知財×ビジネス戦略で企業価値を高める先進スタートアップが受賞。第3回IP BASE AWARD授賞式
「IPナレッジカンファレンス for Startup 2022」レポート
■ビジネスに有効な特許戦略を調査・研究し、スタートアップに適用へ
森田 裕氏が知財専門家部門グランプリ受賞
知財専門家部門のグランプリは、弁護士法人大野総合法律事務所のパートナー弁理士/医学博士 森田 裕氏が受賞し、選考委員の加藤 由紀子氏から表彰状とトロフィーが贈呈された。
受賞のスピーチでは、森田氏のこれまでの知財戦略の研究や啓蒙活動、これからの活動目標が紹介された。
知財の重要性については認識が広まりつつあるが、スタートアップとしては特許出願戦略として何をすればいいのか、明確かつ具体的な指針がほしい。従来型の特許出願戦略は、研究成果の創出から特許出願へ、という成果中心の戦略だった。だが現在では、研究成果の創出から収益性の高いビジネスモデルを創出し、それを保護するための特許を出願して市場拡大、企業価値の向上、競争優位性の確保を狙うものへと変わってきており、これからはビジネスモデルの構築と特許出願を両面からサポートすることが知財専門家の新しい主戦場になってくる。
森田氏は7年前から外国のベンチャー企業成功事例を分析し、その研究成果をさまざまなメディアや論文等で発表してきた。2021年4月には「外国ベンチャー企業知財調査研究会」を立ち上げ、研究活動を続けている。
今後の目標として、ビジネスとその保護に有効な特許戦略を調査・研究し、スタートアップに適用していくとともに、調査研究の結果の普及を通して業界全体の底力のアップにつなげたい。また知財戦略の面白さを広め、参加者を増やし、スタートアップエコシステムの成長を加速していきたい、と語った。
知財専門家部門の奨励賞には、日比谷パーク法律事務所 弁護士・弁理士井上 拓氏、ソシデア知的財産事務所 弁理士 小木智彦氏、メディップコンサルティング合同会社 弁理士 大門 良仁氏の3者が選ばれた。
■ブレインヘルスケア領域の医療AI開発企業
株式会社Splinkがスタートアップ部門グランプリを受賞
スタートアップ部門のグランプリは、ブレインヘルスケア領域の医療AIソリューションを開発する株式会社Splinkが受賞。同社を代表して弁理士の成尾 佳美氏が登壇し、選考委員の丹羽 匡孝氏が表彰状とトロフィーを贈呈した。
株式会社Splinkは、ブレインヘルスケア領域における医療AIを提供するスタートアップ。同社は、脳画像などの情報をもとに医師の認知症診断を支援する脳ドック用AIプログラム「Brain Life Imaging」と脳画像解析プログラム「Braineer」を開発・提供している。
審査で評価された知財の取り組みは主に2つ。ひとつは、知財マネジメントに支えられるプロダクト戦略だ。知財ポートフォリオ、ブランド、コア技術を1つのプロダクト(Braineer)にまとめあげている。もうひとつは、知財の流通による収益化の取り組みだ。知財は保有しているだけでは収益を生まないため、知財戦略と契約戦略を掛け合わせ、複数のアカデミアや事業会社との共同研究を通して知財を流通させることで、技術の効率的な収益化につなげている。またこれらの取り組みを支える活動として、定例ミーティングによる情報共有、知財コラム発信、社外専門家との連携など、知財マネジメントと社内エコシステムの構築にも努めている。
スタートアップ部門の奨励賞は、株式会社エイシング、GROOVE X株式会社、TradFit株式会社の3社が受賞した。
授賞式のラストに、選考委員 委員長の鮫島 正洋氏が総評を述べた。
「今年の審査はものすごく難しかったです。軸を少し変えるとグランプリが変わるくらいの伯仲でした。多様な立場の方々が知財とビジネスをきちんと考え、自分の信念に沿って価値を提供しようとしています。政府が政策に掲げている『価値デザイン社会』を知財の世界ではすでに実践できているな、と感じることができました。これから日本の競争力をつくるために知財が重要な役割を担うことは間違いのないこと。IP BASE AWARDを通じて、それを担う人材がいらっしゃることも実感できましたので、これからも日本の発展に向けて私たちもがんばっていきたいと思います」と述べた。