2Kテレビなのに4K相当の画質を実現
その秘密は「MPD」技術にあり!
さっそく、XL9シリーズや4Kテレビの「UD1」シリーズの画質を担当したデジタル情報家電事業本部 AVシステム開発センター 第四開発部 画質開発グループ チーフの小池晃氏に、「クアトロン プロ」の秘密を聞いてみることにした。
まず、おさらいとしてシャープの液晶パネルの画素構造について解説しよう。シャープのパネルはVA方式で、クアトロンでは1つの画素をRGBY(赤、緑、青、黄)の4つで構成。さらに上下が2つのサブピクセルに分割されている。
つまり、正方形のひとつの画素を、横4つ、縦2つに分割しているわけだ。サブピクセルとして画素が上下に2分割されているのは、VA型が苦手とする視野角を改善するため。これは「マルチ画素駆動」(MPD)技術と呼ばれるもので、クアトロンが出る以前の10年近く前から採用されている。
小池:「VA型の液晶パネルには、階調によって視野角の変化が目立ちやすい部分があります。仮に輝度30%(数値は現実の値とは異なる)として、上のサブピクセルで視野角の影響の少ない40%の階調を表示、下のサブピクセルで同じく20%と個別に輝度を変えて発光させます。すると1画素では30%の階調が表示でき、視野角の影響も抑えられるわけです」
小池:「クアトロンの4原色を構成するサブピクセルを個別に発光させるとRGBだけで白~黒の輝度を表示でき、さらにBとYでも(赤と緑の波長を含むため)白~黒の輝度を表示できます。人間の目はGとYを明るいと感じる傾向があり、RGBとBYの発光では2ヵ所が光っていると感じるわけです。これを利用して、横方向の解像度を2倍相当にしたわけです」
上記から、クアトロンでは1画素でも縦方向のサブピクセル駆動で2倍、RGBとBYの発光制御で2倍。合計4倍のエリアで輝度を表現できることになる。だから「4K相当」というわけだ。実際には、RGBの白とBYの白は色味に違いが出てしまうので、RGB発光ではBの発光量を加減し、BY発光では補助的にRも加えることで同じ白の再現を行なっているという。
画質的な印象は後で詳しく述べるが、原理的には4Kの情報量のうちの輝度情報だけはきちんと4Kで表現できるが、色情報についてはフルHDと同じとなる。つまり、4K解像度だが、色の情報はフルHDと同じなので4Kの1/4ということになる。これが「4K相当」の定義と考えてよいだろう。
小池:「色情報よりも輝度情報の方が人間の目が感知しやすいという仕組みは、昔からわかっていることです。アナログ放送時代のNTSC方式のカラー放送も、輝度信号(モノクロ映像)に帯域を圧縮した色情報を重ねて放送していましたし、VHS方式も同様に色信号は情報量を制限しています。S-VHSなどのハイバンド化も記録帯域を伸張したのは輝度信号だけで色信号はVHSと同じままでした。現在のブルーレイソフトでも、映像信号はY:Pb:Prで4:2:0(Yは輝度信号、PbとPrは色差信号)という比率です。これは輝度信号に対して色信号は1/4に圧縮されているという意味です」
だから、最新のBD再生機器では圧縮された色信号をどう復元するかが重要になってくる。色情報は1/4のままでいいというわけではない。とはいえ、人間の視覚的な特徴からすると、輝度情報さえ4倍になっていればかなり4Kパネルに近い表現ができるということだ。コストのかかる4Kパネルではなく、従来のフルHDパネルで実現できる技術としてはかなり大きな価値があると考えていいだろう。
特に、XL10の映像では、細かな模様の再現や斜め線のギザギザ(ジャギー)低減といった輝度に関係する精細感の向上が大きな特徴となる。
クアトロンのRGBYという色の並びはもともとこの4K相当の表示を意識して決められたものだという。例えば、「RYGB」(色の波長の長さに準じた配列)だとした場合、Yを中心とした輝点とGを中心とした輝点が近すぎて4つの輝点にならないという。
つまり、クアトロンの登場初期からクアトロン プロのアイデアはあったわけで、ようやくそれが実現できたというわけだ。
さらに言うと、この仕組みは液晶テレビならばどの方式でもできるわけではない。IPSパネルは視野角に有利なこともあり、サブピクセルを持たない構造だし、同じVA型でも他社製パネルの場合は短冊状にサブピクセルを分割せず、画素形状が山形(<<<を縦にしたイメージ)となっているものがあり、この場合も4つの輝点を作り出すのは難しいという。
すなわち、シャープの液晶パネルならではの技術ということで、モスアイパネル同様に、他社のフルHDテレビと比べて大きなアドバンテージになるだろう。