『進化するプラットフォーム』監修 出井伸之氏(クオンタムリープ)インタビュー
「トラブルが楽しくてしょうがない!」自分の枠を超えた30代の野心~出井伸之氏
2015年10月30日 18時00分更新
左遷された“文系社員”が“理系企業”ソニーのトップに立つ
「一番言いたいのは、理系も文系もないということ。それまでずっと文系の仕事をしてきたけど、エンジニア組織である事業部のトップになろうと、30代の終わりに考えたんだ」
1995年から10年間にわたりソニーのトップに立ってきた出井伸之氏はそう話す。
新しいIT・ネットワーク事業を次々と立ち上げ、独自のAV/IT路線を展開し、ソニー変革を主導した。この間目指したものは、今でいう“プラットフォーム企業”への変革だった。角川インターネット講座の第11巻『進化するプラットフォーム』では、監修者として自身が考える「これからの日本に足りないところ」を本音で明かしている。
パソコン「VAIO」、フラットテレビ「WEGA」、そして「PlayStation」など数々のヒット商品を世に出しながらも、モノだけでないプラットフォーム企業としてのソニーの姿を模索した出井氏。政治経済学部出身の“文系社員”は、いかに“理系のソニー”のトップに立ったのか。
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「楽しかったよ、何も上手くいかないんだもん」
今から47年前、30代の出井氏はフランスにいた。ヨーロッパの販売会社ソニー・フランスを立ち上げるため、パリを訪れていた。
「どうやってソニーがフランスに入り込むかを考え、最も目立つシャンゼリゼ通りでショールームをオープンさせようとしたんだ」
当時のフランスは学生運動の最中でほぼ鎖国状態。日本企業の投資は受け入れてもらえない。製品の輸入規制もある。結局、出井氏はスエズ銀行とのジョイントベンチャーとして、ソニー・フランスを設立した。これは、3年後の買取条項を付けた、スエズ銀行との金融ディールだった。
入社同期がイギリスやドイツで早々に販売会社を立ち上げる中、焦り、苦しみながらも、なんとかソニー・フランスを立ち上げた出井氏。とんでもない逆境に立たされた当時を“楽しかった”とけろりとした顔で言ってのける。
「楽しかったよ、何も上手くいかないんだもん。フランスでは本当に様々なことを学んだね」
その後、1973年に本社に戻ってきた35歳の出井氏に、ロジスティックス部門への異動辞令が下る。フランスでの金融ディールが本社の怒りを買ったのか、左遷とも考えられる異動だった。だが、「左遷」された先で見たものが出井氏の人生に大きな影響を与えたという。
それはトラックとコンピューターでシステマティックに製品が配送される現場。生産・販売・在庫はすべて数字で管理され、売り上げにつながっていた。コンピューターのはじき出す“裏側”の世界に触れ、これこそ会社の現場なのだと実感した。
物流を知った出井氏が次に手掛けたのは、テレビ工場の海外移転だ。
ソニーの売上が200億円から4兆円に急成長した時代
「自分も同じペースで成長しなければ」
当時、日本企業が海外工場にノウハウを輸出することは珍しく、出井氏は製造ラインを工程別にプロセス化することから始めることになる。製造ラインを動画で撮影して、暗黙知になっていた工程の“見える化”を推し進めた。
「それまで“匠の世界”だったものを見えるようにした。(工場の職人たちからすると)まるで外国人が来たような扱いだったけど」
当時はソニーが爆発的に成長した時代。出井氏の入社時は200億円ほどだった売り上げは4兆円近くまで伸びていた。とてつもない成長を目の当たりにしながら、出井氏は“販売・生産・管理”のノウハウを身に付けていった。
しかし出井氏自身は文系的なキャリアへの限界も感じていた。
メーカーはやはり技術者、理系的キャリアの人間がプロダクトを生み出す世界。今のままでは会計、経理、営業のいずれかで終わってしまう。ただ出来上がったモノを言われるままに売っているだけではダメだ、会社の仕組みを知るものとして事業をつくらなければならない。
「だから、それまでずっと文系の仕事をしてきたけど、エンジニア組織である事業部のトップになろうと30代の終わりに考えたんだ」
そして出井氏はオーディオ事業部長に立候補することにした。
(次ページでは、「CDからHitBitへ。そして伝説の講演に立ち会う」)
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