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スタートアップの時価総額を高める顧客バリュー起点での競合優位性獲得 日本の成長に求められるCIPOの役割とは

株式会社MyCIPO 代表取締役 谷口 将仁氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。


株式会社MyCIPO 代表取締役 谷口 将仁(たにぐち・まさひと)氏中央大学理工学部を卒業後、株式会社オークネット、沖電気工業株式会社を経て、株式会社オプティム入社。知財戦略責任者として、 知財戦略を軸に、大企業や地方自治体とのアライアンスや合弁会社設立を実現。オプティムでは2018年、経済産業省から知財功労賞を受賞、また同年特許庁から知的財産権制度活用優良企業として表彰。2020年3月、株式会社MyCIPOを設立。日本唯一のレンタルCIPO(最高知財責任者)として、知財戦略で支援先企業の競合優位性を創出する。

 ユニコーンと呼ばれる時価総額10億ドル以上の未上場スタートアップは、日本からはほとんど生まれてきていない。株式会社MyCIPOは、この現状を打破するため、誰もが競合優位性を創れる社会の実現というミッションを掲げて2020年に株式会社MyCIPOを設立。国内唯一のレンタルCIPO(Chief Intellectual Property Officer:最高知財責任者)として多くのスタートアップの知財戦略をサポートしている谷口将仁氏に、知財戦略で競合優位性を創出する方法とその効力について伺った。

知財戦略で圧倒的な競合優位性を創り、会社の将来性を示すCIPOの役割

 谷口氏が知財に関わるようになったのは、新卒で入社したベンチャー企業で新規事業の立ち上げに携わったときの経験がきっかけだ。世界初のサービスを作ったものの、特許をもっていなかったため競合に真似されてしまい、その苦い経験から新規事業の立ち上げと並行して特許出願にも積極的に関わるようになったという。その後、事業における知財面でのキャリアを積むため、沖電気工業株式会社の知財部門に転職する。

「当時は事業部の発明をまとめて、特許事務所に渡す発明提案書を作成していました。事業部の内容をいかにうまくアレンジして、競争優位性をつくれるかが企業知財部の役割です。大企業の知財部門に8年間半務めたことで、幅広い分野の特許出願を経験でき、圧倒的な数をこなしてパターンがわかってきたことが、今に生きていると思います」(谷口氏)

 2013年にはAI・IoT・ビッグデータのソリューションを手掛ける株式会社オプティムのCIPOに就任。参画時の時価総額は70億円程度だったが、上場などを経て一時は2200億円を超えて約30倍以上に成長した。売上高が3倍成長する間に、時価総額は30倍以上に成長し、市場からは将来の成長への期待値が高く評価されている。オプティムでは知財を積極的に活用して、複数の企業や自治体との提携、合弁会社の設立など、自社を中心としたエコシステムを構築している。これにより、ブランド力が高まり、株価にも反映されるという好循環になっているという。

「企業や自治体が提携してくれるのは、知財があるからこそ。知財による競合優位性があるから、いろんな会社が組みたいと思ってもらえる風潮が作れたのです。昨今は技術の進歩が速く、最先端の技術力だけで真似されないようにするのは厳しい。ノウハウを隠そうとしても、人材がヘッドハンティングされてしまえばノウハウが流出してしまいます。そのため、知財を取得して真似されないようにすることが、今の時代には合っています」

 そして、2020年には、日本唯一のレンタルCIPO(最高知財責任者)として、知財戦略で支援先企業の圧倒的な競合優位性を創出する株式会社MyCIPOを設立した。

 谷口氏が知財戦略で重視するのは、圧倒的な競合優位性を創ること。具体的には、「顧客が喜ぶポイントである顧客バリューを徹底的に追求し、その顧客バリューの実現方法を特許で取得して、顧客バリューを独占する」方法だ。

「知財の効果は大小さまざまありますが、企業における最大の効果は『誰にも真似されず独占できる』ということです。従って、企業における知財戦略とは、『何を独占すれば会社が成長するのか?』、『独占した何をどう活用して会社を成長させるのか?』に回答する長期的な計略と言い切ることができます」

スタートアップ経営者と特許事務所のギャップを埋めるのもCIPOの役割

 多くのスタートアップ経営者は知財意識を持っているが、具体的な戦略となると、何を行なえばいいのか迷うことが多い。特許事務所に顧問を依頼したものの、出願ができないままに何年も過ぎているというケースは少なくないと谷口氏は語る。

 このような問題には、経営者と特許事務所との間のギャップがある。経営者としては、特許事務所がヒアリングをしてくれて発明を提案してきたり作ってもらえると考えているが、特許事務所の業務範囲は、特許庁への代理手続き業務、紛争処理業務、訴訟代理業務などであり、発明を提案してきたりイチから作ってはくれないのが一般的だ。スタートアップにおいては、そのようなギャップを埋めるのもCIPOの役割と谷口氏は考えている。

「スタートアップには、知財戦略を策定して指揮執行するのはもちろんのこと、発明をコーディネートできるCIPOが必要です。経営者や事業部からのアイデアは“事業アイデア”としては素晴らしくでも、知財の観点から見ると発明としてまとまっていないので、そのまま特許事務所に伝えても、顧客バリューをする特許や、売上/利益の拡大に貢献する特許にはなりません。だからこそ、出願する前に、事業全体を見渡して、顧客バリューに対して知財戦略を策定して指揮執行し、発明をコーディネートできる『指揮執行CIPO』が必要です」(谷口氏)

