新しい企業のカタチ「出向起業」、成功するポイントとは
出向起業中の経営者と弁護士が体験やTipsを紹介
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ASCII STARTUPは2021年3月19日、先端テクノロジーが集まるオールジャンルのXTechイベント「JAPAN INNOVATION DAY 2021 by ASCII STARTUP」を開催。セッション「新しい起業のカタチ“出向起業”のススメ~出向起業中の経営者と弁護士による事例・Tips紹介」をオンライン中継で実施した。
登壇者は、NTTコミュニケーションズ株式会社から出向起業したSpoLive Interactive株式会社 代表取締役CEO 岩田裕平氏、「出向起業の手引き」の作成に携わった東京八丁堀法律事務所 弁護士 白石紘一氏、株式会社野村総合研究所 コンサルタント 大江秀明氏。モデレーターとして、一般社団法人環境共創イニシアチブ 事業推進担当の中間康介氏が参加し、出向起業を選択する理由、兼業・副業との違い、出向起業を始めるための留意点についてディスカッションした。
出向起業は、大企業内では育てにくい新事業について、当該大企業社員が辞職せずに外部資金調達や個人資産投入を経て起業し、起業したスタートアップに自ら出向して新事業を開発する手法だ。
大企業にとって新規事業の創出は重要なテーマだが、既存事業との折衝や意思決定のプロセスの複雑さなどから新規事業が生まれにくい構造的な問題がある。そこで、大企業人材による新規事業の創出を促すために注目されているのが“出向起業”だ。子会社化などの手法に比べて資本関係がないため、自由度が高く、スピード感のある事業開発が期待できる。
国内では、出向起業の事例はまだ少なく、大企業人材からの新規事業創出を促すため、経済産業省は、出向起業による新規事業開発を支援する補助事業を実施している。
社内スタートアップの出口として出向起業を選択
最初に、NTTコミュニケーションズから出向起業したSpoLive Interactive岩田氏が、事業や創業ストーリーを紹介した。
SpoLive Interactiveの開発するバーチャル観戦プラットフォーム「SpoLive」は、好きなチームの試合を観戦しながらリアルタイムに応援できるスポーツ観戦アプリ。元々いくつかのリーグやチームの業務を実際に見るなかで、チームの負を解決するために立ち上げた。
コロナ禍で現地でのスポーツ観戦や交流イベントが制限されるなか、ファンの獲得・維持へ向けたデジタル活用のニーズは高まっている。SpoLive は、スポーツチームが運用を効率化しながらファンに向けた限定コンテンツ等を配信でき、ファンはリアルタイム速報や動画等を楽しみながらデジタルな応援グッズでチームへの応援を送ることができるプラットフォームになっている。
いくつかの対応チームでは応援メッセージがスタジアムの大型ビジョンに表示される。すでに、ジャパンラグビートップリーグ、サッカー明治安田生命Jリーグなどのチームが利用を開始している。2020年11月には、スポーツ庁/SPORTS TECH TOKYO共催 NNOVATION LEAGUE、2021年にはNTTドコモ・ベンチャーズ インキュベーションプログラムに採択された。
岩田氏は2013年にNTTコミュニケーションズに入社し、地域情報に関するR&Dに携わったあと、UXデザイナーとしてデザイン戦略に携わった。2018年に社内の新規事業コンテストでのSpoLiveのアイデアがグランプリを受賞。それを機に社内スタートアップ制度を利用して数割の稼働で事業化に取り組むことになった。
その後も本務でオープンイノベーション戦略を推進し、アクセラレータープログラムを発起するなどの活動してきたが、スタートアップ制度にはいくつかの課題があり、社内には生活者向けアプリのプロダクトマネジメントやビジネスグロースに適した環境がなかった。成長スピードの担保とスタートアップエコシステムを活用するために出向起業を選択し、2020年10月にSpoLive Interactiveを設立した。
社内スタートアップ制度の課題は、会計、法務、調達といった全社共通ルールが定まっている業務の調整に時間がかかること。社内スタートアップとして、もっとスピード感を持ってやりたい、情報を早く外に出したいと思っていてもどうしても破れない、大企業の一般的なプロセスに沿って進めなくてはならず、時間がかかってしまうと岩田氏は指摘する。
一方で出向起業の課題は、ヒト、モノ、カネといった経営資源をどのように分配していくか。人材は出向で担保できるが、モノとカネは会社や事業内容によってケースバイケースだそう。
出向起業をスムーズに進めるためのチェックポイント
続いて、東京八丁堀法律事務所 弁護士 白石氏より「出向起業をスムーズに進めるにあたって~主な法的留意点」と題して、企業が出向起業を導入する際に気を付ける3つのポイントを解説した。
1つは、出向起業者の労働時間管理について。代表者や役員に就任するのであれば、法的には労働時間管理は不要になる。出向者が出向元企業では管理職等でなかったとしても、あくまで出向先での役職が基準になるとのこと。
2点目は、出口イメージについて。起業した会社を最終的にどうするのか判断するタイミングを取り決めておくと、出向元企業、出向者双方にとって計画を立てやすい。出口イメージとしては、1.撤退・清算、2.出向起業者による事業の継続、3.事業は継続するが出向者は帰任、4.出向元企業が株式の一部または全部を取得、5.出向元会社が吸収合併など、いくつかのパターンを想定しておくといい。
3点目は、知的財産権の扱いについて。出向起業の利点は元会社のアセットが使えことにあり、そのなかに知的財産権も含まれ得る。利用許諾のライセンス契約など出向先での取り扱いについてもあらかじめ話し合っておきたい。
「出向起業の手引き」には、上記のポイントを含む出向起業の悩みのチェックポイントと対策TIPSが掲載されているので、興味のある方は参考にしてほしい。
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