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学生起業の失敗を許容。多くの失敗から学びを目指すユニークな専門職大学「iU」が目指すもの

情報経営イノベーション専門職大学(iU)の学部長補佐兼グローバル領域長 阿部川久広教授に聞く

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 iUにはユニークな特徴が3点ある。ひとつめは、440社以上の企業や団体と、教育連携を行っている点だ。

 IT関連企業や墨田区の地元企業などと連携。すでに70以上のプロジェクトが進行しているという。これらのなかには、教育系の新規事業を考えるプロジェクトや映像コンテンツのキュレーションプロジェクト、iUの出版プロジェクト、MV制作プロジェクトのほか、容器メーカーの製品改善プロジェクト、eスポーツ学生選手権運営プロジェクト、墨田区小学校ICT 化プロジェクト、京丹後市のICT 教育プロジェクトなどがある。

 「企業との連携により、Z世代を対象にしたマーケティングリサーチのプランの策定などを学生とともに実施している。また、提携企業から講師を派遣してもらったり、冠講座を行ってもらったりといったように連携もある。企業と一体となった取り組みが特徴である」とする。ここでは、江戸文化発祥の街と言われる墨田区の「匠」との連携も進めているという。

 2つめが、3年次に実施される長期インターンシップだ。

 6月から8月までの40日間(320時間)実施するインターンシップⅠでは、ICT分野での学びをもとに、システム開発や保守などに関わる業務を実践。10月から11月までの40日間(320時間)に行われるインターンシップⅡでは、ビジネス分野での学びをもとに製品開発や、新規事業創出などに関わる業務を実践することになる。

 教員が各実習先を訪問し、実習先の担当者との情報交換、学生面談などを行い、インターンシップでの学びを最大化するためのフォローを行う。企業の実習指導者は、インターンシップ期間終了後に、学生の成績評価を行うことになる。

 「一般的なインターンシップとは異なり、学生に教育して欲しい内容をiU側から企業に提案し、その実習計画に合意してもらうことになる。一方で、企業側からは一定のスキルを持った学生を寄こしてくれるようにという要望がある。お互いに納得した形で実施している実習作業である。教師や医師などの職業は、国家試験を取得する前に実習が必要であるのと同じように、iUを卒業するには、実習が必要になる。インターンシップⅠおよびⅡで合計24単位の必修科目となっており、3年次全体の4分の1を占める。学生はこの科目を修得しないと進級、卒業ができない」という。

 3年次に行われるため、3年目を迎えるiUにとっては、今年6月からスタートしたインターンシップⅠが初めての長期実地実習となった。

 「1都3県の114社の企業が受け入れてくれた。学生にとっても大きな刺激を受ける場になっただけでなく、受け入れ企業にもメリットが生まれている。たとえば、入社2~3年目社員が、学生に伝えるために、自らの企業のいい面、悪い面を改めて学ぶ場になったという声もあがっている」という。

 そして3つめがイノベーションプロジェクトである。

 イノベーションプロジェクトは、科目のひとつであり、授業の一環として行われる。在学中に起業に挑戦したり、起業の必要な知識やスキルを、実践をもとにして身につけたりできる内容になっている。

 すべての学生は、5人程度のチームを編成し、8月と2月の1年間に2回、起業のアイデアをプレゼンテーションすることになる。1年次、2年次、4年次にプレゼンテーションの機会が用意されており、在学中の4年間で6回のチャンスがある。

 学生は事業計画書を策定し、ビジネスプランを作成。プレゼンテーションは、すべて英語で行われる。審査側には、教授や講師のほかに、提携している440社以上の企業からも参加する。そのなかから1学年あたり5つほどのアイデアを選抜。提携企業やベンチャーキャピタルは、それらの内容を吟味し、優秀なビジネスプランについては、起業を支援することも可能だ。

 起業した企業は、iUのなかに設置されているデベロップメントセンターのインフラを利用したり、登記上の住所として利用できたりする。また、資金やバックオフィス機能の援助については、電子学園が設立したi 株式会社による支援も用意しているほか、新たなファンドの設立も予定しているという。

 阿部川教授は、「4年間を通じて、学生たちには、ICTを手段とし、グローバル社会でビジネスにイノベーションを起こし、革新を創造する能力を身につけてもらうことになる」とし、「iUの別名は『失敗大学』。学生の起業の失敗を許容し、むしろ、多くの失敗から学ぶという姿勢を持っている。学生の起業のアイデアは潰さずに、それを潰そうとする古い大人を潰すことが、iUの教員や客員教員の役割である」とする。

 たとえば、イノベーションプロジェクトの授業のなかでは、心理テストを用いて、似た思考を持つメンバーを集め、ビジネスプランを作り上げるといった取り組みも行われたという。学生たちは、考え方が似ているからこそ上手くいくと思っていたが、思考が似ている分、同調が多く、意外にも議論が進まず、壁にぶつかったという経験をするなど、実体験をもとに、起業に向けた学びを得ることができるという。

 イノベーションプロジェクトを通じた起業は、すでに5社に達している。

 イノベーションプロジェクトから生まれたアイデアをもとに、iUの学生が設立した企業のひとつが、2021年7月に設立されたファジオンである。植物の声や表情、気持ちを表現。スマホアプリ上でキャラクターにより擬人化し、植物の想いをユーザーに届けるコミュニケーションサービスの開発に取り組んでいる。

 また、2021年8月に設立したGadgeTankerでは、ライブ配信や写真映像の撮影編集、ICT支援を行う企業として、iUの学生15人が参加して起業した。同社もイノベーションプロジェクトでの提案をもとに生まれた企業のひとつだ。iUの学生や教職員のプロフィール写真を有料で撮影する企画からスタートし、これらの活動を通じて、起業に必要な資金を用意していったという。

 現時点では、iUの学生による起業は8社に達しており、現在準備中のものを含めると、9月以降には10社以上になるという。「今後は、年間で10社程度の起業を想定している。変化を恐れずに、絶好の機会としてポジティブに捉える人材を育てたい」としている。

 経営、ICT、グローバルコミュニケーションのスキルを持ったイノベータの育成に貢献する専門職大学として、これからの成果が楽しみだ。

iU 学部長補佐兼グローバル領域長の阿部川久広教授

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