PS)・最大トルク310Nmをフルに使うシーンはありませんが、信号からの加速は必要十分といったレベル。微小なハンドル操作にもしっかりとクルマが反応しつつも、クルマ全体の動きは落ち着いています。また、路面の凹凸も上手にいなし、乗り心地も上々です。スポーティーではなく、快適なクルマといった印象です。街中を走るだけであれば、走り味に文句をつけるところはありませんでした。
走りが合格となれば
気になるのは価格
「ATTO 3」を街中で走らせてみれば、なかなかの出来であることが実感できました。そこで気になるのは価格です。販売価格は、まだ発表されていませんが、日本車よりも安いとなれば、一定数の顧客を得ることは可能でしょう。日産の「アリア」は、60kWhのバッテリーを搭載するFFモデルが539万円~です。その価格に対して、「ATTO 3」がどのような価格で登場するのかに注目です。
ただし、クルマは家電と違った難しさがあります。安ければいいというものではありません。やはり高額な商品なだけあって、安全性や購入後の信頼性、販売店のサービスの充実度が大切です。ちなみにBYDとしては、日本でのEVバスの販売を7年ほど前からスタートしています。バスの分野では、少しずつ信頼を得てきているようです。
EVバスを足掛かりに乗用車へ参入するというのが、BYDの現在の状況です。全国100もの販売網を本当に構築できるのか? また、販売網でのサービスはどの程度なのか? そういう意味で、BYDの本当の勝負は、クルマを発売した後ではないでしょうか。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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