 企業活動における知財の明確な効果は、「誰にも真似されずに独占できる」ということにある。そのため谷口氏は、企業における知財戦略とは「何を独占すれば会社が成長するのか?」に回答する長期的な計略だと語る。「CIPO(最高知財責任者)は、知財戦略を指揮執行するポジションですから、『何を独占して会社を成長させるのか?』はCIPOの手腕に懸かっています」

 MyCIPOが、レンタルCIPOで解決する課題は以下の4つだという。

 ①知財戦略を設計し、指揮執行するCIPOが社内にいない
 ②単発の特許出願で終わってしまって知財戦略のレベルに達していない
 ③知財戦略をどのように実践したらよいのか分からない
 ④知財戦略で圧倒的な競合優位性を創りたい

 最初に、支援先企業の経営者や事業責任者と対話して状況を把握して、その事業に最適な知財戦略を設計してから、知財戦略を指揮執行する。知財戦略は、最初から目指す方針を設計することが重要となる。また単発の特許出願では単発の効果しか発揮されない。そのため、支援先の事業において、顧客バリューが何なのかを突き詰めて、それを実現するアイデアを特許として取得し、抜け漏れのないポートフォリオを構築する。

 MyCIPOでは、社内CIPOがしなければならない業務内容を、レンタルCIPOとして全て請け負っている。社内CIPOの立場として業務にあたるため、特許事務所やコンサルティング会社とは異なり、知財戦略を設計するだけでなく、その知財戦略を指揮執行する実務も担う立場だ。社内CIPOの立場だからこそ、顧客バリューを実現する発明を完成させる発明提案書の作成も行なって、知財戦略のノウハウが残るようにしている。

 また、社内CIPOの立場として業務にあたるため、代理手続事業は行なっておらず、企業知財部と同様に発明提案書の完成までは社内で行なって、出願の際には権利化するのに適した特許事務所へ依頼する形だ。弁理士資格を取得しないことで、CIPOとしてはメリットの方が多いと谷口氏。例えば、特許庁への代理手続業務をしないことで、不必要な特許出願には不必要とはっきり言える。そのため、支援先企業にとって本当に必要な特許出願に集中できるという。

 もちろん特許出願だけでなく、その先の権利活用のサポートも重要な業務のひとつだ。「口説きたい相手企業に対して、自社にしかつくれない魅力的な未来を動画などにまとめて、必要な特許を持っていることを示せば、高確率で合意が得られます。圧倒的な競合優位性をわかりやすく提案するのが、アライアンスには効果的です」

 また、競合優位性の根拠として特許を示すために、明確でわかりやすい権利範囲の書き方を心がけ、誰が読んでも同じモノやコトをイメージできるようにしているそうだ。広い権利範囲を取りたいがために欲張ってあいまいな用語を使ってしまうと、相手に伝わりにくくなってしまう。

 結果、支援先企業では、売上/利益の増加、有望企業との資本提携/業務提携、自社中心のエコシステム形成、自治体との包括協定、ブランド力の向上、内閣府/経産省/特許庁から表彰/事例化、有利な資金調達、企業価値の向上といった成果が見えているという。

キーポイントは、「何を独占すればこの会社が成長するのか?」

 このような成果がわかりやすく表れているのが、谷口氏がかかわったオプティムだ。同社は社長を筆頭に会社全体が一丸となって知財戦略に取り組んでいる先進的な企業であり、その成果も大きなものとなっているという。

 たとえば農業×ITの分野なら、顧客が喜ぶポイントして、生産効率化と後継者不足の解決といった顧客バリューをまず定義する。次に、事業部と知財部が連携して、その顧客バリューの実現方法を徹底的に検討して、実現方法に沿った発明提案書を作成して発明を完成させる。単発の技術の保護ではなく、”いかにして将来にわたって知財戦略で顧客バリューを独占するか”を意図として特許を取るからこそ、圧倒的な競合優位性が創れるのだという。

「作れば売れる時代は終わりました。そのため、顧客バリューを提供できない製品は売れません。ユーザーが使いたい機能を特許で護れば、競合他社の製品にはユーザーが使いたい機能が載らなくなる。顧客バリューに基づいて特許ポートフォリオを構築すれば、徐々に競合優位性が創られ、3年継続すれば圧倒的な競合優位性を創ることができます」(谷口氏)

 知財が特殊なバイオ医薬や、基礎研究のみをしている企業を除けば、たいていの事業会社で、この知財戦略は有効となる。オプティム以外でも、同様の知財戦略を進めており、レンタルCIPOを務めているIT・メーカー・物流・建設・インフラ・金融などでも徐々に成果が出始めているという。

 谷口氏が実践するのは、自社が持つミッション・ビジョンと顧客バリューを起点に、そこに知財を巻き込んだ効果的な活用だ。多くのスタートアップの成長を加速させるには、経営者や事業部の頭の中にある事業アイデアを、顧客バリューに落とし込んで発明にコーディネートできるCIPO人材を増やしていくことが課題だと谷口氏は強調する。

「スタートアップのCIPOには、何を独占すればこの会社が成長するのか? に明確に答えられる能力が求められます。また、アイデアや技術を知財に変えるためのヒアリング力・要約力も求められます。CIPOは、そのような観点で設計した知財戦略に基づいて、競合優位を創るための発明を完成させていきます。さらに、プロモーションのしやすさ、他社に真似されにくくするにはどのような特許にするべきかなど、権利活用を意識して発明提案書にまとめるため、さまざまな知識や感性が求められます。

 事業に興味があり、発明をコーディネートできるクリエイティブな能力があり、何を独占すれば会社が成長できるのかに明確に答えを出せるCIPOがスタートアップに増えるといいですね」

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