比較試聴は、必ず同じ音の大きさですること!!
読者の中にも、音の違いを知るため、比較試聴する人は多いだろう。その際に知っておきたいポイントもいくつかある。ひとつはどの音量で聞くかだ。
すでに書いたように、人間の耳は、中域よりも低域が感じにくくなっている。100Hzの低域を1kHzの音と同じ大きさで聞こえるようにするには、10dB程度も高い音圧レベルが必要だ。この関係を示すため、同じ音に聞こえる音圧レベルを周波数ごとに調べて、作成したグラフを「等ラウドネス曲線」という。さらに注意しないといけないのは、この曲線の形状が音量によって変わる点だ。1kHzの音圧レベルを高くした場合と低くした場合のグラフで、低域の部分に注目すると、傾きが異なっているのが分かる。つまり、低い音量で聞くと、高い音量で聞くよりも低域を感じにくいことが知られている。
また、低域は高域をマスキングする効果もある。マスキングというのは「大きな音が鳴っているときに小さな音が感じにくくなる」「高い音と低い音が一緒に鳴っているときは高い音を感じにくくなる」といった、人間の耳が持っている特性のひとつだ。結果、低域のバランスが変わると、音色にも変化が生じるのだ。
これは実際に試してみると分かる。低い音とその倍の周波数となる高い音(デモではそれぞれ315Hzと630Hz)を用意して、それぞれの音量を変えた場合、低い音を先に鳴らして高い音の音量を徐々に上げていっても低い音は感じ続けられるが、高い音を先に鳴らして低い音の音量を上げていくと、高い音がだんだん感じにくくなっていく。これは振動を電気信号に変換して神経に伝える、蝸牛の構造に関係しているそうだ。
ちなみに、濱崎氏は2つのイヤホンの音を比較する際には、まず最初に響きが少なくシンプルな、楽器のない女性ボーカル曲やニュースを読む男性アナウンサーの声を使って音量合わせをしているそうだ。声の帯域は、音量の変化と音の大きさの変化が均一であるためだという。また響き(間接音)が少ない音源のほうが、音の大きさを合わせるには有利だとする。
イヤーピースを変えると音が変化するように感じるのも、低域のマスキング効果が関係している。密着度が低いイヤーピースを使うと、密閉度が下がり低域が減衰する。低域の特性が変わると、マスキングの状態も変化するため、ボーカルなどより高い帯域の音色にも変化が生じるのだという。