●iPhoneは持続的なビジネスになり得るのか?
気候変動への取り組みについては、京都議定書、パリ協定と、COPが進行するにつれ、より具体的かつ効果的なアクションを伴い、また参加する国や企業を増加させてきた歴史があります。最大のステークホルダーである米国は、トランプ政権時代はパリ協定から脱退していましたが、バイデン新大統領就任によって復帰しました。
米国での取り組みは、意外なことに、民主党ではなく共和党の政権時代にスタートしています。ブッシュ政権当時の2005年に作られたエネルギー政策法によって、ソーラーパネルを備える建造物への設備投資の税の控除率が10%から30%に引き上げられました。オバマ政権でこの法律は延長されていましたが、控除率が減少するため、最大控除が受けられる期限であった2016年頃までに、シリコンバレーの企業がこぞってソーラーパネルを備える巨大な本社ビルを建設していました。
アップルは17MWの発電能力を備える「Apple Park」を作り、施設で使う全ての電力を自家発電し、余ったら周囲の地域に供給する仕組みとしました。特に新型コロナウイルスの影響で、少なくとも2021年6月までは、全社的なリモートワークが推奨されており、キャンパス内での電力消費が減ったことが予想できます。数字は公表されていませんが、さぞ多くの電力を売っていたのではないでしょうか。
アップルが取り組んでいる地球環境対策は、必ずしもブランドのためではありません。何度か、この問題を担当しているバイスプレジデント、リサ・ジャクソン氏にインタビューをしてきましたが、アップルは、自らの持続性のためと思って本気で取り組んでいました。
自分たちが使う電気を自分たちでまかない環境負荷を下げるだけでなく、自分たちの製品を作る電気も再生可能エネルギーに転換し、また自分たちの製品が使う電気もカーボンフットプリントを評価することで、これを最小化しようとしています。
幸いなことに、世の中の多くの製品にはバッテリーが搭載されており、省電力化は、環境負荷の軽減と同時に、顧客に提供する製品価値とも合致しています。特にM1搭載のMacBook AirやMacBook Proは、書類仕事なら2日充電しなくてもこなせてしまうほどバッテリー効率が高まっており、個人的には性能向上以上に大きな価値を発揮していると感じています。
常時無線通信が伴うiPhoneでのバッテリー効率の向上はより難しいのですが、Aシリーズチップの高性能化と省電力化により、特にiPhone 11の世代で、バッテリー持続時間は大幅に向上しました。チップ自社設計の効果を考えると、アップルはやはりモデムも自社設計しなければ、ハードルを乗り越えられないのではないでしょうか。
実際、アップルはドイツ・ミュンヘンに研究施設を設置し、ここで無線技術を開発するとみられています。あるいは、将来のApple Siliconには、5Gモデムも内包し、より高度に電力管理をする仕組みを実現するのかも知れません。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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