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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第531回

取締役から創業者がいなくなったHP 業界に多大な影響を与えた現存メーカー

2019年10月07日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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収益性の悪化によりCEO交代

 このあたりでHP全体に目を向け直してみたい。1978年にCEOがJohn A. Young氏に変わったという話は連載521回で説明した。そのJohn Young氏は14年間CEO職を務め、1992年に辞任する。

 Young氏は1932年生まれなのでちょうど60歳になった年になるが、単に年齢の問題ではなかった。1980年までの業績は連載521回に示した通りであり、1980年からの業績をまず表にまとめてみた。

HPの1980年からの業績
  総売上 純利益
1999年 423億7000万ドル 39億4100万ドル
1998年 470億6100万ドル 29億4500万ドル
1997年 431億5300万ドル 31億1900万ドル
1996年 384億2000万ドル 25億8600万ドル
1995年 315億1900万ドル 24億3300万ドル
1994年 249億9100万ドル 15億9900万ドル
1993年 203億1700万ドル 11億7700万ドル
1992年 164億1000万ドル 5億4900万ドル
1991年 144億9400万ドル 7億5500万ドル
1990年 132億3300万ドル 7億3900万ドル
1989年 118億9900万ドル 8億2900万ドル
1988年 98億3100万ドル 8億1600万ドル
1987年 80億9000万ドル 6億4400万ドル
1986年 71億200万ドル 5億1600万ドル
1985年 65億500万ドル 4億8900万ドル
1984年 51億5300万ドル 6億6500万ドル
1983年 47億1000万ドル 4億3200万ドル
1982年 38億7100万ドル 3億8300万ドル
1981年 35億7800万ドル 3億1200万ドル
1980年 30億9900万ドル 2億6900万ドル

 1984年は一時的に純利益が急増しているが、これは税制の変更にともない、1億1800万ドルの一時的な利益が出たことに起因しており、これを抜くと実質5億4700万ドルなので、前年から1億ドルほど増えているとは言え、極端に大きなものとは言えない。

 さて、これを見てもらうとわかるが、売上は間違いなく伸びているものの、純利益で言うと1988年をピークにやや下落傾向がみられる。

 下のグラフはこれを見やすくしたものだが、1988年あたりまでは売上と純利益がほぼ似たカーブで上昇していたのに対し、1988年から急速に収益性が悪化している、というのが実情である。

1980~1999年までの売上と純利益

 もっとも1992年の時点ではまだ5億ドルもの純利益があるのだから、十分優良企業として良いとは思うのだが、取締役会としてはそうも言っていられないのだろう。

 Young氏の元では、これ以上収益性の改善が見込めないという判断がCEOの交代につながったものと思われる。

 もっともこの収益性の悪化は一時的なものだ、というのがYoung氏の見解ではあった。というのは1989年あたりから、氏はさらなる収益を目指して多数の企業を買収しており、これによる費用が収益を圧迫したという側面もあるからだ。

 実のところ、HPはYoung氏の買収ラッシュが始まるまで、意外に買収件数は多くなかった。1958年のMoseley Company(プロッター)、1959年のBoonton Radio(計測機器)、1961年のSanborn Company(医療)、1962年のNeely Enterprises(営業/製造)、F&M Scientific Corporation(分析機器)、1966年のData Systems, Inc.(コンピューター)と合計6社だけで、その後23年に渡って買収は一切行なってこなかった。

 ところが1989~1992年にかけては、以下の8社もの買収をいきなり行なっている。

Young氏が買収した企業
年月 企業
1989年1月 Eon Systems Inc.(エレクトロニクス)
1989年4月 Apollo Computer(コンピューター)
1989年11月 Optotech Inc.(ディスクドライブ:ちなみに資産一式のみで会社は買収せず)
1991年1月 Applied Optoelectronic Tech(自動テスト装置)
1991年11月 Avantek(トランジスタ)
1991年12月 ABB CADE(ソフトウェア)
1992年9月 Colorado Memory System(磁気テープドライブ)
1992年10月 Texas Instruments(Computer Systems部門のみの買収)

 それはこれだけ買収すれば利益が減るのもやむなしということなのだろうが、ただこうした買収はしばしばうまくいかなかった。

 たとえばApollo Computerの場合、連載425回でも書いたが買収金額は4億7600万ドルであった。ところが買収の結果、Apollo部門の売上は1989年が5億5000万ドルから1991年には3億6300万ドルに、ワークステーション部門の売上全体も1988年の9億ドルから1991年には7億2500万ドルに減るという始末である。

 なんでもかんでも買収すればいいというものではない、という「良くある話」ではあるのだが、こうした動向を見た取締役会が、そろそろYoung氏ではこれ以上の収益性改善は難しいと判断するのもわかる気がする。

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