特殊フィルターでキズや汚れが浮きあがる照明技術「inVIEW」 工場のオート化、AI精度を向上させる
製造業では人手不足の解決策として工場の自動化が進められているが、外観検査はAIと目視のダブルチェックが行なわれている。外観検査の難しさは、照明の反射が原因のひとつ。シンクロア株式会社は、医療照明の技術を生かし、工業向けに検査用照明装置「inVIEW」を開発。2021年の発売から、自動車、機械、食品、製薬など、幅広い業界で導入が始まっている。シンクロア株式会社 代表取締役社長 綾部 華織氏、同社取締役 最高技術責任者の小山 光弘氏に開発背景とinVIEWの特徴について伺った。
キヤノン(旧東芝)メディカルシステムズ社出身で超音波装置のテクニカルライターとして従事。日本放射線学会、臨床検査学会の事務局サポート、JAHIS(一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会)にてHL7(電子カルテの言語)の立ち上げ翻訳に関わる。
光の反射を消し、今まで見えなかったキズや異物を検出する「RHASERAY Technology」
シンクロア株式会社は、独自のRHASERAY Technology(フェーズレイ・テクノロジー)を活用した工業用照明機器『inVIEWシリーズ』を展開している。RHASERAY Technology(フェーズレイ・テクノロジー)は、シンクロア独自製法の位相偏光フィルターと医療照明技術からなる、光の反射を取り除き、キズや汚れが浮きあがる技術だ。
この技術は、小山氏が外科手術向けに開発した医療照明技術が基になっている。手術中は強い光を当てるため、光の反射で臓器が見えづらく、長時間の手術では医師の目の負担も大きい。小山氏は、長年にわたり光のハレーションを抑える照明の研究を続け、2015年頃に影のできない照明の開発に成功。医療現場に導入したところ、血管などがはっきりと見やすく、手術時間が5時間が3.5時間に短縮できたという。
工場の目視検査がはかどり、検査員の眼精疲労を軽減
小山氏が開発した影ができない医療照明の技術と、位相偏光フィルターと合わせて工業向けに製品化したものがinVIEWシリーズだ。自動車、機械、衣料、食品加工、創薬など、あらゆる製造の現場での検品作業は欠かせない。検品の精度は製品の品質に直結するため、自動化された工場でも人の目視検査によるダブルチェックが行なわれている。こうした目視検査は目に大きな負担がかかり、視力低下で退職するも少なくない。AIによる自動化が期待されているが、ベテランの検査員に比べて精度が不十分で検査速度も遅い。
inVIEWを使うと、照明の映り込みや水分や油分のギラつきを消し、傷やほこりが際立って見える。目視検査に導入すれば、検査員の眼精疲労が軽減され、生産性も上がる。またAIのカメラにinVIEWを使うことでAI検査の精度が上がり、いずれはダブルチェックが不要になり、完全自動化が実現できる。
2021年には10種類の製品をリリースし、自動車部品の傷やさびの検出、プリント基板のハンダ傷の検査、薬品の異物検出、ビニール包装した食品の最終検品など、さまざまな分野の製造工場に採用されている。大手メーカーからはカスタムオーダーも受けているそうだ。
大手食品加工会社は、カット野菜のラインにAIの目として2018年から試験導入。カット野菜は水分が多く反射が起きやすいために機械による不良品の検出が難しかったが、inVIEWの導入により、コンベアーの速度は毎秒30センチから120センチへ大幅に向上したという。
新型コロナのワクチンに金属片の混在が見つかり回収騒ぎになったのは記憶に新しいが、inVIEWを使えば従来の検査では見落とされてしまうわずかな異物がはっきり見える。すでにワクチンの製造メーカーを含む大手製薬企業数社がinVIEWを導入しているそうだ。
自然な発色、明るさで、すみずみまでくっきり見える
実際に、拡大鏡付き検査用照明装置「inVIEW CIRCLE LIGHT」を試させてもらった。
inVIEW CIRCLE LIGHTは、約2.5倍の拡大鏡になっており、つまみを動かして偏光レベルを調整できるようになっている。位相偏光を最大にするとすべてのキズや汚れが検出されて歩留まりが悪くなってしまうため、導入する企業側でレベルを設定できるようにしているそうだ。
水で濡らした手をinVIEWで通して見ると、乾いた手のように見える。また、プリント基板は反射がなく、目を凝らさなくてもキズだけがくっきりと見えた。偏光フィルターで起こりやすい変色がなく、自然な発色だ。拡大鏡は見る角度や距離が合わないとピントが合わずに周辺がぼやけたりするが、どの角度から見ても歪みがなく全体がクリアに見える。のぞき込んで目を凝らさなくてもいいので目や姿勢に負担がかからない。
一見、8灯の照明と偏光フィルターの組み合わせなので、類似品がでてくるのでは、と心配になるが、特許として公開されている技術だけでなく、複雑なノウハウによってつくられており、絶対に再現できない、と小山氏は断言する。レンズの下に偏光フィルムが何層にも重なっており、製品を分解しても原理はわからず、元に戻すこともできないそうだ。
製品のリリースから1年足らずにもかかわらず、幅広い業界から依頼がきており、最近は半導体業界からの要望でマイクロスコープ用の装置の開発に取り組んでいるとのこと。
「大手メーカーから自動化へ向けたお話をいただくことが多いのですが、現場には本当に困っている検査員の方がまだまだいらっしゃる。我々としては検査員の方々に安心して使っていただけるように、これからマーケットをつくっていきたい」と綾部氏。
今後はファクトリーオートメーション向け製品の開発、用途に合わせた製品ラインアップの拡充、海外展開を進めていく予定だ。