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週刊キツカワ 第5回

4号「ロックからのテイクオフ」

デヴィッド・ボウイからパンクの移行は商業ロックへの反動だった

2016年12月18日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 インターネットが普及するはるか前に、インターネットのようなものを作った男がいた。彼の名を橘川幸夫(きつかわゆきお)という。

 大学在学時の1972年に渋谷陽一、松村雄策、岩谷宏らと「ロッキング・オン」を創刊。その後、完全投稿制による雑誌「ポンプ」を1978年に創刊というのが彼の主なプロフィール。彼が辞めて以降のロッキング・オンは当たり前の商業音楽誌になったが、ポンプは最初から現在のソーシャルメディアのプロトタイプのようなものとして設計されていた。早過ぎたインターネットだったのだ。

「おしゃべりマガジン ポンプ!」。発行社は、現代新社。JICC出版局(現在の宝島社)の子会社だった。現代新社は現在は洋泉社になっている。刊行期間は1978年12月から1985年7月まで

 しかし、現在のインターネットはポンプの刊行時に思い描いていたようなバラ色の世界をもたらさなかったし、良くも悪くもソーシャルメディアの雰囲気が世界の行方を左右するような兆候すら見られる。この先、インターネットやメディアはどうなればいいのか。

 よし、早過ぎたインターネットを作った人に聞いてみよう!

 ということで連載第5回は、いよいよロッキング・オンに見切りをつけて、純粋な投稿型雑誌を目指すまでの話。

過去の記事はこちら。
1回目 「ロックはミニコミ」早過ぎるインターネット作った橘川幸夫が語る
2回目 深夜放送はイノベーション、橘川幸夫が語る1960年代のラジオ
3回目 「締切は不愉快」 いま明かされるロッキング・オン創刊秘話
4回目 新しい技術を使って儲けるために知っておくべきコツ

ポンプから生まれた有名人の代表が漫画家の岡崎京子。プロの漫画家としてデビューする以前から常連投稿者として人気が高かった。2015年に世田谷文学館から始まった巡回展示「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」が福岡天神の三菱地所アルティアムで開催中。会期は2017年1月22日(日)まで。彼女のエピソードは橘川幸夫近著「ロッキング・オンの時代」でも読める(画像は公式サイトより)

すべての言葉は語り尽くされている

橘川 1970年代のロッキング・オンって、読者投稿を呼びかけていたから、いろんな投稿が集まったけど、つまんない原稿も来るだろ?

四本 ああ、山のようにね。今は知らんけど。

橘川 写植を覚えたことによって、いろいろ発見するんだけど、まず悩んだことがあるんだ。そのつまんない原稿をそのまま打つのがいい写植屋なのか、おもしろくしてあげるのがいい写植屋なのか。で、俺は機械に徹するんだと、涙を流しながら投稿してきた四本の原稿を打っていたわけだよ。

四本 あはははははは!

橘川 まあ、お前が高校生のときまでの話な。

四本 おかげで、どんなヤバい文章でも書いたまんま活字になるからおもしろかったよなー。

橘川 それで知ったのは、手書きとの違いだ。写植は文字盤にあるものしか書けないんだよ。フォントの制限があるからな。でも手書きって、間違いも含めて無限の種類の文字が書けるんだよ。フォントがないから。ところが写植から始まるデジタルのテキストというのは、すべてが用意されたものの組み合わせであって、オリジナルではない。つまり機械でものを書くのは、コラージュなんだよ。それが大事な話なんだ。

西牧 すべての表現はあらかじめ存在していると。

橘川 その中のひとつを選ぶということなんだ。それまで手書きでやってきた時代の表現者は、自分の書くものはオリジナルだと思っていた。機械で始めるとそれはありえないことがわかる。文字の組み合わせというのは計算できるわけだよ、順列組み合わせで。これが違う。すべての言葉は語り尽くされている。それを私は22歳でそれに気がついたんだ。どうだ、すごいだろう!

どうだすごいだろう! いつもとポーズが違う橘川さんです

四本 ちょっと話はずれるけど、ワープロを使い始めた1980年代の半ば頃は「気持ちが通ってない」「手書きのほうが温もりがある」なんて編集に言われたよね。最終的に活字にするんだから同じなのに。

橘川 俺はさ、写植の打ちおろしで原稿を書いていて、原稿を依頼されると写植で打って渡していたんだ。

西牧 編集者の手間が省けていいですね。

橘川 手紙も写植で打っていたからな。まあ手紙は郵便で送るんだけどさ、君たちよりずっと早く、デジダル技術をプライベートで使っていたんだ。すごいだろ。

西牧 手紙まで写植ですか……。

橘川 昔から極端なんですよ。で、なんの話だっけ?

四本 まだロッキング・オンの話の途中です。

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