動画の音ズレやフェージングが目立たない
ひとつは動画視聴時の音声のズレ、もうひとつはフェージング。どちらもBluetoothのレイテンシーに起因する問題で、AirPods以前の機種は、この2つの問題を解決できていませんでした。
まず、Bluetoothは一対一のアドホック接続が基本で、左右両方のイヤフォンを同時に再生装置と接続できません。そこで片方のイヤフォンを再生装置と接続し、もう片方へ電波を飛ばしてステレオ再生を実現しています。ここで伝送ルートが増えるために、音声の遅延も通常のBluetooth接続より長くなるわけです。
たとえばスマートフォンのキータッチ音が操作に対して遅れてやってくる、楽器アプリなどは4分音符1個分ほどズレてしまうなど、S-E6にも大きな音声の遅延はあります。音楽だけを聴くなら問題はありませんが、リアルタイム入力とリアクションで成り立つゲームなどには向きません。
ところが動画再生時には、このズレはグッと減ります。技術的な詳細は不明ですが、どうやら音声の遅延に合わせて動画の表示を待機させるような処理が入っているようで、この動作は使用するアプリやスマートフォンのOSに依りません。
ただし、ズレが完全に解消されるわけではないので、映画やドラマなら、音声と唇の動きに若干の違和感はあります。音楽の場合もテンポが上がるにつれ、奏者の動きと音のズレが気になり始める。それでもYouTubeの動画をスマートフォンで観るくらいなら我慢できる程度に収まっています。
そして、もうひとつの問題であるフェージングも軽微です。これはステレオ音声の位相がズレて、音像が左右に揺れ動く現象ですが、イメージしにくい場合はザ・ジミ・ヘンドリックス・ エクスペリエンスのアルバム「エレクトリック・レディランド」の一曲目の、あの音を想起してください。
サンプルがクラシックで申し訳ないですが、フェージングがひどいとなにを聴いても、こうした1960年代末のサイケ調に聴こえてしまうわけです。その原因もレイテンシーで、こちらは左右チャンネル間の信号の遅延が原因です。電波状態の変化で遅延が長くなると音にも影響してくるわけです。
S-E6もフェージングはゼロでありませんが、アルバム1枚聴いて1回感じるかどうか程度で、フェージングの問題はうまく回避しているように見えます。Bluetoothまわりで不満があるとすれば、音の寸断が多いことですが、これはほかの全ワイヤレス機も似たようなもので、仕方ありません。
全ワイヤレスの安さは正義
ちょっと嫌かなあと思うのは、接続中は常にボタンの青いLEDが間欠的に明滅すること。音漏れは軽微ですが、電車の中で耳のあたりをピカピカさせている人というのは、いかがなものなのかと。しかしながら、ちょっと大きい、目立つという点を除けば、大きな欠点はなかったというのが結論です。
そしてなにより安さは正義ということです。ケーブルでつながっていない全ワイヤレスは、価格や性能とは無関係に、左と右が生き別れになるリスクが存在する製品です。いまだにEARINやAirPodsを外で使うのは気が引けますが、5000円なら飲んで騒いだらおしまい。なくしたって、ギリギリどうにか諦められる。おかげで安心してポケットに突っ込んで持って行けます。
イヤフォンを消耗品として割り切るのも気が引けますが、万一のことがあっても心が痛まない程度に安いというのは、庶民の実用品としては大事な性能のようです。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