株式会社マクロミルが7月に発表した「ライブコマースに関する調査」によれば、15歳から49歳の男女2万人に対し、「ライブ配信を視聴しながら買い物ができるインターネットサービス(アプリ)を知っているか」と尋ねたところ、全年齢の認知率は29.7%だったとのことです。うち、認知率が最も高いのが10代で40%、続いて20代が37%、30代が30%、40代が22%。10代は40代のおよそ2倍で、ライブコマースサービスは若い世代ほど認知率が高い、としています。
同調査でのライブコマースサービスの認知者5941名に対して、ライブコマースサービスの視聴と購入の経験を尋ねたところ、ライブコマースのライブ配信を視聴したことがある人は41%。「視聴した上で商品を購入したことがある人」は認知している人のなかでもわずか14%であったことが報告されています。
テレビショッピングの延長線でしかないからおもしろくない
若い人ほど認知率が高かった一方、「視聴したうえで商品を購入したことがある人は14%」という数値はまだまだ高いものではないのかもしれません。それでも若い世代ほどライブコマースの認知率が高いのは、インフルエンサーなどの著名人による効果が大きかったのではないかと考えます。
ところが、ライブコマースの現状は、株式会社ディー・エヌ・エーの「Laffy(ラッフィー)」が既にサービスを終了し、株式会社Flattが運営してきた「PinQul(ピンクル)」も後を追うようにサービス終了を表明しています。
相次ぐサービス終了には「ライブ配信を見ながらモノを買うということが日本では成立しないのかもしれない」という声もあります。いまのライブコマースの仕組みではサイト(アプリ)へ誘導してライブ配信を見てもらわなければならないという誘導面でのハードルがあり、ライブ配信を多くの人に見てもらえないという課題もあります。
ただ、それ以上に現状のライブコマースにおける最大の課題は「見ていても楽しいとかおもしろいと感じることが少ない」ということ。見ていておもしろいなぁと思えたものは、まだ片手で数えるぐらいしか出会えていないのです。あくまでも私の主観ですが。
おもしろくないと感じる理由は「ライブコマースの番組がまだまだ“テレビショッピング的”だから」と考えています。
テレビショッピングとライブ配信のいいとこどりを
テレビショッピングは見ていて魅力的に感じる番組が数多くあります誰もが思いつく代表的なものは「ジャパネットたかた」のテレビ・ラジオショッピングでしょう。
番組のMCとして知られる創業者の高田明さんの特徴的な語り口はあの当時とても印象的でした。高田さんが出てお話をしているだけで、つい見入ってしまう(聞き入ってしまう)ことが多かったように感じます。あの独特な人間性だけでなく、販売する側の「熱量」もテレビやラジオ越しに感じる人も多かったのではないでしょうか。実はこの熱量という要素が非常に大事な役割を担っています。
テレビショッピングでは販売する商品そのものよりも、誰がどうやって販売するのかという「販売者」「出演者」のほうが重要だと思っています。商品そのものは言うまでもなく重要です。ただそれ以上に商品が「いかに素晴らしいモノなのか」「なにに便利なのか」「買ったらどう変わるのか」などをわかりやすく、買いたくなるように視聴者をくぎ付けにできるのは販売者や出演者だけなのです。そういう意味では、テレビ・ラジオショッピングのいまのフォーマットは完成されたカタチでもあると思います。
テレビ・ラジオショッピングだけに限らずライブコマースにおいても重要なのは、プラットフォームや商品よりではなく販売者や出演者である「人」であると言えます。しかし、ライブコマースは熱量を伝えられる人を用意するのだけでは足りません。それだけだと、先に言ったように“テレビショッピング的”になってしまいます。
ライブコマースに必要なのは、テレビ・ラジオショッピングの良さに加えて、リアルタイムなコミュニケーションが可能なチャット機能の仕組みやライブ配信の特性を最大限に生かすこと。一方通行なテレビなどの通販番組にはない要素である、「視聴者とのコミュニケーション」というライブコマースならでは要素を入れる必要があると思います。
そうしないとライブコマースは「テレビショッピングの延長線」の域を超えることはできず、「テレビショッピングで十分」という話へなってしまうのではないでしょうか。
そういう意味では、先日この連載でも紹介したTaVisionによる「旅先でセレクトしたファッションアイテムとライブ配信しつつその場でリアルタイムに販売する」というのは、ライブ配信とテレビショッピングを掛け合わせたようないい取り組みになるかもしれないと期待しています。
ライブ配信の新しいジャンル「ライブコマース」は必要なのか?
前々回の記事と前回の記事では、中華圏につづき日本でもライブコマースが注目されはじめているものの、思うように広がらず伸び悩んでいる。そして、勢いが少しずつ失われていっているように感じることを紹介してきました。
ライブコマースという言葉が生まれてからまだ間もないことを考えれば、まだこれからなジャンルです。また、仕組みが広がるまでにはもう少し時間を要するのかもしれません。とはいえ、中華圏では広がっているライブコマースの形はそのまま日本で広がるわけではありません。当初期待していたようにライブコマースは、実際に購入をするまでには広がっていないのが現状です。
ライブコマースにおいては、ライブ配信プラットフォームとECサイトとしてのプラットフォームそれぞれが必要です。これらのプラットフォームは必ずしも一体化する必要はありません。ライブ配信を視聴し、ECサイトに遷移するというのは視聴者(購入者)にとってハードルは結構高いものです。
同様に、配信するプラットフォーム側も綿密な準備が必要です。配信ラインをつくるのは当然、在庫や配送など、単なるライブ配信プラットフォームにはない要素が大量に必要になります。それこそ、視聴する環境は視聴者それぞれですので、タイムラグなどによって購入できなかった、などというクレームもあるかもしれません。
ライブコマースには数多くのハードルが存在していますが、勢いが落ちてきているとしても「ライブ配信の新しいジャンル『ライブコマース』は必要なのか?」と問われたとするならば、「必要」だと思います。
いまのライブ配信にはジャンルが決まったものしか増えておらず多様性がないと感じています。配信内容は「雑談」「ゲーム実況」「音楽」など多岐にわたりますが、ライブ配信そのものにおける新たなものは生まれてきていません。こうしたライブ配信そのものにおける話で言えば、ライブコマースは非常に新しい取り組みです。
もちろんこれはライブコマースに限った話ではなく、ライブ配信を活用した新たなものはどんどん誕生してほしいですし、きっかけがつかめるまでは存続してほしいです。
ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda)
ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com
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