ハイエンドカードにしては温度が低め
水冷クーラーはかなり冷える
気になる熱および消費電力を検証する。TDP 275W設計とはいえ、専用水冷ユニットがあるのだから、それなりに冷却は期待できそうだ。Radeonの場合GeForceのような温度に反応するGPUクロックのブーストはないが、低いに越したことはない。
テストは「ウイッチャー3 ワイルドハント」をプレイしたまま30分放置し、その際の温度変化を「HWiNFO64」で記録した。GPU温度とGPUクロック、GPU温度とファン回転数という2つの軸でチェックしてみよう。
さすがに水冷ユニットを使っているだけあって、GPU温度の上昇カーブは(空冷に比べると)かなり緩やか。10分程で温度はピークに達するが、それでも64度でほぼ安定する。
クロックは所々でスパイクのように低くなっている箇所があるが(HWiNFO64側がきっちり読み切れてない可能性もある)、ほぼ1050MHzで安定。
一方ファン回転数は最高1330回転がピークなので、ファンノイズはほとんど聞こえないレベルだ。
サーミスタ式温度計を使い、もう少し温度をチェックしてみたい。温度計のセンサーをカードの裏側中心部およびラジエーターの排気側(表面から約1cm)に固定し、ゲームプレイ30分後の値をそれぞれチェックしてみた。
水冷ユニットの冷却力が強力なせいか、カード裏の温度は56度とハイエンドカードにしてはかなり低い。TITAN XやGTX980Tiだと触れないほど熱くなるのに比べると、冷却はかなり上手くいっているようだ。
ラジエーター側面や排気温度はカードとほぼ同程度の温度まで上がるため、ラジエーターをケース前面に組み込むのは避けるべきだろう。
しかし今回テストしたFury Xカードはポンプの音とコイル泣きが大きい。特にゲームのタイトル画面などでフレームレートが極端に上がるとGTX980Ti以上に“キュー”というコイル泣きが耳につく。細部への作り込みに関しても、まだFury Xは発展途上というべきだろう。
ラストとなる消費電力測定だが「Watts Up? PRO」を用いシステム起動10分後(アイドル時)および3DMarkの“Fire Strikeデモ”プレイ時(高負荷時)の値を比較する。
アイドル時は“高性能な分やや高いかな”程度だが、高負荷時はR9 290Xを超えトップに。
Tongaの延長線上にあるGPUとはいえ、GCNという基本設計は同じ、かつ4096基ものSPを抱えているのだから当然の結果といえる。ただR9 290Xを大きく超えていないのは、メモリーが低クロック化した影響と考えられる。
Radeonの選択肢が増えたのはいいことだ
ここまでFury Xを色々な角度から見てきたが、残念ながらFury Xの凄さ……換言すればHBMメモリーを使った世界初のハイエンドGPUの凄さは体感できなかった。
PCゲームにおけるほとんどのシチュエーションにおいて、GTX980Tiを超えることはできなかったし、Ultra 4K環境ではHBMの帯域よりもVRAMの少なさが足かせになったシーンをたびたび目撃した。
しかしFury Xはほぼ20ヶ月近く放置され続けたシングルRadeonのフラッグシップをようやく置き換え、GeForceの上位GPUと比較するに足る性能を得た、という点で多いに評価すべきだろう。
HBMを採用することでビデオカードもここまで小型化できる、というビジョンも見せてくれた。AMDはこの製品の開発に7年(!)もの歳月を費やしたとうたっているが、それだけの重みを感じられる出来。ビデオカード史におけるマイルストーン的存在だ。
だが価格の割に性能が今一つ伸びないことや、コイル泣きなどのツメの甘さ、そして何より流通量の絶望的な少なさは残念というほかはない。
流通量の少なさはフラッグシップモデルであることのほかに、HBMメモリーの歩留まりの悪さにあると考えられる。AMDはFijiコア+HBMメモリーを使ったエントリーモデル「Radeon R9 Nano」を今後投入予定だというが、エントリーモデルにふさわしい流通量が確保できるのか不安になってくる。
GeForceに勝つ・負けるは別の話として、GPUの選択肢にRadeonが残るよう、しっかりとした供給体制確立と製品のコンスタントなアップデートをお願いしたいものだ。
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