SUBARUのスポーツDNAの集大成「WRX STI EJ20 Final Edition」の加速に衝撃
2020年09月23日 12時00分更新
世界のレースで揉まれて熟成された走行性能
ノーマルのWRX STIすら乗ったことがない取材班にとって、この最終モデルが最初の出会いとなってしまいました。取材班にとって試乗前のWRX STIに対するイメージは、ちょっと派手な見た目のスポーツセダン程度、イマドキのクルマだから小難しい事は何もないと半分ナメていたことを告白します。動かし始めた途端、それが大間違いであったことに気づかされました。国産車でもココまで硬派なクルマは記憶になく、海外スポーツモデルの、それも〇〇エディションと名の付くスペシャルグレードに匹敵するほどではありませんか!
まず、足がとても引き締まっており、多少の段差でもビシバシ衝撃が体を襲います。スポーツ系サスの硬さに快感を求める人にはたまらない魅力的なもので、取材班も硬めの足が好きなタチではありますが、街中を低速走行しているうちに嫌気がさしてしまったのが正直なところ。ここまで足を硬くできたのは、剛体ともいえるほどボディーがしっかりしているから。きっとこういうクルマでなければ、ニュルブルクリンクで戦えないのでしょう。
加えてステアリングも現在販売されているスポーツカーでも屈指の重ステ。走りだすと「コレイイ」と思うのですが、車庫入れなどでは面食らうことも。しかもステアリングホイールがスエード調素材で覆われていますので、素手で触れると感触はいいものの滑りやすく、家からレーシンググローブを持ってくればよかったと思った次第です。「わかる人が乗ればイイ」というSUBARUの強い意志を感じずにはいられません。
ですが、これらはあくまで街中を法定速度以下で走っている場合のみ。高速道路など高いスピード領域や、路面コンディションがよい場所だと評価が一変。「コレ最高!」に変わります。硬いだけと思っていた足は、剛体という言葉がピッタリの高剛性ボディーと見かけ倒しではない空力と相まって抜群の安定感。スピードバンプもスパスパっと乗り越え、高速コーナーの切れ込みも圧巻の一言。履いているタイヤは「ADVAN Sports V105」というADVANブランドのラインアップではコンフォート寄りに位置するモデルなのですが、まるでハイエンドの「Neova」に履き替えたかと言いたくなるほどの食いつきの良さ。しかもブレーキが国産車屈指といいたくなるほどのフィールと効きの良さが加わるのですから、思わず笑みがこぼれてしまいます。
そこに最後と銘打つEJ20型エンジンのスムーズさとパワフルさ加わります。振動皆無、ハイレスポンスのモーターフィーリングは感動の一言。踏めば心地よき排気音をともなって、どこからでもクルマの車速を載せていきます。特に4000回転からレブリミットの8000回転に至るまでのパワーと吹け上がりは圧巻! 一度体験すると、うずく右足とクルマを抑える理性が勝つか、開放したいという葛藤がドライバーを終始襲います。とりあえず、3000回転シフトの低燃費走行ではなく、一つ下のギアで回した方がエンジンもドライバーも幸せであると断言します。
ちなみに3段階モード切替ですが、街中でインテリジェントモードに設定すると低回転時にトルクの細さに似た扱いづらさを感じた次第。普段からSモードで楽しむことをオススメします。その上となるS#モードはレスポンスがよすぎて、こちらも街中ではちょっと使いづらいかも。ワインディングやサーキットなどでのお楽しみとしてとっておきましょう。
なお、WRX STIには、ポルシェや日産、そしてHondaのマニュアル車が搭載するような、ダウン時に下のギアに自動で回転合わせを行なうレブマチックは搭載していません。またヒルスタートアシスト機能は用意されていますが、他社に比べると効きが弱い印象で、坂道発進時はサイドブレーキを使った方が安心です。その意味でもWRX STIは走りに対しプリミティブなクルマで、MTに慣れていない人にはちょっと辛いかもしれません。
運転して気持ちがよいのは、エンジンフィールやシャシー性能に留まりません。前方視界の広さが、他社のクルマよりも広いのです。それはAピラーが細くドライバー寄りにあるのと、上下方向も十二分に広いから。加えてダッシュボードの反射も少ない様子。この前方視界の広さ、見えの良さはSUBARUの特徴で、結果的に予防安全につながります。近年上下方向の視界が狭いクルマが増えているように感じていたので、一筆書かせてもらいました。
ドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)はクルマ好きの好奇心を煽る面白い機能。簡単にいえば、プラス方向(前寄り)にすると安定感が増し、マイナス方向(後寄り)にするとコーナーのターンイン時の鋭さが増すとともに、どこかクルマの動きに軽やかさが出てきます。使い込むと武器になるのは間違いナシで、効果や効能がわかるまで、設定を変えて同じコーナーを走ってしまうことでしょう。この機能もWRX STI終売とともに消えてしまうことに、悲しみを感じずにはいられません。
ちなみに気になる燃費ですが、カタログではJC08モードで9.4km/リットルとのこと。ですが楽しくて仕方なかった編集スタッフは、ガンガン踏んでしまい6km/リットル以下! しかもハイオク専用車ですので、給油時に顔が青ざめたことを申し上げます。
【まとめ】名機EJ20は終わるが、SUBARUのスポーツDNAは終わらない!
「MT専用車であることも含め、普段の街乗りではちょっと辛い」とは思いつつも、EJ20の素晴らしさとWRX STIの実用性の高さ、面白さ、気持ちよさに「485万1000円(フルパッケージ仕様)は絶対的な価格は高価だが、逆にここまで抑え込んだSUBARUの良心の塊であった」ことを痛感。文頭で申し上げた通り、逃した魚の大きさ(美味しさ)にとても後悔したのは言うまでもありません。
そこで試乗後に中古車サイトでWRX STI EJ20 Final Editionを検索したところ、すでに700万円近い金額でした! コレは無理だとWRX STIの中古車を探したのですが、球数が少なく、多走行車でも値段も新車時と同等という状況に唖然。もはやWRX STIを知らない方が幸せだったのでは、とさえ思えてきます。
WRX STI EJ20 Final Editionは555台の販売台数に対して20倍以上の1万3000件におよぶ応募があったとのこと。それだけの人がSUBARUのMTスポーツセダンを求めたわけです。WRX STIが終売したのは、EJ20をはじめ、古くなってしまったプラットフォームが遠因と思いますが、ドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)技術まで失うのは勿体ない話。次期WRX STIが出るのかどうかは不明ですが、早く復活してほしいと思うのは私だけではないハズ。そういえば今秋レヴォーグの新型が出ますが、WRX STIもレヴォーグのプラットフォームを使っていたということを考えると期待せずにはいられません。STIのエンブレムを纏ったスポーツセダン、早く出てほしいですね。
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