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週刊キツカワ 第6回

5号「通信装置としての雑誌」

まるで2ちゃんねる、すべて投稿で成り立たせた雑誌「ポンプ」

2016年12月26日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 インターネットが普及するはるか前に、インターネットのようなものを作った男がいた。彼の名を橘川幸夫(きつかわゆきお)という。

 大学在学時の1972年に渋谷陽一、松村雄策、岩谷宏らと「ロッキング・オン」を創刊。その後、完全投稿制による雑誌「ポンプ」を1978年に創刊というのが彼の主なプロフィール。彼が辞めて以降のロッキング・オンは当たり前の商業音楽誌になったが、ポンプは最初から現在のソーシャルメディアのプロトタイプのようなものとして設計されていた。早過ぎたインターネットだったのだ。

「おしゃべりマガジン ポンプ!」。発行社は、現代新社。JICC出版局(現在の宝島社)の子会社だった。現代新社は現在は洋泉社になっている。刊行期間は1978年12月から1985年7月まで

 しかし、現在のインターネットはポンプの刊行時に思い描いていたようなバラ色の世界をもたらさなかったし、良くも悪くもソーシャルメディアの雰囲気が世界の行方を左右するような兆候すら見られる。この先、インターネットやメディアはどうなればいいのか。

 よし、早過ぎたインターネットを作った人に聞いてみよう!

 ということで連載第6回は、いよいよポンプ創刊の話。いつものように、聞き手は当時を知らない若者代表の編集部西牧くん、同じ話を100万回くらい聞いて飽きている四本のコンビで。

過去の記事はこちら。
1回目 「ロックはミニコミ」早過ぎるインターネット作った橘川幸夫が語る
2回目 深夜放送はイノベーション、橘川幸夫が語る1960年代のラジオ
3回目 「締切は不愉快」 いま明かされるロッキング・オン創刊秘話
4回目 新しい技術を使って儲けるために知っておくべきコツ
5回目 デヴィッド・ボウイからパンクの移行は商業ロックへの反動だった

ポンプから生まれた有名人の代表が漫画家の岡崎京子。プロの漫画家としてデビューする以前から常連投稿者として人気が高かった。2015年に世田谷文学館から始まった巡回展示「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」が福岡天神の三菱地所アルティアムで開催中。会期は2017年1月22日(日)まで。彼女のエピソードは橘川幸夫近著「ロッキング・オンの時代」でも読める(画像は公式サイトより)

建前ではない体験と実感を送れ

四本 まあ、渋谷さんの反応は聞くまでもなく。

橘川 向こうは青年実業家だからな。全部投稿だけの雑誌をやりたい、ヤング文藝春秋をやろうと言ったんだけど、渋谷はロックで勝負するんだ、負けてたまるかと却下されて。それで俺はたまたま写植で仕事をしている出版社があってさ、そこが宝島だったの。

四本 まだ尖ったサブカル誌だった頃のね。

橘川 宝島は、その頃はJICC出版局と言って、地方の県とか市の広報誌を受注していて、儲かってた。日本各地の、行政が出す雑誌とか新聞を、東京で一流のデザイナーとか漫画家を使ってプレゼンして連戦連勝だった。それで、晶文社が出していた植草甚一さんが編集長だった「Wonderland」という雑誌を買ったんだ。それを「宝島」に変えて発行したんだな。

四本 いまでは、誰もしらん話だろうな。

橘川 宝島は月刊誌だったが、なかなか苦労していた。そこで、書籍と雑誌の間のような「別冊宝島」というシリーズを出したら、あたった。村上さんという書店営業の人が、独力で書店の棚を確保したんだ。その別冊宝島の編集をやってた男が、いつも急ぎの写植をうってくれと原稿を持ち込んできたんだな。でも「とにかく急ぐから」とあわてて飛び込んできて、現像が乾くまで時間あるから待ってたのだが、ちょっと麻雀やろうかとなって、麻雀はじめたら、熱くなって徹マンになった。おいおい、急ぎの仕事ではなかったのか?

西牧 おおらかな時代だったんですね。

橘川 それで編集の男と話している内に別冊宝島で企画探しているので、なにかやらないかと言うので、仕事カタログを提案した。100人の、普通の仕事のカタログ。消防士さんとか寿司屋さんとかさ。100人にインタビューして、一冊の本にしたんだ。最初は、月刊誌の方に50人くらいは連載したんだがね。

四本 「みんなのライフ&ワークカタログ」(1977年JICC出版刊)ね。その後の村上龍の「13歳のハローワーク」みたいな。

橘川 俺はそれを1977年にやっていたんだよ。すごいだろう。

四本 はい、はいはいはいはい。

橘川 で、その別冊はそこそこ売れて、なにかもっとないかと。だったら、俺は雑誌をやりたい。ロッキング・オンからロックを外した全面投稿型のメディアを作りたいと。それで、ポンプを始めたんだ。

西牧 おお、やっと本題ですね!

橘川 四本、お前の後ろの本棚にあるぞ、ポンプ。

四本 あー、どれどれ。

西牧 これですか。

これが記念すべきポンプ創刊ゼロ号

橘川 これは創刊ゼロ号。当時はビックリハウスなんかも投稿を売りにしていたんだけど、基本的に投稿はオマケなんだよ。ほかに編集ページがあって、投稿ページにも力を入れてます、という形でやっていたわけだ。でも全部が投稿しかないという雑誌はなかった。ね、そうでしょ。テキストも写真もイラストも全部投稿なんです。そうそう、創刊0号の表紙の女の子は、当時のロッキング・オンでバイトしてた、ゆみちゃんね。

西牧 なるほど、確かにそうですね。

橘川 ポンプは体験と実感がベースなんですよ。自分の体験したこと、自分の実感したこと。それを募集したんだ。つまり、建前の話は止めてくれと。イデオロギーとか宗教とかね。

四本 その後のネット掲示板でやっちゃいかん話題と一緒だ。

橘川 中身はどうでもいいから、個人的にいま流行っていること、おもしろいことを教えてくれと。それをジャンルごとにアーカイブとして分けていく。たとえば友達の話とか、自分の先生の話とかね。それで「先生の通信簿」という、学校の先生の悪口ばっかり言ってるコーナーを作ったり。

西牧 最初からそういう枠を作って募集したわけじゃないんですか?

橘川 集まったものでフレームを作っていったんだね。まず「ボイスプール」という枠があって、これは分類できないものを載せる。ポンプだから、まず吸い上げたものを貯めておくプールが必要だろ。ボイスのプールなんだ。そこから、分けられるものを分けていく。ひとつは自分の「生活」。衣食住だね。もうひとつは「関係」。友達とか先生、学校とか職場とか、人と人との関係。もうひとつは「社会」。メディアとか政治とか。そういう風に分けていったんだ。

創刊ゼロ号の最初のページ「ボイスプール」

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